千葉県を走るいすみ鉄道の看板車両、国鉄形気動車のキハ52とキハ28。
現在は、週末を中心に「急行」として運用されています。
「急行」は、国鉄のように、乗車券のほか、急行券(300円)が必要。
気軽に乗車できる自由席のある車両は、朱色単色のキハ52です。
来年は平成30年という今、ほとんど昭和の風景に、東京から1時間ちょっとで出会えます。
キハ52は、2000年代に入ってからも、JRの新潟地区や盛岡地区などで活躍していました。
1両で運行できる上、エンジンがパワフルだったことが、長年、重宝された理由のようです。
私自身、大阪~新潟~米沢と移動したことがあるのですが、新潟までが583系急行「きたぐに」、新潟からはキハ52・快速「べにばな」という、とても国鉄三昧な移動だったことも・・・。
長時間の乗車は、かなりお尻が痛くなりましたが、今となっては良き思い出です。
キハ52の旅では、岩手県内を走っていたJR岩泉線も思い出されます。
終点・岩泉までやって来る列車は、1日わずか3本という、超閑散ローカル線でした。
しかし、平成22(2010)年の災害による脱線事故が元で、鉄道による復旧を断念。
平成26(2014)年には、ついに廃線となってしまいました。
国鉄からJRになって30年という今年、国鉄時代の風景はますます貴重なものとなっています。
いすみ鉄道のキハ52は、JR西日本の大糸線(南小谷~糸魚川間)で活躍していた車両です。
JRで廃車となった後にいすみ鉄道が導入し、観光急行列車として復活させました。
昭和40年製の車内は、シートの色こそ国鉄時代の「青」に戻されましたが、扇風機はもちろん、JR西日本時代のステッカーもそのまま。
鉄道車両も「文化遺産」であるという、いすみ鉄道の社長さんの考えが反映されています。
(参考:いすみ鉄道公式HP、いすみ鉄道社長ブログ)
いすみ鉄道の「急行」は、途中の国吉(くによし)で、10分前後停まります。
列車が停まると、ホームのほうから「ベント~!ベント~!」の売り声が・・・。
なんと、週末の国吉駅では、駅弁の立ち売りが行われているのです。
うわぁ、国鉄形気動車と駅弁の立売という、今やココでしか見られない夢のような光景です。
せっかく買うなら、窓を開けて売り子さんを呼び、ぜひ窓越しでお金をやり取りしましょう。
国吉駅で土・休日に販売されているのは、「いすみのたこめし」(800円)。
いすみ市では、「いすみたこ飯研究会」によって「たこめし」のブランド化が進められています。
慶長年間から蛸つぼ漁が行われてきたこの辺りでは「たこめし」が漁師のまかない飯だったそう。
研究会の推薦も行われているこの弁当は、市内の松屋旅館が調製したものです。
立売は、地元のいすみ鉄道応援団の方の手で行われています。
(予約可能、いすみ鉄道応援団:090-8688-1904、松屋旅館:0470-86-2011)
タコは例年、三陸沖から南下してきて、冬に外房沖で旬を迎えるといいます。
特に12月から1月にかけて水揚げされるマダコは、柔らかく甘みがあって、市場関係者や料理人に高い評価を受けているというんですね。
この「千葉ブランド」にも認定されたいすみ市の港に水揚げされるマダコと、いすみの地野菜を使って作られているのが、「いすみのたこめし」。
弁当の売られる鉄道風景は昭和ですが、弁当のクオリティはしっかり平成。
ローカルブランド食材を使った、冷めても美味しい弁当に仕上がっています。
昭和らしい緩やかな曲線を持った手すりも印象的な国鉄形車両。
武骨なクーラーの間にある中吊り広告も、昭和の懐かしいものが掲示されています。
実はいすみ鉄道の「急行」は、昔の気動車、長時間停車、駅弁の立売りなどの懐かしい風景が、出来るだけリアルに再現された、昭和の鉄道旅のテーマパーク。
それゆえ、所要時間は、各駅停車よりはるかに長いんです。
急行なのに「急いで行かない」ことが、いすみ鉄道の「急行」の最大の魅力。
そんな急行列車の窓を開けて、立売りの方から駅弁を買い求めてはいかがでしょうか?
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/