それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
東京・八王子市で、無料の学習塾『八王子つばめ塾』が始まったのは、いまから4年前、2012年の9月のことでした。
この無料塾を始めたのが、小宮位之(たかゆき)さん、38歳。
「経済的な理由で、学習の機会を奪われている子供達を救うために、この塾を始めました」という当の小宮さんも貧困家庭に育ちました。
「うちの父は、テレビドラマの小道具を担当する職人で、気に入らないと、すぐに仕事を断ってしまう、昔気質な人でした。」
大学進学を控え、「大学に行きたい」と相談すると、
「お前を、大学に行かせる金は、うちには一円もないんだ!」
年収が98万円という年もあって、高校を卒業するのもやっとでした。母方の祖父母が入学金を工面してくれて、國學院大学文学部史学科へ進学。
しかし、教科書を買うお金がなく、隣の学生に見せてもらい、仲良くなった友達にお金を借りて、学食で一番安いランチを食べる毎日でした。そんな家庭で育った小宮さんですが、
「貧しかったけれど、明るい家庭だったので、それが救いでしたね。周りにも、貧困家庭が多かったので、親に対する不満よりも、社会に対する不満を、子供の頃から感じていました」と言います。
大学を卒業すると、私立高校の非常勤講師になりますが、収入が安定せず、映像制作に携わる仕事に転職。
2011年、東日本大震災で、被災地を撮影して周り、ボランティア活動にも参加した小宮さん。
「自分にも、社会に貢献することが、何か、できないものか?」そんなことを考えていたある日、国分寺市で無料塾の存在を知ります。教師だったこともあり、「これだ!」と思いました。
でも、その時3人目の男の子が生まれたばかりだった小宮さん、きっと怒られるだろうと思いながら、
「仕事を辞めて、ボランティアをしたい」
と父に話したら、返ってきた言葉は、
「お前が、やりたいというなら、俺は反対しない。家族のために、アルバイトはしろよ!」というものでした。
そして1人で、「八王子つばめ塾」を設立。
当初、生徒は1人でしたが、口コミで広がり、現在、塾生は80人。講師は、社会人、大学生、定年を迎えた方などが、手弁当で務めてくれます。
現在「つばめ塾」に通う子供の6割は、母子家庭だそうです。
そろそろ受験シーズンが始まりますが、学費の高い私立高校は受けず、都立高校に絞る子がほとんど。
「少子化なので、都立高校も入りやすいと思われがちですが、定員を減らしているので、倍率は変わりません。皆、都立高校一本勝負なので、志望校を断念し、レベルを落として受験する子も少なくないんですよ。」
「つばめ塾」の設立理念は、「自分もいつか人の役に立てるような人になりたい」そんな人材を一人でも多く育てること。
塾の名前の「つばめ」のように、大きく育ったら、いつか、人のために役立つフィールドに帰ってきてほしい、そういう小宮さんの熱い思いが込められています。
無料塾の運営ですが、一般の方からの寄付金で賄われています。中には、巣立った塾生から、寄付金が送られてくることもあります。
都立高校3年生の女の子が、中学を卒業して、3ヶ月くらい経った頃、2,000円を寄付してくれました。
「彼女も母子家庭に育った子で、母親が病気がちなんです。バイトを掛け持ちして、家計を助けている、そんな子が、身を切る思いで、寄付してくれたことが、分かるんです。そのお金はいまも大切にとっています」と小宮さんは涙ぐみます。
2,000円と一緒に、こんなメモが添えられていました。
『つばめ塾へ。去年は一年間お世話になりました。本当に感謝してます。つばめ塾がもっと大きくなって、色々なことが充実していきますよ〜に。教材、買ったりするのに使って下さい。いつか戻ってこれるとい〜な』
《余談》
小宮さんはつばめ塾を30年続けたいと言います。おととし亡くなった父親が、25年間少年野球のコーチをしていたからです。
暑い日も寒い日も、一円にもならないボランティアに情熱を傾けていた父親・・・、
30年無料塾を続けたら父親を乗り越えられるかな、小宮さんはそんなことをおっしゃっていました。
2016年11月30日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ