ナチスが白い砂浜に残したものとは…『ヒトラーの忘れもの』【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第124回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、『ヒトラーの忘れもの』を掘り起こします。

鬼軍曹と少年兵、悪夢の中で育まれる絆と希望

01

1945年、5月。
ナチス・ドイツが降伏し、戦時中にデンマークの西海岸にドイツ軍が埋めた200万個もの地雷を撤去するために、捕虜のドイツ兵たちが駆り出された。

その多くは10代の少年兵で、彼らは最低限の爆弾処理訓練しか受けずに命がけの作業に当たっていた。
指揮を執るのは、デンマーク軍軍曹ラスムスン。
彼は残忍な侵略をしたドイツ人たちに激しい憎悪を抱いており、少年兵たちにろくに食事も与えないまま、毎日海岸に向かわせた。

地雷の暴発や撤去の失敗により、一人、また一人と命を落としていく少年兵たち。
そんな彼らの姿を見るうちに、ラスムスンは良心の呵責に苛まれていく…。

02

第二次世界大戦終戦直後のデンマークを舞台に、地雷撤去を強制される敗戦ドイツ軍の少年兵たちの過酷な運命を、史実に基づいて映画化した『ヒトラーの忘れもの』。
本作は、2015年「第28回東京国際映画祭」コンペティション部門に出品され、軍曹役のローラン・モラーと少年兵役のルイス・ホフマンが最優秀男優賞を受賞しました。

監督を務めたのは、デンマーク出身の映画監督 マーチン・サントフリート。
彼は「デンマーク人のほとんどが目を背けてきた、知られていない史実を伝えたくて」本作を制作しました。

03

海岸に這いつくばり、少しずつ前に進みながら手探りで地雷を探し当て、手元が狂わないように慎重に信管を外していく。
地雷を除去する様子を丁寧に描くことで、まるで地雷撤去作業の現場に立ち会っているかのような緊迫感が伝わってきます。

年端もいかない少年たちの地雷と対峙する恐怖、逃れらない現実への絶望、それでも、この作業が終われば祖国に戻れるのではないかと抱く僅かな希望。
それら感情が観客の胸を締め付け、スクリーンを直視することさえ出来なくなるほど…。

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しかし、ドイツ人を憎み、少年兵たちを相手にその恨みをはらすかのように威圧的な態度を取る鬼軍曹もやがて、彼らにも親兄弟がいるという事実に目を向けた瞬間、人間としての“感情”が動きます。

本作は誰かを非難したり責任を追求したりすることで反戦メッセージを声高に叫んだものではなく、人間についての物語。
憎しみがいかに“赦し”に変わっていくか。
どんなに残酷な状況でも、生きるための希望を抱き続けることが出来るか。
“真実の物語”が、観る者の心を強く揺さぶります。

05

ヒトラーの忘れもの
2016年12月17日からシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:マーチン・サントフリート
出演:ローラン・ムラ、ミゲル・ボー・フルスゴー、ルイス・ホフマン、ジョエル・バズマン、エーミール・ベルトン&オスカー・ベルトン ほか
©2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
公式サイト http://hitler-wasuremono.jp/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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