【ライター望月の駅弁膝栗毛】
桜咲く山形・霞城公園の横を走り抜けて行くE3系新幹線電車の「つばさ」号。
「つばさ」は少し速く走り抜けてしまいますが、例年、桜が見ごろの時期になると、この区間を走る奥羽本線・仙山線・左沢線の普通・快速列車は、徐行運転を行います。
何気ない日常の列車のなかに現れる、プチお花見タイム。
山形の春の風物詩ともいえる光景です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第15弾は、山形駅弁「もりべん」に伺っています。
「もりべん」は、昭和20(1945)年、駅前旅館の「森弁当部」として創業。
平成27(2015)年に、現在の「合同会社もりべん」となりました。
2年ほど前から体制を一新、いまも山形駅近くの社屋で毎日、駅弁作りを続けています。
朝9時、駅弁作りはひと休みで、地元の会議向けの仕出し弁当が作られていました。
今回はその2年ほど前に登場した新作で、いまは首都圏の主要駅などでも見かける駅弁「牛豚鶏の肉づくし」(1,200円)の盛り付け風景も見学させてもらいました。
肉駅弁の宝庫・山形らしく、牛・豚・鶏を1つの折でいただくことができる駅弁です。
こちらは、平成30(2018)年の「ファベックス惣菜・べんとうグランプリ」駅弁・空弁部門で、見事、優秀賞を獲得した駅弁でもあります。
まずは3分割された折に、山形米・はえぬきのご飯が盛り付けられます。
最初は「鶏肉重」のゾーンへ。
タレがいっぱいの肉団子が盛られて、錦糸玉子、鶏肉のもも焼きが載せられていきます。
おしまいに香の物が載せられて、まずは鶏肉重完成!
続いてはセンターの豚肉重。
3階の厨房で香ばしく焼き上げられた豚肉の肩ロースが白いご飯の上いっぱいに載せられて、さらに、ごぼう・椎茸・人参・筍…と、煮物が1つ1つ箸で、丁寧に載せられます。
3つの肉があり、数々の煮物があるということは、それぞれの製造工程があるということ。
「もりべん」の駅弁は、1つ1つの作業が本当に細かい!
最後は牛肉重のゾーンに、たっぷりの牛肉煮が載せられ、牛肉そぼろのしぐれ煮が架けられて、彩りのパセリを載せたところでようやく完成!
3つの肉の味が楽しめるのは、駅弁をいただくほうに立って考えれば、いろいろな味が楽しめて本当にうれしいのですが、作るほうの皆さんにとっては、たっぷり手間がかかります。
これはもう、お米1粒たりとも残したりできませんね!
掛け紙をかけるのも、もちろん手作業。
1本の輪ゴムをぐるっと巻き、手際よく両サイドを留めて、弁当を積み上げていきます。
ちなみに、コチラの駅弁は、東京都内の駅へ輸送されることも…。
ターミナル駅の陳列棚にいっぱい並んだ駅弁は機械化、大量生産のイメージがありますが、じつはこのように1つ1つ心を込めて作られている駅弁が、圧倒的に多いのです。
【おしながき】
・白飯(山形県産はえぬき)
・牛肉重(牛肉煮・牛そぼろしぐれ煮・パセリ)
・豚肉重(肩ロース炙り焼き・ごぼう煮・椎茸煮・人参煮・筍煮・絹さや)
・鶏肉重(もも照り焼き・肉団子・錦糸玉子・大根塩漬け)
ふたを開けたとき、白いご飯が見えないいっぱいのお肉は、やっぱり嬉しいもの。
“肉づくし”の駅弁名に、肉ばかり載っているイメージを抱いていましたが、真ん中の豚肉重ゾーンに、いい味付けの野菜の煮物もしっかり載っているのが有難くなります。
訊けば、1つ1つのおかずの仕込みのために、「もりべん」の皆さんは午前2時出社とか。
本当に作り手の皆さんに頭が下がります。
霞城公園で新幹線を撮影していた方のなかには、お堀の水鏡を撮りたいが故に、毎年通っている方もいらっしゃいました。
日が暮れ、ライトアップされた桜が水面に映る横を、「つばさ」号が駆け抜けて行きます。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第15弾「もりべん」編。
次回は「もりべん」の社長さんに、令和時代の駅弁屋さんが目指すところを伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/