それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
「路地裏」…。
この言葉の奥から、どんな音が聴こえてきますか?
小走りの下駄の音。豆腐屋さんのラッパ。井戸端会議の笑い声。
どこにでもあった暮らしの音。聴こえなくなってしまった路地の声。
その一つに、子どもたちが遊ぶ声があります。
メンゴ、ベーゴマ、ボール投げ、ゴム飛び、いろんな遊びがありました。
路地裏の声や音を、根こそぎ奪い去ってしまったものは何か?
それをよみがえらせることは、もう出来ないものなのか?
この難しい取り組みにチャレンジしているのは、一般社団法人「TOKYO PLAY」代表理事の嶋村仁志(しまむらひとし)さん、48歳。
ここでは、あえて仕掛け人と呼ばせていただきましょう。
先月のある日曜日。
千葉県柏市のJR柏駅前の商店街で、その試みの一つが実現しました。
車を止めて道路を歩行者天国として開放する。
言い方を変えれば、道路を子どもたちに返す。
街に子どもがいる風景を守りきれなかった私たち大人社会の責任を、一日くらい果たそうじゃないか返そうじゃないか~という試みです。
びっくりしたのは、いきなり「道路で遊んでいいんだよ」を言われた子どもたちのほうでしょう。
魚、星、ゲームのキャラクターなどを、チョークで恐る恐る路面に描いていく子どもたち…。
「道に落書きしたことなんで初めて」
「最初は本当にいいのかなって思った」
こんな子どもたちの声は、戸惑いながらもどこか、弾んでいるようです。
嶋村さんは言います。
「子どもたちが戻ってくれば、大人たちも集い始めるでしょう。道路は素晴らしい社交場になるはずなんです。」
嶋村仁志さんは、1968年、東京生まれ。
子どもの頃は、近所の空き地や家の前の路上で、野球と自転車乗りと缶けり三昧の日々を送っていました。
1996年世田谷区の「羽根木プレーパーク」のプレイリーダーになった嶋村さんは、金づちやノコギリを使ってのモノづくり、穴を掘ったり、川を作ったり~といった遊び方を子どもたちに指導してきました。
こんな嶋村さんの胸の中に、一つの想いが降り積もっていったといいます。
「遊び場から抜け出して、子どもたちが街なかに飛び出していかなければ、街は変わらない」
この想いが確信に変わったのが、2007年からのイギリスヘの留学体験。
ヨークシャー州のハルという港街では、宝くじの助成金で運営されている「LONDON PLAY」の運動が、3年で110カ所も行われていました。
普段は、ビュンビュン走っている車も路上駐車の列も一掃されて、路上には30センチ四方の生の芝生が敷き詰められ、そこに広大な遊び場が出来上がっていたといいます。
思い思いの遊びに興じる子どもたち。それを見ながら語らう大人たち。
2012年のロンドンオリンピックでは、イギリス人が金メダルを取るたび、各地の路上が開放され、大人も子どもも喜びを分かち合ったといいます。
(これが東京で実現したら、どんなに素晴らしいだろう!)
嶋村さんはこの「LONDON PLAY」をモデルに、2010年秋「TOKYO PLAY」を設立。
そのミッションを
「すべての子どもが豊かに遊べる東京を」
と決定しました。
ボール遊びをしたり、三輪車を漕いだり、大好きなアイスを食べたり、「あーそーぼ」と誘ったり「ねぇ、ねぇ、まぜて」と頼んだり…。
嶋村さんは、今年中に都内で20カ所、東京オリンピック・パラリンピックの2020年には、100カ所で道路遊びの呼びかけを目指しています。
これは、とても地道で遠回りの活動かも知れません。
けれども人間同士がふれ合い、絆を保っていくための本当の近道なのかも知れません。
2017年5月24日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ