さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、6月3日から公開となる『海辺のリア』を掘り起こします。
仲代達矢×小林政広が描く、生きる映画史
世界が恋したフランスの映画スター、アラン・ドロンが引退宣言をしたのは、先月のこと。
81歳のアラン・ドロンの「もう年を重ねた。人生の終わりではないが、キャリアの終わりだ」という印象的なコメントと共に話題となりましたが、同世代で御歳84歳のこの方は「人生もキャリアも現役」と、頼もしい限り。
日本が世界に誇る名優・仲代達矢の最新作『海辺のリア』は、俳優・仲代達矢そのものがスクリーンに焼きつけられた意欲作です。
桑畑兆吉。舞台に映画にと役者として半年以上のキャリアを積み、さらに俳優養成所を主宰し後進の育成にも力を注ぐ大スターだった。
しかし芝居をこよなく愛し続けた彼にも、いまでは認知症の疑いが。長女の由紀子、その夫で兆吉の弟子だった行男、由紀子の愛人の運転手に裏切られ、遺書を書かされた挙句、高級老人ホームへと送り込まれる。
ところが兆吉はその施設を脱走。シルクのパジャマ姿にコートを羽織り、スーツケースを引きずり、あてもなく海辺をさまよっていた。その海辺で、兆吉は娘・伸子と突然の再会を果たす。
伸子は兆吉が妻とは別の女に産ませた子だった。彼女にシェイクスピア作の悲劇「リア王」に登場するリアの末娘・コーディーリアを重ねた兆吉は、『リア王』の狂気が乗り移ったかのようにかつての記憶が溢れ出し、兆吉の心に人生最後の輝きが宿る…。
桑畑兆吉役は、俳優人生65年のキャリアを持つ、仲代達矢。
「この作品は“仲代達矢のドキュメンタリー”」と自ら語るほど、自身と主人公を重ね合わせて演じ、その迫力たるやまさに「リア王」の狂気に通じるものが。
共演するのは、日本映画界の顔とも呼べる錚々たる面々。
生き別れの娘・伸子に黒木華、正妻の娘・由紀子に原田美枝子、運転手に小林薫、由紀子の夫・行男に阿部寛、それぞれの人生を生々しく体現しています。
メガホンを取った小林政広監督が仲代氏とタッグを組むのは、これが3作目。
『愛の予感』がロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞に輝くなど、独創的な作風が国内外で高く評価されてきた小林監督が執筆したオリジナルストーリーは、仲代達矢という“役者の魂”をスクリーンの中で解き放ちました。
3人の娘を持つリア王が長女と次女に国を譲るも、2人に国を追い出され、末娘の力を借りて2人と戦う…という、シェイクスピアの四大悲劇のひとつ「リア王」。
映画・演劇の世界において、シェイクスピアの戯曲をモチーフにオリジナル脚本を構築した作品は数ある中でも、本作は観るほどに唸ってしまうほどの傑作。
人間、老いて変わっていくものもあれば、変わらないものもある。
子供の顔は分らなくなってもリア王の台詞だけは忘れない兆吉の神々しい美しさに圧倒されることでしょう。
“生涯現役”を明言し、役者道を突き進む仲代達矢のさらなる境地、是非とも触れてみて。
海辺のリア
2017年6月3日からテアトル新宿・有楽町スバル座 ほか全国ロードショー
脚本・監督:小林政広
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛
©「海辺のリア」製作委員会
公式サイト www.umibenolear.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/