今年から11月8日が「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を考える日」に制定されたことを記念するイベントが都内で行われた。“11”を両親の姿、“8”を遺伝子の形に見立て、HBOCを日本人にもっと広く知ってもらいたいという願いが込められている。
あなたは「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」という名前を聞いたことがあるだろうか。おそらく「初めて聞いた」と答える方の方が多いと思う。一方で、2013年、俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、両側の乳房を切除したというニュースを覚えている人は多いのではないだろうか。この決断のきっかけとなったのが遺伝子検査を通してHBOCと診断されたことだった。
「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」とは、私たち誰もが持っている遺伝子に生まれつき変化があり、
乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが高くなる体質のことで、英語名である「Hereditary Breast and Ovarian Cancer」の頭文字をとってHBOC(エイチビーオーシー)と呼ばれる。一般的に乳がんの約4~5%、卵巣がんの10~15%がHBOCに起因するとされ、“若い年齢で乳がんを発症しやすい”“乳がんと卵巣がんの両方を発症するリスクが高い”という特徴がある。なお、HBOCと診断されても必ずがんを発症するわけではない。
現在、日本人の乳がんに対する関心は高いものの、その原因となるHBOCの認知度はまだ低い。米・ソルトレイクに拠点を持つ遺伝子検査・精密医療会社のミリアド・ジェネティクス(Myriad Genetics)が、20歳から60歳の日本人女性1000人を対象に行った調査によると、約7割が「知らない」と答えている。
この「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を考える日」の制定について、ミリアド・ジェネティクス合同会社・代表の倉岡俊介氏は「HBOCの啓発活動の転換期になると考えている」と述べた。
また、HBOCを取り巻く日本の制度は日々進展している。2020年からは一定の条件を満たす人に、HBOCの検査やリスク低減手術に保険が適用されるようになった。また、横浜市では今月から、家系にHBOCの人がいる方を対象にした検査費用等の助成が、全国で初めてスタートした。各医療機関では遺伝子にまつわる疾患や体質について専門知識を持った「遺伝カウンセラー」と呼ばれる人達の在籍が進んでいる。患者やその家族が安心して納得のいく治療に臨めるよう相談に乗ってサポートをしてくれる存在だ。
がん研有明病院 臨床遺伝医療部長の植木有紗先生は「(保険適用で)パラダイムシフトが起きた。保険診療になったことで当院でも年間700~800人の方が検査を受け、10%程度の方に“がんとの関連が強い変化が遺伝子にある”と分かり、その後の治療や家族の健康の対策にもつながっている」と話す。
もしも自分や家族ががんだと告げられた時、急な不安を感じる人がほとんどだと思う。だからこそ、正しい情報を少しでも持っていることで、受け止め方も変わってくるはずだ。それが“遺伝によるものか否か、調べる方法がある”と知っているだけでも、家族の健康を考えていく上で大切な情報になる。気になった方はぜひこの機会にHBOCについて調べてみてほしい。
もっと知りたい方へ
HBOCに関する詳しい情報を知りたい方は、以下のリンクからご覧いただけます。
https://shiritai-hboc.jp/