それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
岐阜城がそびえる金華山の麓、街道に面した古い街並みの中に、CDショップ「songs」はあります。
このお店の営業日は、水曜日のみ。
水曜日以外は、ガラス戸に白いカーテンが引かれています。
ちょっと不思議な、このお店を営むのは鬼頭黎樹(きとうれいき)さん47歳。
鬼頭さんが音楽に目覚めたのは、小学6年生のときでした。
テレビでYMOのロサンゼルス公演を見て衝撃を受け、中学では吹奏楽部に入り、学校から帰るとラジオ番組にかじりつき、バッハやビートルズありとあらゆる音楽に夢中になりました。
大学に入ると、アルバイトのお金でCDやレコードを買いまくります。
「お茶やお菓子を出してくれるレコード店がありましてね、その店長がこの曲は聴いたことある?これはどうだい?と、けっこうマニアックな曲を聴かせてくれたんです。この時期が僕にとってお店を開く原点になったと思うんです。」
大学を卒業後、商社に就職しますが音楽に関わる仕事をしたいと、名古屋の大手CDショップに転職し販売員として働きます。
10年前、独立した鬼頭さんはラテン音楽のCDを扱うネットショップを開きますが、パソコン相手の商売は性に合わず、2年前の2014年11月19日水曜日、現在のお店を始めました。
ではなぜ、水曜日だけ営業なのか?答えは簡単でした。
他の曜日は、働いているから……。鬼頭さんは普段家電メーカーの販売員の仕事をしていて、休みの水曜日に自宅の一階にCDショップを開いています。
「いつもカーテンが引いているので(お店うまくいってるの?)と周りから心配されますが、水曜日だけの営業でも売り上げが0円という日はありません。お客さんの半分は県外からで、東京や博多から来てくれます。あとの半分は、近所の方ですね。毎日営業したいのは、やまやまですが、それでは食べていけません。音楽は好きだけど、商売は下手なんです」
と鬼頭さんは笑います。
お店に入ると「え?ここCDショップ?」と誰もが驚きます。
CDが絵のように壁に飾られ、アンティークのテーブルの上に、季節の花や果物と一緒にさりげなく置かれているからです。
「CDの品揃えは40タイトルほどと少ないんですが、一枚一枚、お客さんに、お話したいことが、いっぱいあるんです。音楽は、友達であり、伴侶だと、僕は思うので、お客さんと話をして、とっておきの一枚を紹介しています。」
「songs」に来るお客さんは、30代から40代が中心です。
そんなある日、見知らぬおばあさんが、ふらりとやって来ました。
「いい音楽のお店があると、噂を聞いて、来たのよ」と。
鬼頭さんはしばらく、おばあさんとお話をして「これは、いかがでしょう」と、お勧めしたのが、ジャズピアニスト「キース・ジャレット」が、妻のために作ったアルバム「ザ・メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー」でした。
優しいピアノの調べを聴いた、おばあさんは、「ステキ!」と目を輝かせました。ところが、すぐに顔を曇らせて、「ごめんね。きょう、持ち合わせがないの。」と言いました。
「お金は、いつでも結構ですから、家でゆっくり聴いてください。」鬼頭さんは、おばあさんにCDを手渡しました。
それから何ヶ月か経って、お店のポストに、包み紙が入っていました。
それはスーパーのチラシの裏に書いた、おばあさんからの手紙でした。
「とても、きれいなメロディで、心が洗われました。いつも夜に聴いています」
とあり、お金が添えられていました。
鬼頭さんは言います。
「僕のやっていることは、ずっと低空飛行だけど、行っていることは、美しくありたい、と思っています。これからも、心に寄り添う、そして、町に寄り添う、そんな音楽を探して、伝えていきたいですね。」
岐阜県岐阜市常盤町8番地、CDショップ「songs」は、2018年6月より営業日が増えました。
旧営業日→ 水曜日
新 定休日/月火また、日々の簡略告知は
https://www.instagram.com/cdshopsongs/店の細かな案内はブログにてお知らせしております。
https://blog.goo.ne.jp/songs2006
2016年12月21日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ