シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.2「丸政」編④)~小淵沢駅「そば屋の天むす」(750円) 【ライター望月の駅弁膝栗毛】

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ライター望月が駅弁屋さんの厨房を訪問、駅弁作りの現場に迫っていく「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
第2弾は「あずさ」などの特急が走る中央本線と小海線の接続駅・小淵沢の駅弁屋さん「丸政(まるまさ)」を訪ねています。

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「弁当は日本人の文化。絶対に守らなければいけない」と話す小淵沢駅弁「丸政」四代目の名取政義社長。
そのために「あるもの」を増やすというのですが・・・。

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※画像は発祥の地・富士見駅で営業する「丸政」の駅そば。

◎「丸政」が増やしているものとは?

今「丸政」では「そば屋」を増やしています。それは「弁当を守りたい」から。それも「いい駅弁」「美味い駅弁」を残していきたい。
正直「小淵沢駅」だけやっていた方が利益は出ると思います。でも、頑張って毎日お弁当を作ってくれている社員を食べさせていくことが出来ない。正社員が16人、非正規の方が80人くらいいますし「元気甲斐」を1日1万食作れる工場もある。となると利用者が1日1300人しかいない駅では、駅弁は成り立たないんです。

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※画像は「丸政」人気の「山賊そば」(420円)。

◎確かに鉄道が速くなり、窓も開かない車両になって「駅弁」にとっては大変な状況が続きますよね。

今は「美味い駅弁」よりも、お客様にとって「便利な駅弁」が売れます。(これに伴って)「輸送駅弁」(注)となるので、賞味期限を延ばしていくことがものすごく大切になっています。

ただ、それをして安全性を高めると、コンビニさんとかスーパーさんの加工の仕方に変わっていってしまって「駅弁のよさ」というものが、お客さまにどう表現したらいいか分かりにくくなってしまうんです。とことん「衛生面」を突き詰めていってしまうとレトルト食品になってしまうし・・・。
駅弁屋が生き残っていくためには、今までのただ量産して売れればいいというのとは変わっていくんじゃないかなと思います。

その意味でも「駅弁」というものは(選択と集中を進めて)「この駅でないと買えない」といった他に勝てるような高い付加価値を付けることが重要になってくると思います。
ウチの「高原野菜とカツの弁当」は便利な駅弁じゃありません。ココ(小淵沢)に来ないと買えませんから。でも、お客様にとっては、他とは違う付加価値があると思います。
そういった形になって来ると、社員を守るためにも「そば屋」を出していく必要があるのかなと思います。

注:輸送駅弁・・・地方で生産した駅弁を大都市の駅弁売場に輸送し販売する駅弁。東京駅「駅弁屋・祭」などで販売されることが多い。

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※画像は「丸政」が新たに展開している「驛前そば」甲府駅北口店

◎どんな形で「立ち食いそば屋」さんを展開していきたいと考えていますか?

実は「そば屋」を地方創生のカギにしたいと考えています。今まで「輸送駅弁」もたくさん作ってきましたし、やめるつもりもないんですが、どこか自然の摂理に反するような気持ちもありました。
自然の摂理って、やっぱり「出来立て」のほうが美味いに決まってます。こういうことにもう一度立ち返っていかなければいけない。合わせてもう1つ、産業を作っていかなければいけない。

そこで今年から農業法人と提携して、丸政の立ち食いそば屋向けに「蕎麦」を作ってもらうことになりました。
10年後には、丸政の「立ち食いそば」はオール八ヶ岳産にしたいというビジョンもあります。
これまで蕎麦を生産するとなると、同じ土地でコメの5分の1しか獲れませんでした。だから農家がみんな生産をやめていきました。ただ、作るのは簡単なんです、播いておけば獲れるので。
昔、江戸時代には「八ヶ岳産」のそばは最も高値で取引されていたという文献も出てきています。つまり農業技術が無い頃でも、八ヶ岳ではいっぱい「そば」が出来ていた訳です。そんな「そば」を産業に出来たらなぁ・・・と。

産業にする上では、もう少し品種改良をして「獲れる」ものにしていかないとなりません。幸い、この地域には種苗メーカーの研究施設もありますし、農業法人もあります。
こうして地域が提携していくと、小淵沢周辺がもっと「人が集まる」「雇用が生まれる」場所に出来るんじゃないかなと。
農業が儲かっていくと今度は工業が設備投資するから、これで人口が増えて・・・というのをボクらがやらなくてはいけないと思うんです。

◎駅弁屋さんだけが売れるんじゃなくて、地域の経済の「好循環」のサイクルの中の1つに入っていくのが、大事ということですね?

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◎その「そば屋」がきっかけで注目されている「駅弁」もあるそうですね?

「そば屋」のサイドメニューから始まって今、注目を集めているのが「そば屋の天むす」です。
美味しい「天むす」とは何か、米とか海苔とか研究に研究を重ねて、開発に6年くらいかかりました。(発売は平成25(2013)年12月)
小豆島産の醤油で煮た「きくらげ」の佃煮が入っているのが、他にない味として好評をいただいています。
天ぷらのイヤな脂っこさを消してくれるんですよ。

◎実は「そば屋の天むす」って、私は恥ずかしながら、まだいただいていないんです。

じゃあ、ちょっと持ってきて!食べながらやりましょう!!
(社員の方が「そば屋の天むす」を持ってくる)

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◎(紐をほどいて)お~!これですか!!

今はホンモノじゃないとダメです。だから「そば屋の天むす」は包んでいる笹の皮をはじめ、天然素材にこだわって作っています。
実は今、コレが爆発的に伸びていて、引き合いが多くなっています。最近は某テレビ局のスタッフ弁当にも使っていただけるようになりました。

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◎確かに高速化で「鉄道」に乗る時間がどんどん短くなっている中、このくらいの軽食の存在は有難いですよね。

軽食系はサンドイッチは簡単にできるので、どの会社でもやっているんですが、1つ1つ手で握る「天むす」は他ではやれないと思います。これはコンビニには出来ないことです。あと「たくあん」がたまらないんですよ!
「天むす」ってきゃらぶきが多いと思うんですが、実はあれ、有名店「千寿」の初代の旦那さんが単にたくあん嫌いだったんです。となると「きゃらぶき」では「きくらげ」とも色と味が被りますし、やっぱりむすびには「たくあん」が一番合う!

そして「切り方」にもこだわりました。
以前、旅先の熊本で会った「たくあん」の切り方が忘れられなくて、ずっと温めていたものなんです。
ホント「たくあん」って、切り方1つで味が変わるんです。そうやって自分がこだわった所って、お客様も「あのたくあん美味しいよね!」って言って下さるんです。

◎「丸政」の「そば屋の天むす」が出てくるまで、「天むす」といったら名古屋エリアのものでしかなかったですよね。

そう、東京(首都圏)に無いということもあって、NREさんに新幹線ホームにも置いてもらっています。
たぶん、東京駅から新幹線に乗る人って、本気で駅弁を食べようと思う人は、下の「駅弁屋・祭」で買ってくると思うんです。でも、そんなに食べたくないけど小腹は空くから・・・「あっ、天むすあった!これ買ってこ」となるわけです。
リピーターも多くなっていて、最初は女の人が買っていくんですが、リピーターになってくれるのは男性。
これからどんどん伸びていってほしい駅弁です。

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次回、名取政義社長へのインタビュー最終回、あの絶品「信州牛」駅弁への思いに迫ります。

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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