■「長く生きられない」といわれた仔犬
千葉県に住む清水満さんの愛犬・福(ふく・雄・5歳)はプールが大好き!
この日も知り合いの小さな女の子と一緒に、スイスイと気持ちよさそうに泳いでいます。
冷たい水に浸かって気持ちいいのか、とっても幸せそうな表情です。
この姿を見ていると、福が生後間もなく捨てられ、瀕死の状態で拾われた保護犬だったことは、とても信じられません。
清水さんと福の出会いは、今から約5年前にさかのぼります。
子どもたちも独立して夫婦2人暮らしになったのを機に、以前からの念願だった犬を飼おうということになり、ある保護団体の譲渡会に出向いた清水さん夫妻。
「いろいろな犬を見せてもらったのですが、どうもピンとこなくて…。諦めて帰ろうとしたところ、団体の方が『こんな子もいるのですが…』と出してきてくれたのが、福でした。当時生後1カ月ほどの仔犬でしたが、今と変わらぬ、優しい瞳が本当にかわいくて…。私も家内も一目見て気に入り、ぜひ自分たちで飼いたいと申し出たのです」。
しかし団体の方は「かなり衰弱した状態で保護されたため、体が強くありません。すぐに死んでしまう可能性もあります。それでもいいですか?」と心配顔。あまり積極的に薦めませんでした。
「でも私と家内にはなぜか『うちに来れば大丈夫!死なせはしない!』という妙な自信があったんですよ(笑)。その日のうちに手続きをして、福を家に連れ帰りました」と清水さんは振り返ります。
■「保護犬はある意味、すごい強運の持ち主」
清水家に引き取られ「福」と名付けられた仔犬は、たくさん食べてよく眠り、順調に成長。
「長く生きられない」と言われたのがウソのように大きく健康に育ちました。
「よく保護犬のことを『かわいそう』という人がいますが、僕はむしろ保護犬ってある意味すごい強運でラッキーな犬だと思うんですよ。だってたくさんの犬が遺棄や殺処分で命を失う中、運よく保護団体に助けられて必要なケアを受け、新しい家族との出会いのチャンスも与えられているんですから。彼らは決して不幸なのではなく、幸福をつかむ運と力を持っている、すごい犬たちなんですよ」と清水さん。
「福という名前には、その名前の通り幸福になってほしいという願い、そして我が家に福を運んできてくれるように…との願いを込めました」。
■たくさんの「福」をありがとう!
福がやってきて、今年で5年目。清水さんが願った通り、福は本当にたくさんの「福」を運んできてくれました。
大きな体に似合わず優しくて穏やかな福はたくさんの人に可愛がられる「愛されキャラ」。
ご近所には福が毎日散歩で通りがかるのを楽しみにしてくれる人もいて、福はなでてもらったりオヤツをもらったりと大人気です。
おかげで清水さんまで近所に顔見知りが増え、毎日の散歩がより楽しくなりました。
また福と一緒にでかけたドッグランでは、世代や職業の垣根を超えた「犬友」ができました。
今では一緒にバーベキューを楽しんだり、一泊旅行にでかけたりするかけがえのない仲間に。
「社会に出てからは、どうしても仕事中心の生活でしたが、福のおかげで新しい仲間ができ、新しい世界が広がりました。みんなと一緒に過ごす時間は、今や僕たち夫婦にとってかけがえのないものです」と清水さん。
もちろん家庭でも福のおかげで奥様との会話が増え、二人だけだった家がとても賑やかになったそうです。
「福は、本当に我が家にとっての福の神ですね。福が来てくれたおかげで、人生がすごく豊かになりました」。
■供血犬としても大活躍!
そんな福には、もう1つ、とても大切な役目があります。
それは動物病院で手術を受ける犬たちのために血液を提供する「供血犬」としての役割。
福の血液型は需要が多く、福はこれまで何度も病院からの要請を受けて供血に協力してきました。
もちろん動物病院でも、福は人気者です。
というのも、普通は供血の際、犬が怖がって暴れてしまうため、数人がかりで押さえなくてはならないケースが多いそうなのですが、福は自らイソイソと診察台に上り、供血の間、おとなしく「いい子」にしているからです。
「実をいうと、福のお目当ては供血のご褒美にもらえる高級なオヤツ。このオヤツが大好きだから供血も苦ではないらしいんですよ(笑)」と笑う清水さん。
「でも、先日、供血を受けた犬の飼い主さんが福に駆け寄ってきて『ありがとう、ありがとう』と涙ながらに声を掛けてくださったのを見たときには、心が震えました。ああ、福はここでも「福」を運んでいるんだなあ…と。考えてみたらすごいですよね。捨てられて危機一髪で助けられた福が、今こうやって他の犬の命を助けているだなんて…」。
■犬好きの子どもを増やしたい!
こうやって多くの人に「福」を与え続ける福は、2年前に新たな家族を迎えました。同じく保護犬だった「飯」(はん、雄、推定2~4歳)です。
保護された当時とっても食い意地が張っていたから「飯」と名付けられたというこの犬は、福とは正反対の、臆病で人間嫌いの犬でした。
「そんな飯を福は上手にリードしてくれました。それに福のおかげで仲良くなっているドッグランの仲間が根気強く飯を可愛がってくれたおかげで、2年経った今では飯もすっかり人に慣れ、人の手からおやつを食べられるまでになりました。飯も今ではすっかり私たちに心を開き、リラックスして幸せそうに暮らしています。それも、福のおかげですね」という清水さん。
清水さんは最近、散歩やドッグランで出会った子どもに、積極的に福と触れ合わせるようにしているそうです。
「犬との楽しい思い出をもつ子どもは、将来、きっと犬好きに育つはず。犬好きの人が増えれば、日本は犬と人がもっと暮らしやすい国になるはずですよね。だから僕は犬好きの子どもを増やしたいんです。微力ながら、これが僕から犬たちへの恩返しだと思っています」。