【ライター望月の駅弁膝栗毛】
仙台~山形間を結ぶ「仙山線」。
昔は急勾配と機関車の付け替えで長い時間を要した路線ですが、いまのE721系電車は、最速1時間5分で、2つの県庁所在地を結んでいます。
特に山形側では名刹・立石寺(山寺)へのアクセス路線となっており、山形駅から山寺駅までは、快速列車でおよそ15分の距離です。
最近は、仙台~山形間の移動に高速バスを利用する方も多いようですが、仙山線の魅力は、鉄道ならではのゆったり感で、自然と車窓を楽しむ心の余裕も生まれます。
「週末パス」利用なら、東京毎時0分発の「つばさ」に乗り遅れて1時間待つより、20分後に出る「はやぶさ」から仙台経由で仙山線(快速)に乗り継いだほうが、次の「つばさ」より早く山形に着く上、特急料金もジュース1本分割安となるメリットもあります。
さあ、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第15弾、山形駅弁「もりべん」編、林邦宣(はやし・くにのぶ)社長のインタビュー、いよいよ本日完結です。
●新時代のスタート!「もりべん」が目指すところは?
―林社長出身の「松川弁当店」では、駅弁に加えて様々なお店を手掛けられていますが、「もりべん」では、駅弁以外の事業は、何か手掛けられていますか?
山形県の村山総合支庁本庁舎で、「山形の隠れ食堂」というお店をやっています。
私が入る前、森弁当部時代から手掛けているものですが、そば・うどん、日替わり定食などを出していて、一般の方も利用することができます。
―新しい時代が始まり、来年で創業75周年を迎える「もりべん」、今後はどのように展開していきたいですか?いまはまだ、足元をしっかり固める段階ですね。
足元が固まったら、いまは衛生管理が厳しい時代ですので、より衛生的な新しい時代に対応できる工場を建てられたらと考えています。
ですので、まずは商品開発をしっかり行って体力を付けて、「もりべん」自体の認知度も高めていきたいと考えています。
●山形牛に注目、懐かしの駅弁の復刻も!―そのカギになりそうな、開発してみたい新作駅弁は?
いま、興味を持っているのは「山形牛」です。
飼育されている皆さんは、とても頑張っていて、脂の入り方も味も全く違います。
正直、米沢牛に匹敵するくらい美味しくなってきています。
いまはまだ米沢牛ほど価格は上がっていないので、そのメリットを活かしてぜひ、山形牛を使った弁当を開発したいと考えています。
―牛肉以外で気になっているテーマはありますか?新商品だけではなくて、昔からの伝統を受け継いでいくことも大事だと思っています。
「もりべん」にはかつて、陶器製でこけしの顔が描かれた器を使った「花笠こけし弁当」という駅弁がありましたので、この復刻版を作ることができたら面白いなぁと思います。
ただ、いまの時代に陶器の器は現実的でないので、プラスチック製か、紙製になるか分かりませんが、昔の駅弁を知る方には懐かしく感じてもらえるのではないでしょうか。
●仙山線からの山寺を眺めて駅弁を!―駅弁屋さんとして続けていくためには、販路の拡大も重要ですよね?
「もりべん」の駅弁には、手作りの部分が多いという素晴らしい面がある一方で、食材が長期保存に向かない一面があります。
このため、東京などへの輸送駅弁は数が限られているのが現状です。
今後の販路拡大は、新しい工場に向けての取り組みとリンクしてくると思います。
―「駅弁膝栗毛」はできるだけ現地で駅弁を食べてほしいという思いでやっていますが、林社長お薦め、山形周辺の“駅弁が美味しい”車窓はありますか?やっぱり「仙山線」の山寺でしょう。
仙山線の列車から眺めて、仙山トンネルに向かってグイグイ登って行く感じもいいですし、電車にもボックスシートがありますからね。
春は桜、これからの時期は新緑も楽しめるのでお勧めです。
ぜひ、「もりべん」の駅弁と一緒に、仙山線の旅も楽しんでみて下さい!(「もりべん」林邦宣社長(代表社員)・インタビュー、おわり)
およそ10年の歳月をかけて開発され、平成22(2010)年10月、山形県の新しいブランド米としてデビューした「つや姫」。
このデビューを記念し、森弁当部(当時)が登場させたのが「やまもり弁当」(1,250円)です。
牛・豚・鶏の3つの肉をはじめ、山形名物・玉こんにゃく、もりべん自慢の玉子焼きなど、その名の通り、おかずが“やまもり”の駅弁です。
【おしながき】
・ご飯(山形県産つや姫)
・塩ます焼き
・玉子焼き
・煮物(山形名物玉こんにゃく・はしぎ・油揚げ、里芋入り巾着)
・豚の角煮
・鶏肉の照焼き
・牛カルビ焼き
・ブロッコリー アスパラガス
・しめじとエリンギのソテー
・しそ巻き
・梅干
・大根の酢漬
「つや姫」のご飯は、その名の通りツヤツヤ!
ご飯も“やまもり”にしたいところですが、この抑制の利いた盛り付けが大好きです。
その分、肉、魚、野菜、煮物…と、山形の手の込んだおかずがたっぷり!
つや姫はこってり系の味なので、幕の内の白いご飯でいただくのがよく合います。
これだけ手間がかかって1,000円台前半の駅弁は、本当にお得だと思います。
蔵王連峰をバックに東京を目指す、山形新幹線E3系「つばさ」号。
その拠点・山形駅の駅弁は一時、継続の危機にありましたが、米沢「松川弁当店」から、林邦宣社長が入ることで、その灯は受け継がれました。
昭和・平成と、山形の食材と共に、地道に真面目に作り続けられてきた山形駅弁。
車内販売の変更、駅ナカの充実など、駅弁を取り巻く環境が厳しく変化しているなか、令和の時代、その次の時代にも山形駅弁をつないでいくために、林社長の奮闘は続きます。
新しい時代を迎え、新たなチャレンジのときを迎えている「もりべん」です。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/