クラシック音楽で逆境と闘え。『ストリート・オーケストラ』 しゃベルシネマ【第51回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

連日熱戦が繰り広げられる、リオデジャネイロオリンピック。
日本代表選手の快進撃による連日のメダル獲得はもちろん、アスリートたちの奮闘にアツくなっている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回の「しゃベルシネマ」では、ブラジルが舞台となっている映画をご紹介。
クラシック音楽を通じて自身の運命や社会を変えていったヒューマンドラマ『ストリート・オーケストラ』を掘り起こします。

音楽は人生を変える!

01

憧れのサンパウロ交響楽団のオーディションに落ち、生活のために仕方なくスラム街の学校で音楽教師の仕事に就いた、バイオリニストのラエルチ。
しかし楽譜も読めず、楽器の持ち方さえ知らない子どもたちに愕然とする。
この街はサンパウロ最大のスラム街、エリオポリス。
明日の暮らしさえ保証されないこの街では、音楽なんてなんの価値もないのだ。
ある日、ギャングに襲われたラエルチは、見事なバイオリン演奏で彼らに逆襲。
その音色の美しさに感動したギャングたちは銃を下ろし、ラエルチは危機を免れることが出来た。
そのエピソードを聞いた子どもたちは、暴力以外にも人生を変える手段があることを知り、真剣に音楽と向き合うようになる。
ラエルチもまた、持てるだけの音楽への情熱と愛情を子どもに伝えるのだった。
しかしラエルチと子どもたちの心ががひとつになってきた時、思いもよらぬ事件が起こる…。

02

スラム街で暮らす子どもたちに音楽を通じて生き方を教え、ついには交響楽団まで誕生させてしまう。
なんとも奇跡のような物語ですが、コレ、実話なんです。
主人公のラエルチを演じるのは、ブラジルで彼を知らない人はいないほどの国民的スター、ラザロ・ハーモス。
自己中心的なエリート男が挫折を味わい、子どもたちと触れ合うことで再び音楽への希望を見出すプロの音楽家を、魅力的に演じています。
監督はカンヌ国際映画祭をはじめ世界的に実力を認められている、セルジオ・マシャード。
音楽の素晴らしさと共にブラジル社会が抱える闇の部分にも鋭く切り込んだ演出は、さすが実力派の手腕といったところ。
また子どもたちは、700人以上のオーディションから選出。
個性豊かなアンサンブルで、希望の旋律を奏でています。

スポーツは国境を越える。そして音楽も国境を越える。

03

本作には、スラム街の子どもたちで結成されたエリオポリス交響楽団、そして南米一と称えられるサンパウロ交響楽団が特別参加。
モーツアルト、パガニーニ、ブラームス、チャイコフスキーといった誰もが耳にしたことがあるクラシックの名曲を演奏しています。
それだけでも充分見応え&聞き応えがあるのですが、さらに印象に残るのがヒップホップのリズム。
子どもたちの日常を描くシーンでは、ブラジルの若者のソウルミュージックとも呼べるヒップホップが効果的に使用され、ハッピン・ウッヂとクリオーロといったブラジル音楽界を代表するラッパーが本編に出演しているのも注目ポイント。
さらにエンドロールでは、2003年に銃弾に倒れた伝説的なラッパー、サボタージの「Respeito e lei(リスペクトすることが掟)」にオーケストラアレンジを加えたものを起用。
ジャンルを超えた音楽の融合がもたらす奇跡を体現していて、映画の余韻と共に新たな感動が沸き立ってくるという心憎い仕掛けも。

先日のリオオリンピック開会式のパフォーマンスでも、サンバやボサノバはもちろん、現在のブラジルミュージックシーンも取り入れたバラエティ豊かな選曲がされていました。
音楽が持つチカラと素晴らしさに改めて気付かされる内容の開会式でしたよね〜。
私も当初はなんとなくテレビを眺めていましたが、観るうちにその独特のリズムに魅了され、テレビの前で踊り出している自分がいました。
そうこうしているうちにテレビを見ているだけでは気がおさまらず、自宅のウクレレを引っ張り出してきてしまいました。

04
存命中、多大な刺激をいただいた忌野清志郎さんデザインのウクレレ。

音楽は地球を救う!!
イエ〜〜ィ、愛し合ってるか〜いっ!?

05

スポーツは国境を越える。そして、音楽は国境を超える。
リオ五輪開幕中に日本で公開されるブラジル映画、いまこそ触れてほしい一作です。

06
2016年8月13日からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督・脚本:セルジオ・マシャード
出演:ラザロ・ハーモス、カイケ・ジェズース、サンドラ・コルベローニ
ほか
特別出演:サンパウロ交響楽団、エリオポリス交響楽団
©gullane
公式サイト http://gaga.ne.jp/street/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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