番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今日は自分の目で見て気に入った文具だけを扱う「夜だけ開いている文具店」をオープンした女性店主のグッとストーリーをご紹介します。
京成八幡駅から、線路沿いに歩いて7分ほど。千葉県市川市にある小さな文具店「ぷんぷく堂」。
日中はお店を開けず、営業するのは夕方5時から夜10時まで。
「だって、夜だけ開いている文具店があったら、面白いし素敵でしょ?」
そう語るのは、このお店の女性店主、櫻井有紀(さくらい・ゆき)さん・51歳。
有紀さんがこの場所に「ぷんぷく堂」をオープンしたのは5年前の4月のこと。
夫の善章(よしあき)さんと共働きで、いつか夫婦でお店を始めようと思っていた有紀さん。
文具店に決めたきっかけは、その少し前から集めていた「昭和の鉛筆」でした。
最初はオークションで見掛けたものを競り落としていましたが、そのうち廃業した文具店からストックを丸ごと譲り受けるようになり、コレクションが何グロスもたまってしまったのです。
「削るのがもったいなくて使えなかったんですけど、やはり文具は使ってあげないとかわいそう。誰かに使ってもらいたくなって、思い切って売ることに決めました」
どうせ売るなら、鉛筆だけではなく、書く紙なども売ろうと思い付いたのが、文具店でした。
しかし、普通の文具店では、近所にある大型量販店の文具売り場に太刀打ちできません。
ぷんぷく堂で扱っているのは、有紀さんが実際に自分の目で見て、心ときめいた文具だけ。
ときめく基準は「ほかの文具店には置いていないもの」です。すでに製造中止になってしまったレトロな鉛筆や万年筆、高品質の紙を使った糸とじノートに、昔懐かしいクレパスの形をした消しゴムなど、有紀さんがこだわって集めてきた商品を、あえて定価で販売するのがお店のコンセプト。
「ここにしかない文具」が、この小さなお店にはあふれています。廃業したお店から譲ってもらった昭和の陳列ケースや、外にはかつて配達用に使われていた自転車も置いてあり、文具好きにとっては、まさにパラダイスのような場所。
しかし宣伝費用もなく、開店してから1年半は、ほとんどお客さんが来ませんでした。落ち込む有紀さんでしたが、当時印刷会社に勤めていた夫の善章さんがこう励ましてくれました。
「5年は続けよう。自分も応援するから。」
この一言に勇気付けられた有紀さんは、お店を続ける覚悟を決め、そのうちSNSやツイッターを中心に、口コミでお客さんが増えていきました。有紀さんは必ず、来てくれたお客さんたちにその文具のバックグラウンドを説明することにしています。
「どういう経緯でこの文具が誕生したのか、そのストーリーを知ってもらうことで、文具のぬくもりが伝わるんです」
商品が並ぶケースに“引き出しの中も開けてみて”というシールが貼ってあるのも、文具と出逢うワクワク感を楽しんでもらうため。
「わあ!」と思わず歓声をあげるお客さんがいたり、親子でやって来て「これ、懐かしいな!」と親御さんの方が夢中になってしまうことも多いとか。
最近は「こんな文具があったらいいな」という声を形にした、ぷんぷく堂オリジナル商品の販売も始めました。
その一つが「半分鉛筆」です。通常のペンケースはボールペンサイズで、新品の鉛筆は長くて入りませんが、初めから半分の長さなら問題なくケースに入ります。
そのほか、インスタグラムに手書きの文章を写真でアップできる、正方形のミニ原稿用紙「1日100文字したたメモ」など、お客さんとの会話の中で浮かんだ文具を、手作りで開発。
夫婦で企画会議をして、試作品を作り、商品名を決めるときがいちばん楽しいそうです。
こちらも好評で、大手百貨店から「うちでも取り扱いたい」という声も掛かるようになりました。
去年の春から、夫の善章さんは印刷会社を退職、店員としてお店を手伝ってくれるようになり、有紀さんが接客に費やす時間も増えました。お店にやってきた人たちと、大好きな文具を通じて交流するひとときが、なにものにも代え難い喜びだそうです。
「『テーマパークみたい』と言ってくれるお客さんもいるんですよ。これからもここで、自分が素敵だと思う、夢のある文具をお客さんたちに届けていきたいですね」
番組情報
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