【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「富士山は見る場所によって、姿がみんな違う」
意外に知られていないこの事実を、身を持って体感できる列車「富士山満喫トレイン」が、4月13日(土曜日)に三島~御殿場~富士宮間の団体臨時列車として運行されました。
373系電車が東海道本線・御殿場線・身延線の3線を直通するのも、少し珍しい風景。
現在、開催されている「静岡デスティネーションキャンペーン」の特別企画です。
【富士山満喫トレインのルート&望月が参加したツアーの行程】
三島10:15発―東海道本線―沼津―御殿場線―裾野10:39着~団体バス~須山浅間神社(特別拝観)~団体バス~御殿場12:40頃…フリータイム…御殿場14:15発―御殿場線―沼津―東海道本線―富士―身延線―富士宮15:35着
三島駅の駅員さんやゆるキャラ達に見送られ、「富士山満喫トレイン」は定刻発車。
最初のビューポイントは、撮影地として知られる三島~沼津間の黄瀬川橋梁です。
この日は、青空に白い雪がいっぱいの富士山が顔をのぞかせました。
裾野市の観光ガイドさん曰く、富士山が見える日は、冬を中心に1年でおよそ3割。
団体列車の添乗員の方も「きょうは神懸かっている!」と興奮が隠せません。
「富士山満喫トレイン」は、沼津で進行方向を変え、御殿場線に入ります。
最初の下車駅・裾野駅では、さっそく富士山と「富士山満喫トレイン」のコラボレーション!
ちなみに裾野駅、東海道本線だった頃は「佐野駅」という名前で開業、いまも明治時代からの静岡最古とされる木造駅舎を改築しながら使っています。
改札を抜けると天井の漆喰がレトロな雰囲気を醸し出していて、歴史の重みを感じます。
裾野駅からはバスに乗り換え、やってきたのは世界文化遺産の1つ「須山浅間神社」。
富士登山道の1つ「須山口」は、室町時代からの歴史を誇りますが、明治時代の東海道本線(現・御殿場線)の開通によって、いまの「御殿場口」がメインになっていきました。
その起点となる「須山浅間神社」は、ハート形(猪目)の灯籠が隠れ名物。
静岡デスティネーションキャンペーンの間は「特別拝観」が可能です。(1週間前要予約)
今回は地元のガイドの方と一緒に、ふだんはまず見ることができない、江戸時代に造られた本殿の裏側まで見せていただくことができました。
「須山浅間神社」は本殿が覆殿で守られているため、江戸時代の色彩がほぼそのまま!
ちょうど130年前の東海道本線開通までは、多くの登山者でにぎわったと言います。
規模は小さくともその豊かさを感じる“二重の”建築に、世界遺産の風格を感じます。
(参考)裾野市ホームページほか
富士登山道の「須山口」が、「御殿場口」に取って代わられた背景には、明治時代、富士山麓のエリアが、陸軍の演習場となったことも関係していると言います。
現在は陸上自衛隊の東富士演習場となっており、国道469号がそのなかを貫いています。
神社に二重の建築を作ることができるほど、登山客で潤った裾野市の須山地区ですが、いまは自衛隊演習からの防音のため、お宅の窓が“二重の”サッシになっているそうです。
バスで御殿場駅へ移動したところで、12:30過ぎからお昼のフリータイム。
御殿場駅は明治22(1889)年の東海道本線開業と同時に設けられ、今年で開業130周年を迎え、山中湖・河口湖、および箱根方面への路線バスが発着しています。
現在は、首都圏から小田急線新松田/松田乗換えでアウトレットモールに来る方も多く、国府津方面からの列車が着くと、無料シャトルバスへ駆けていく若い世代も目立ちます。
1時間あまりのフリータイム、私は御殿場駅から少し散歩を楽しみました。
御殿場駅から20分ほど歩くと、田園風景のなかにドーンと大きな富士山が現れます。
そこへ小田急60000形電車の特急「ふじさん」がやって来て、リアル富士山とコラボ!
何とか見ごろの桜の花ともジョイントしてくれました。
ツアーの自由時間を使った“ひとり富士山満喫トレイン”も、なかなか楽しい!!
この御殿場線が電化されたのは、昭和43(1968)年のこと。
それまで活躍していたのは、急勾配を乗り越える大きなD52形蒸気機関車でした。
御殿場駅前には最後まで活躍した72号機が保存され、「ポッポ広場」となっています。
屋根はかけられていませんが、大事に保存されていて、鉄道への愛が感じられるもの。
ちなみに、御殿場市のマンホールのふたも「D52形蒸気機関車」となっています。
(参考)御殿場市ホームページ
東海道本線が御殿場回りだった時代、沼津・国府津では機関車交換のため、列車には長時間の停車が発生し、駅弁屋さんは大いに繁盛しました。
今回の「富士山満喫トレイン」のツアー(一部)では、沼津を拠点に明治24(1891)年から駅弁を手掛けている「桃中軒」の名物「港あじ鮨」(1,000円)の通常版が提供されました。
4月末までは「春限定版」が販売されているなか、この時期の通常版は貴重な体験です。
須山浅間神社にお参りし、御殿場市内の富士山を満喫したら、再び373系電車に乗って「富士山満喫トレイン」の旅。
御殿場を14:15に発ち、沼津から東海道本線に入って、身延線・富士宮には15:35着。
午前は30分弱の乗車でしたので、ようやく午後から本格的な鉄道の旅といったところ。
普通に走れば60分弱と思われる距離、どのようにして80分をかけるのでしょうか?
「富士山満喫トレイン」は、御殿場から2つ目の富士山の見える駅・富士岡駅で、早くも上り列車との行き違い時間を使った長時間停車。
373系電車の車端部にあるセミコンパートメント席が撮影ポイントとなりました。
富士山はよく女性にたとえられますが、御殿場線の富士山は、南東斜面ということもあり、山頂から風で飛ばされた白い雪をいっぱいかぶった、色白の富士山を眺められます。
お隣のセミコンパートメントでは、「ミス富士山」のお2人が地酒をお薦めしてくれました。
御殿場からは、列車の終点・富士宮市の蔵元・商店街関係者が乗り込んでおもてなし。
湧水に恵まれた富士宮市内にある4つの酒蔵、「富士高砂酒造」「富士正酒造」「富士錦酒造」「牧野酒造」の試飲コーナーが設けられたほか、商店街のみなさん手作りの筍とわらびの炊き合わせや、ニジマス漬けといくらなどのおつまみが提供されました。
さっそく、車窓の富士山を眺めながら、地酒で乾杯!
クルマの心配がない鉄道旅は、お酒との相性が抜群です。
あの頂に見える白い雪が溶けて富士山の溶岩にしみ込み、長い時間をかけてろ過され、ふもとの街に湧き出して地酒として育まれる…これもまた富士山の恵み。
そんな壮大なストーリーを思い浮かべていただくと、一層美味しくいただくことができます。
東海道本線からの富士山では、東田子の浦駅付近の富士山が美しく見えます。
「富士山満喫トレイン」も偶然(?)、東田子の浦駅をゆっくりと通過して景色を満喫!
先ほどまで真ん中に見えていた宝永火口が右に移ってきたことからも、列車が富士山の南側へ回り込んできたことが分かります。
先ほどまで湧いていた雲も取れて、すっきりとした富士山になってきました。
吉原駅では「岳南電車」の皆さん、富士駅でも駅員さんたちの歓迎を受けながら、「富士山満喫トレイン」は、去年(2018年)、全通90周年を迎えた身延線に入ってきました。
富士から1つ目の柚木~竪堀間は、列車が富士山に向かって走って行くため、目の前に富士山が大きくなりながら、ぐんぐん迫って来る“かぶりつき”が楽しい区間。
東海エリアの車両は、特急・普通用車両共に、前面展望できるのが嬉しいですね。
15:30過ぎ、「富士山満喫トレイン」は富士宮駅の団体専用ホーム・1番線に無事到着。
定期列車では立ち入ることができないホームで、盛大な歓迎を受けるレアな体験です。
「JR東海ツアーズ」の3つのツアーとして販売された今回の「富士山満喫トレイン」。
私が参加したツアーは富士宮駅で解散となりましたが、もう2つのツアーの皆さんは富士宮駅近くの商店街を通って、「静岡県富士山世界遺産センター」へ向かいました。
もう少し“富士山満喫トレイン”気分を楽しみたかった私は、富士宮市街をぶらぶら歩いて、富士山と鉄道では外せない身延線・西富士宮~沼久保間へやって来ました。
線路沿いの田んぼには、早くも水鏡が!!
世界遺産センターで逆さ富士は撮影できますが、ココは田植え前後までの期間限定。
特急「ふじかわ」と一緒に“逆さふじかわ”も収め、「富士山満喫トレイン」の旅、完結です。
富士宮からの富士山は3,776mの剣ヶ峰が真ん中にやって来る、特に“美人”の富士山。
「富士山満喫トレイン」の車内でも、車窓から大きな富士山が見えると、首都圏などから参加された皆さんの歓声と共にカメラのシャッターを切る音が聞こえてきました。
富士山が見える鉄道は、それだけで立派な「観光資源」。
美しい車窓の富士山、そして富士山のある鉄道風景が、今後も地元の皆さんに愛され、全国・世界の皆さんにも“満喫”してもらえる機会が続いていってほしいものです。
5/4~6には、富士山本宮浅間大社の「流鏑馬祭」も行われるこの大型連休。
さあ、あなたも列車に乗って、いろいろな角度から富士山を眺めてみませんか?
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/