あけの語りびと

天国の妻からのプレゼント…「ガンで余命1年」から奇跡の生還を果たしたミニSLで全国を巡る男性「あけの語りびと」(朗読公開)

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』

ミニSLの汽笛が鳴り響き、3両の車体がガクンと動き出すと、それにまたがった子どもたちがパッと、花のような笑顔を浮かべます。
各地の幼稚園、イベント、お祭りや学校行事などへ出張しては、ミニSLを走らせ、子どもたちを夢中にさせているのは、大阪府河内長野市の小山政二(こやままさじ)さん、68歳。先週は熊本市東区まで行って、地震の被災地の商店街に、90メートルのレールを敷き、ミニSLを走らせました。
4月14日の大地震以来、イベントやお祭りが中止続きだったので、子どもたちだけでなく大人からお年寄りまで大喜びでした。
ミニSLとは言っても、石炭を焚いて湯を沸かし、その蒸気の力で走らせる構造ですから、原理は本物の蒸気機関車と同じ。お年寄りは「ああ、この煙の匂いを嗅ぎながら、学校へ通ったもんだ」と昔をなつかしんでくれるといいます。

鉄道ファンは、写真を撮っては収集している「撮り鉄」、全国の鉄道に乗りに行く「乗り鉄」など、様々なタイプに分かれますが、小山さんは子どもたちを乗せることを生きがいにしているわけですから、さしずめ「乗せ鉄」ということになるんでしょうか?

M&T Railway

2010年運転風景 (M&T Railway HPより)

小山さんがSLの世界にのめり込んだのは小学生の時。お父さんに買ってもらった鉄道模型がキッカケだったといいます。
同い年の文子(ふみこ)さんと職場結婚をしたのは、22歳の時でした。元幼稚園の先生だった文子さんは、子どもを喜ばせることが大好き!二人のお子さんを連れ、家族でSLに乗りに行くのが楽しみでした。
こんな幸せな家族に、暗雲が垂れ込めたのは、31歳の時。小山さんの胃に、がんが見つかったのです。長い闘病生活の果てに下されたのは「余命1年」という悲惨な診断でした。

「余命1年」この現実は、小山さん自身には告知されませんでしたが、そんな夫に、文子さんは、あるプレゼントを贈りました。それは、貯金をはたいて買った100万円もするミニSLの組み立てセットでした。何せ、部品だけで2万点を超える手ごわいシロモノでした。

ミニSL制作風景

ミニSL制作風景 (M&T Railway HPより)

すぐには開封できず、2~3カ月は、設定図や説明書とにらめっこ・・・。やがて、何もかも忘れて猛然と組み立てに没頭した1年半。ようやく完成したミニSLを、家族そろって空地で走らせる頃、奇跡が起きました。

「残された1年の命の最後の楽しみとして、妻が贈ってくれたSLに夢中になっているうちに、がんが消えていたんです!」

お医者さんもビックリするほどの驚異的な回復力!しかし、いいことは続きませんでした。
それからわずか7か月後・・・心労がたたったのでしょう。文子さんがくも膜下出血を発症。突然、帰らぬ人となりました。

「妻は私の身代わりになってくれたのだと思います」

こう語る小山さんの胸に残ったのは、文子さんがよく言っていた言葉でした。

「お父さん、SLっていうのは、人の輪を広げてくれる力があるよね」

小山さんは、思ったそうです。

(そうだ!残された人生を、子どもたちを喜ばせるために使おう!)

こうして全国を巡り、ミニSLに子どもたちを乗せてきた小山さん。
マメに記録している運転日誌によると、その数は23万7,000人に上るといいます。

M&T Railway

2007年,2010年運転風景 (M&T Railway HPより)

「ミニSLがキッカケで、うちの息子が鉄道の運転士になりました」
「来月、手術を控えていますが、小山さんの話を聞いて勇気が湧きました」
「SLには興味が無かったけど、これからの人生、がんばります!」

こんなうれしい声も沢山いただいたそうです。

子どもたちの笑顔と夢を乗せて、今日も走るミニSL・・・。
小山さんがいつも、その車体をピカピカに磨き上げるために使うのは、
文子さんが残した洋服やスカートの切れ端だそうです。

2016年12月14日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

【ミニSL運転風景】(M&T Railway HPより)

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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