熊本駅には、全国的にも珍しい「0番線」を二つに分けた「0A」・「0B」のりばがあります。
このホームから発車するのが「豊肥(ほうひ)本線」。
豊肥本線は、阿蘇の広大なカルデラの中を通って、大分(豊後)と熊本(肥後)を結ぶ路線です。
熊本~水前寺~肥後大津(ひごおおづ)間は電化されていますが、先の大分方面は非電化のため、キハ200系をはじめとしたディーゼルカーの列車も熊本駅に乗り入れています。
ただ、現在熊本駅から発車する豊肥本線の列車は、ほとんどが「肥後大津」行。
それというのも、豊肥本線の肥後大津~阿蘇間は、去年4月の熊本地震で、大きな被害を受けてしまい、今も復旧のめどが立っていません。
この区間には、全国的にも貴重なスイッチバックや、南阿蘇鉄道が分岐する立野駅もあり、甚大な被害を受けてはいますが、何とか復旧を応援したいものです。
今回は、肥後大津駅東口から「九州横断バス」に乗り継いで、名湯・黒川温泉を目指します。
「九州横断バス」は、熊本市内と阿蘇、黒川温泉、由布院、別府を結ぶ定員制の路線バス。
原則予約制で、空席がある場合のみ、当日でも乗車できます。
予約をした人は優先乗車でき、予約の無い人は降車予定地を運転手さんに申し出てから乗車。
「Suica/PASMO」などの交通系ICカードも使えます。
(九州横断バス予約・案内センター 096-354-4845 平土日祝/8:00~19:00)
「九州横断バス」は地震の影響で、熊本~別府1往復、熊本~由布院1往復の4本が運行中。
ただ、国道57号が通行止めのため、通称「ミルクロード」へ迂回運行を強いられています。
大津駅南口を出ると、次の停留所は、阿蘇のカルデラに入った乙姫ペンション村入口。
この迂回のため、肥後大津駅から30分ほどで、早くも阿蘇の山並みを一望できるスポットに・・・。
外輪山の斜面には所々、痛々しい箇所も見受けられますが、車の通行には問題ありません。
肥後大津駅からおよそ50分、「九州横断バス」はJR阿蘇駅前で10分のトイレ休憩。
駅構内には、あの「ななつ星in九州」の朝食が提供される「火星」というレストランがありますが、地震以降、阿蘇を通らないルートとなっているため、お店もお休みとなっています。
駅にいた観光協会の方によりますと、「火星」を運営されている内牧温泉のお店が地震で被害を受けてしまったこともあり、「火星」のほうまでなかなか手が回らない事情もあるそうです。
肥後大津から1時間半あまり、阿蘇駅からは40分あまりの「黒川温泉」バス停で下車。
バス停は、国道442号沿いの温泉街の入口にあります。
大津駅東口13:22発の7号は、黒川温泉15:09着という宿のチェックインに合わせたダイヤ。
この「九州横断バス」が、阿蘇くまもと空港から黒川温泉にアクセスできる唯一の公共交通ということもあり、バスが着く頃になると、お宿の送迎車がバス停周辺に集結します。
黒川温泉といえば、何と言っても露天風呂!
お世話になったのは、黒川温泉随一の老舗、「歴史の宿 御客屋」です。
江戸時代の創業で、肥後細川藩の御用宿としての歴史を持ちます。
「代官の湯」は、最後の熊本藩主・細川護久公も愛でたという効能豊かな湯。
早々に部屋に荷物を置いて、まだ誰も入っていない一番風呂は、ホント気持ちいい!!
黒川温泉の凄いところは、酸性のお湯から中性、アルカリ性、透明なお湯からいわゆる“にごり湯”まで、宿によって、色んな泉質のお湯が楽しめること。
それゆえ、湯めぐりを楽しめる「入湯手形」が大きな人気を集めている訳です。
この「代官の湯」には分析表上、63.4℃、ph2.8、成分総計870mg/kgの酸性・鉄(Ⅱ)―単純温泉が注がれているハズですが、アレ?酸性の割に手触りが何となくまろやか・・・。
実は「代官の湯」の源泉は、地震の後から湧出が不安定になってしまったそう。
このため、一時は温泉街の共同源泉のお湯を使って凌ぎながら、元の源泉から2m隣を再掘削、今年になってようやく安定したお湯が得られるようになり、少しお湯が変わったといいます。
宿の命ともいうべき温泉の危機に、御客屋さんのご苦労もそれは大きかったことでしょう。
人の力では制御できない地殻の動きに左右される温泉・・・、温泉もまた「生き物」なのかも。
御客屋さんは、夜と朝で、男女の風呂が入れ替わります。
朝は、宿泊者限定の露天風呂「里の湯」を堪能。
立ち湯や寝湯もあって、のんびりとお湯を楽しむことが出来ます。
コチラに注がれているのは、黒川温泉の共同源泉のお湯。
湯温は95.8℃、ph6.7、成分総計1,580mg/kgのナトリウムー塩化物・硫酸塩泉です。
黒川の様々な泉質の温泉・・・、違いが分かるようになるには、自分の体で感じるのが一番!
ゆっくり泊まって、マップ片手に湯めぐりを楽しめば、体が癒されているうちに、きっと「違いの分かる人」になれますよ!!
今はLCC(格安航空会社)もありますので、時間が出来たらサクッと熊本へ行って、思い思いの温泉を楽しめる時代ですが、なかなか時間が取れないという人も少なくありませんよね。
例えば、熊本の食材を使った駅弁を食べて、旅気分を味わうのもアリかもしれません。
鹿児島・出水の「松栄軒」が熊本向けに作っている「くまもとランチBOX」(1,200円)もその1つ。
2月に行われた「第12回九州駅弁グランプリ」の決勝大会にも残った駅弁です。
くまモンが描かれたフタを開けると、牛そぼろと鶏の照り焼きがたっぷり現れました。
牛肉は「くまもとあか牛」と「熊本県産黒毛和牛」を使用。
鶏肉は「大阿蘇どり」を使用しています。
味付けご飯の米は、特A評価を受けた熊本県産米「森のくまさん」100%!
熊本が誇るブランド米「森のくまさん」を使った駅弁は、目下、この駅弁くらいです。
「松栄軒」松山社長によると、この駅弁を作り上げる上では難しいことも沢山あったそう。
出来れば、阿蘇の「あか牛」をたっぷり使いたかったそうですが、食材確保の安定性から、「あか牛」や「大阿蘇どり」などを組み合わせた構成になったといいます。
もちろん、この駅弁の食材の仕入れは、みんな熊本から。
東京などでも販売がありますので、気軽に食べて熊本を応援できる駅弁です。
JRは4月1日で「30周年」。
これに合わせて、4/1までインターネット限定で「30周年ネット九州パス」が販売されています。
利用日7日前までにインターネットで予約すれば、九州全線の新幹線・特急自由席に乗車出来て、2日用が15,000円、3日用は20,000円という価格設定。
いい温泉、いい景色、いい食べ物・・・、春の九州を少しお得に満喫してみてはいかがでしょうか?
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/