番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は東日本大震災からちょうど6年ということで、被災地の一つ・岩手県で震災直後から行われている、ある支援プロジェクトを取材してみました。
お年寄りたちが手縫いで作る「復興ぞうきん」にまつわるグッとストーリーです。
盛岡市に拠点を置く、復興支援ボランティア団体「SAVE IWATE(セーブ・イワテ)」。その活動の一つに「紡ぎ組(つむぎぐみ)」というプロジェクトがあります。
支援物資として全国から寄せられたタオルを使って、被災者にぞうきんを縫ってもらい、1枚300円で販売するというもので、売り上げの半分・150円が被災者の収入になります。
その紡ぎ組を立ち上げた一人が、盛岡市に住む 岩崎友子(いわさき・ともこ)さん・48歳。
ボランティア仲間の山本成美(やまもと・なみ)さんと、震災直後から活動を続けています。
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岩崎友子さん(2016年お花見バス時)
「縫い手さんは今、30人ぐらいいらっしゃいますが、3分の1が80代の方です。一枚一枚、手縫いの素敵なぞうきんを作ってくれますよ」という岩崎さん。
これまでに販売したぞうきんは、累計でおよそ11万6千枚。被災者の生活支援に役立ててきましたが、金銭的なことよりも大きいのは「生きる張り合いが生まれること」だそうです。
いま盛岡市では、岩手県の沿岸部から避難してきた被災者に、民間から借り上げたアパートや、公営の住宅を「みなし仮設住宅」として提供しています。誰も顔見知りがいない街で、一人ポツンと孤独に暮らしているお年寄りも多く、だんだん無口になり、外出が苦痛になることも。
「何かすることがあれば、少しは気が紛れるんだけど…」という被災者の声を受けて、震災の翌月・2011年4月に、岩崎さんたちが考え出したアイデアが「復興ぞうきん」でした。
その頃、避難所には全国から支援物資として寄せられたタオルが山のように積まれていましたが、これを被災した人たちに渡して、ぞうきんを縫ってもらおう。それを販売して、収益が被災者に入るようにすれば、生活支援にもなると考えたのです。
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サロン作業風景
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ぞうきん縫いのようす
縫い手さんへの指示は最小限にとどめ、色もデザインもまったくお任せ。縫い手さんたちも「今度はどんなふうに縫おうかな…」と一枚一枚工夫を凝らし、中には凝った刺繍を入れる人も。
すべて手縫いで、同じぞうきんは一つとしてありません。
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復興ぞうきん
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復興ぞうきん
岩崎さんは言います。
「縫い手の皆さんがおっしゃるのは、ぞうきんを買って支援してくれる人たちに感謝の気持ちを伝えたいということです。その気持ちが、買ってくれた人にも伝わるんですね。ぞうきんを広げて『感動しました』という声も寄せられています」
縫い手さんは納品する際、ぞうきんを束ねる帯に、自分の出身地と名前を書くことになっています。
そうすれば、購入した人はぞうきんを使うたびに「大船渡の○○さんは元気かな?」と被災地のことを気に懸けてくれるようになる。そうやって岩手のことを思い出してもらうことも、「復興ぞうきん」の大きな役割なのです。
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お茶っこ
紡ぎ組を始めて6年。岩崎さんには忘れられない出来事があります。娘さんに連れられて紡ぎ組にやってきた、あるおばあちゃん。
はじめは被災したショックで目がうつろでしたが、ぞうきんを縫って持ってくるたびに笑顔が戻り、目を見て話してくれるようになりました。
「かなり辛い体験をされたんだな…でも人とつながることがエネルギーになるんだなと改めて思いました」
紡ぎ組では月4回、縫い手さんたちが作ったぞうきんを持ち寄る場を設けていますが、そこが近況を語り合ったり、情報交換をするサロンになっています。同じ被災者同士だからこそ気兼ねなく話せることもあり、仲間がいることを実感することが、明日を生きる活力になるのです。
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去年開催したクリスマス会のようす
岩崎さんは言います。
「手仕事って、人を元気にするんですね。被災者の方々がこの活動を必要としなくなるまで、紡ぎ組を続けていこうと思っています。縫い手のおばあちゃんたちの笑顔を、ずっと見ていたいですから…」