イスラエルが「ハマスの提案」を拒否するのには理由がある

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が2月9日、ニッポン放送「小永井一歩のOK! Cozy up!」に出演。イスラエルのネタニヤフ首相が拒否したハマスからのガザでの戦闘休止案について解説した。

記者会見するイスラエルのネタニヤフ首相=2023年10月28日、中部テルアビブ(ロイター=共同)

記者会見するイスラエルのネタニヤフ首相=2023年10月28日、中部テルアビブ(ロイター=共同)

ガザ休戦、イスラエルのネタニヤフ首相がハマスの提案を拒否

パレスチナ自治区ガザ地区への軍事侵攻を続けるイスラエルのネタニヤフ首相は、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが戦闘休止や人質解放に向けて提示した条件を「妄想」だとして拒否する考えを示した。

小永井)ネタニヤフ氏は会見で、「ハマスの妄想的な要求に屈しても人質の解放につながらないだけでなく、新たな虐殺を招くだけだ」と述べ、「絶対的な勝利」達成のためハマスとの戦闘を続けると明言しました。停戦への道のりは通そうです。

宮家)イスラエルからすれば、ハマスは2006年に事実上の権力をガザで握ってから、一貫して民間人を犠牲にし、人質を取ってでも「イスラエルを殲滅する」と言って戦っているわけです。

話し合いは続くが、イスラエルが簡単に提案を受け入れることはない

宮家)1000人以上の犠牲者を出した10月7日のハマスによる攻撃以降、イスラエルの多くの人は、パレスチナ人に犠牲が出ることはわかっていても、とにかく「元から絶たなきゃだめ」、ハマスを殲滅しなければならないと思っているのです。それが今も多数派だと思います。ハマスは「135日で人質を全部解放する」と言うけれど、人質を解放すれば戦闘は中止になる。つまりイスラエルから見れば、ハマスが勝つことになるのです。

小永井)ハマスが勝つ。

宮家)となると、イスラエルは絶対に受け入れないと思います。「2~3週間で解放する」という条件であれば話は別ですが、2~3週間で人質を全部返してしまったら、今度はハマスに切り札がなくなるため、絶対にハマスはそんなことはしません。全員解放した途端、イスラエルに徹底的にやられてしまうのは分かり切った話だから。人質がいるからまだこの程度で収まっているわけです。今双方ではこうした駆け引きが続いている。具体的な提案も出てきたので、話し合いは続くと思いますが、そう簡単にイスラエルは提案を受け入れないと思います。

ガザ北部へ住民が帰還しても、ハマスも戻るのだから受け入れることはできない

小永井)ハマスが今回提案した戦闘休止案は、第1段階としてガザ北部の住民の帰還。第2段階に、イスラエルのガザからの完全撤退が入っています。イスラエルからすると、「ここまで攻めたのに」となるのでしょうか?

宮家)そうです。北に全部戻ると言っても、パレスチナの住民は戻るけれど、ハマスも戻るわけです。そうするとイスラエル的に言えば、また(対イスラエル攻撃の)準備をするわけですから、冗談ではない。ハマスが武装解除して安定したガザをつくるならわかるけれど、また戦争の準備をするのであれば、絶対に受け入れません。少なくともネタニヤフさんの頭のなかではそうだと思います。

イスラエル軍が迫るラファには約150万人が避難

小永井)イスラエル軍はガザ最南都市のラファに迫っているようですが、ここには150万人ほどが避難しています。

宮家)全部で200万人ぐらいしかいないのに、みんな逃げてきたわけですから、当然多くがそこにいます。しかも民間人だけ、非戦闘員だけがいるわけではなく、ハマスの戦闘員もそのなかにいるのです。要するにそこは人民の海ですから。イスラエルからすれば、そこを攻撃しなくては意味がない。本当に議論は不毛なのですが、どちらにも言い分があって、おそらく当分は戦闘が続くと思います。

小永井)ラファに避難している住民は、「南部に行け」と言われて逃れたはずなのに……。

エジプトが避難民を受け入れない理由

宮家)南部に行ったのならば、「エジプトに逃げればいいのではないか」と思うではないですか。

小永井)南で国境を接しています。

宮家)なぜ逃げないのかと言うと、エジプトが入れないからです。同じアラブであり同胞なのだから入れてあげればいいではないかと思うけれど、理由があるのです。簡単に言えばエジプトの国内問題です。シナイ半島では既にエジプトの反体制派が跳梁跋扈、武装闘争を進めています。そんなところにパレスチナ人が入ってきたら、さらに混乱します。だからエジプトはパレスチナ人に来て欲しくないので、国境を開いていない。

小永井)そうなのですね。エジプトは逆に流入防止で「北部へ戻るように」と言っています。

宮家)北部に行ったら、今度はレバノンがあるではないですか。レバノンにはヒズボラがいますから。昔、パレスチナ解放機構(PLO)はレバノンに逃げたのです。その後、レバノンでイスラエルによるPLO掃討作戦があり、PLOはチュニジアに逃げた・当時のアラファト議長も一緒に行ったわけです。残念ながらこの戦争は昨日始まった訳ではないので、ありとあらゆる手段が尽くされた結果、こうなっていると考えてください。

戦いはまだ続く

小永井)この戦いはどのくらい続くのでしょうか? イスラエルは「ハマスを殲滅する」と言っていますが、そもそも可能なのでしょうか?

宮家)似たような市街戦をイラクのモスルで行ったときは、ISISを掃討するのに9ヵ月掛かりました。今回も最低数ヵ月は掛かると言われています。今はまだ始まって4ヵ月ぐらいですから、まだまだ続くと思います。

小永井)なるほど。

宮家)ただ、上手くいくかどうかはわかりません。仮に殲滅したとしても、完全に根絶やしにはできません。当然、パレスチナ側には不満や恨みが残って、その息子・娘たちがハマス2号3号になっていくのです。ですから問題解決にはなりません。それはみんなわかっているけれど、他に方法がないからやっているのです。本当は、イスラエルとパレスチナが話し合って、パレスチナ独立国家をつくり、それをイスラエルが承認し、両国が共存するしかないのです。しかし、残念ながらそのチャンスを2000年に失って以来、この状況が続いているのです。

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