新幹線開業の影響などもあり、大幅に数を減らすことになった北海道の普通列車。
非電化区間では、国鉄時代からの「キハ40」が今なお現役、主力として活躍しています。
私がしばしば訪れているこの駅でも、残念ながら日中の列車が削減されました。
それでも北海道の普通列車では、古き良き懐かしい旅が楽しめます。
ぜひ新幹線と組み合わせて体感してほしいのが「北海道の普通列車の旅」なんです。
私が降り立ったのは、北海道八雲町にある、函館本線「落部(おとしべ)駅」。
3月25日までは函館行の快速「アイリス」が停まる駅でしたが、ダイヤ改正で快速は普通列車に格下げ。
下り長万部(おしゃまんべ)方面は「6:52、10:27、14:06、16:59、19:16、21:22」の6本。
上り函館方面は「7:31、9:29、14:16、17:08、19:06、22:21(森止)」の6本のみとなりました。
それでも力強く咲くタンポポの花のように、駅では地元の方が手作業できっぷを発券してくれる温かい駅です。
私が「落部駅」をしばしば訪れているのは、駅から10キロほど山あいに入った温泉へ行くため。
当サイトでは「4/1」の記事でもご紹介した「温泉旅館 銀婚湯」を1か月ぶりに訪ねてみました。
落部駅の列車に合わせて送迎してくれる銀婚湯ですが、前回はかなりダイジェストでしたので、今回は少しボリュームアップしてお届け。
大正天皇の銀婚式の日にお湯が湧いたことにちなんで名づけられた「銀婚湯」。
多くの温泉好きがスタンプを集めている「日本秘湯を守る会」の宿としても有名です。
ココに泊まる以上は、ゼッタイ楽しみたいのが宿泊者専用の「貸切露天風呂」めぐり。
貸切露天に入るにはロビーで露天の「入浴札」を借り、落部川に架かる吊橋を渡って10分前後歩いていきます。
この1か月ですっかり宿の周りの雪も消え、宿の敷地内を流れる落部川も雪解け水で水量が増した状態。
なお、札を途中でやり取りするのは禁止されており、入浴後は一旦ロビーに戻って返却、別の露天の札を借りなければなりません。
このため「貸切露天めぐり」をするだけで結構な運動量になり、実に健康的な宿泊が出来る訳です。
銀婚湯には「どんぐりの湯」「トチニの湯」「もみじの湯」「かつらの湯」「杉の湯」という5つの貸切露天があります。
実はチェックインした時から「入浴札」争奪戦が始まってしまうことも・・・。
繁忙期には部屋でひと息してから徐にロビーへ行くと、すべての露天の入浴札が貸出中のこともあります。
訪れた日は既に1つの露天しか空きが無く「もみじの湯」からのスタートとなりました。
川のせせらぎと共に、重曹の成分が入った独特のお湯の匂いに癒されます。
そして、この風呂に入らずして「銀婚湯」からは帰れないのが「トチニの湯」。
今回はロビーで1時間弱スタンバイして、ようやく入浴が叶いました。
49.9℃、成分総計8622mg/kgのナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉が毎分12リットル湧出の「川向2号泉」。
先ほどの「もみじの湯」より濃厚で加水なし、ただ注がれ、ただ溢れていく、何度入っても素晴らしい「トチニの湯」です。
なお、この丸太の風呂の奥にもう1つ、広めの浴槽もあります。
【お品書き】
きのこおろし和へ
いもポタージュ
うど酢味噌
鳥白ロース
桜大根
西京焼
湯葉
花豆
チーズ真丈
れんこんきんぴら
落部産の刺身
サーモンソテー和風ドレッシング
高野どうふ博多ほうれん草
はさみ揚げ 大根の天ぷら かぼちゃ
鶏鍋 松永さんの玉子
わらび胡麻和へ炊き込みご飯
味噌汁
水菓子
夕飯は18時ごろから、1階の食事処でいただきます。
食事処はそれぞれ仕切られているのでプライベートな雰囲気で楽しめます。
画像の「鶏鍋」は3人前、かなりボリューム感がありますね。
今回は温泉好きのメンバー6人ほどでお邪魔しましたが、1人泊の場合は部屋食となります。
翌朝は6時ごろから、再び貸切露天を利用することが出来ます。
吊橋を渡る前、かつら並木の中には「かつらの湯」「杉の湯」の2つの露天があります。
このうち「かつらの湯」は大きな石の上をくり抜いて作られた”高床式”な露天風呂。
一方の「杉の湯」は庵のような佇まいで、雨天や虫の多い時期には心休まる露天。
朝の冷たい空気を思い切り吸い込んで、美しい桂並木を歩くと、気持ちいい目覚めとなりました。
北海道の青い空を映し出す「かつらの湯」にしずしずとお湯が注がれていきます。
ここも「もみじの湯」と同じ源泉が使われており、重曹の匂いが強めのお湯。
74.5℃、ph7.3、成分総計7606mg/kg、泉質はナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉。
お湯の成分は濃いめなので、入り過ぎに気を付けながら、体がじんわり温かくなってきたところでチャージ完了!
貸切露天風呂はいずれも2人くらいで利用するのがちょうどいい大きさなので、気がおけない人と一緒に入るのがよさそうです。
朝食は7時台から9時までにかけて、1階の食事処でいただきます。
列車の時間から逆算すると、函館方面へ出るなら7:30頃、長万部方面なら8:00頃でよさそうです。
目玉は、銀婚湯近くの松永農場で作られた「松永さんの玉子」と、毎年3月ごろに浜で獲って来たものを使っている「みみのり」の味噌汁。
最近は濃い色の黄身が多い中で「松永さんの玉子」はとてもピュアな気持ちにさせてくれるレモン色の黄身。
そして「みみのり」は、なんとも言えないぬるぬるの食感がたまりません。
玄関の脇で、一匹のまだ子供と思われる猫と会いました。
この銀婚湯、猫が集まってくる宿としても知られ、動物好きにはたまらない宿です。
玄関を掃除する竹ぼうきの中に気になる獲物でもいるのか、子猫が竹ぼうきと格闘中。
この後5~6分にわたって、動くはずのない竹ぼうきにちょっかいを出し続けていました。
湯力のあるお湯で癒され、食に満たされ、猫にも癒される銀婚湯です。
銀婚湯のご主人自ら、落部駅までお送りいただき、今回は9:29発の函館行きに乗車。(この列車の話はまた次回)
3/25まで落部発の函館行は9時前に快速、11時台に普通があったのですが、ダイヤ改正で統合され9:29発の普通1本になり、次は14:16までありません。
実は3月に訪れた時は、朝9時前まで「トチニの湯」に入れなかったため、泣く泣く9:29を見送ることに・・・。
結果、10:27発の長万部行で八雲へ抜け、八雲から特急列車で新函館北斗に戻るというトラベルミステリー的な展開になりました。
実はコレでも、新函館北斗からの上り新幹線は「はやぶさ22号」で変わらないんですよね。
そんな温泉旅と駅弁を上手く組み合わせるなら「食がかぶらない」ようにすることが重要。
今回「銀婚湯」の宿メシは和食が基本でしたから、肉系、洋風の味のものをチョイス出来ると旅にバリエーションが出てきます。
例えば、新函館北斗駅に出来た「BENTO CAFE 41°GARDEN」の「北海道 肉敷き牛ステーキ弁当」をチョイスしてみては?
八戸の駅弁屋さん「吉田屋」が手掛けている「BENTO CAFE・・・」では、様々なおかずを組み合わせて作る弁当が注目されています。
でも、実はそれ以外にも、多数のオリジナル”駅弁”が投入されているのです。
見よ、ご飯が見えないくらいたっぷり敷き詰められた北海道産牛のすき焼き肉。
その上に「サロマ黒牛」のミスジのステーキがどっしり鎮座しています。
「サロマ黒牛」は北海道・オホーツク海沿岸の佐呂間町にある企業が手掛けており、北海道生まれの交雑種(ホルスタインのメスに黒毛和牛のオスを掛け合わせた牛)を仔牛の時から育てた肉牛とのこと。
赤肉の美味しさとサシのバランスがよく、それぞれの「いいトコどり」をした肉とも言えそう。
また、ミスジとは肩甲骨の内側の希少な肉で、普段あまり動かない部分のため柔らかく「幻の肉」とも言われています。
面白いのは、たっぷりのすき焼き肉を掘り起こしてみると、ご飯がチキンライスなんです。
正直、ご飯単独でも十分過ぎるほど食が進んでしょうがないくらい。
恐らく、函館エリアの旅では、魚介類を中心とした食事が多くなるかと思います。
その中で、このチキンライスの食感が「非日常」から「日常」への程よい架け橋になってくれそう。
「北海道 肉敷き牛ステーキ弁当」、新函館北斗から東京へ戻る時に新幹線でいただきたい駅弁にピッタリかと思います。
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/