それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
今回の九州北部豪雨で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内の小学校グランドで40戸の仮設住宅の建設が進められていますが、県は入居を希望する住民が多いことから、さらに40戸の追加を決めました。
朝倉市の筑後川の近くにある国の史跡・三連水車は、朝倉市のシンボルです。
田んぼに水を引き込むため江戸時代に作られ、観光スポットとして親しまれて来ましたが、今回の豪雨で流木や土砂を受けて使えなくなっていました。
しかし、地元の農家の人たちによる復旧作業が始まり、先週からは朝倉市が本格的に復旧工事に乗り出しています。
こうして、大きな被害の中からも明日への希望が着々とよみがえっていますが、中には、決して取り返しのつかないものもあります。
朝倉市で明治時代から続く藤井養蜂場では、施設内で飼育していたミツバチ、25万匹が全滅してしまいました。
筑後川の近くにある藤井養蜂場は、1909年の創業。
品質管理では定評のある製造工場のほか、ハチミツのソフトクリームで有名な喫茶店や、養蜂を学べる施設も併設され、親子連れでにぎわう人気スポットでした。
雨の勢いが急に増したのは、5日の午後からでした。
降るというより、たたき付けるような豪雨は、一向に衰える気配がありません。やがて山の中の水系が氾濫して、泥水が1万平方メートルほどの敷地に流入。
藤井養蜂場専務の藤井敬三さんは振り返ります。
「恐怖を覚えるほどの水の量でした。ハチは、もうダメかなぁと思いましたが、従業員の身の安全と引き換えるわけにはいきませんでした」
およそ50人の従業員のみなさんは、事務所の2階に避難。
誰もが、ミツバチのことを気にしていましたが、そのことを口に出せないまま、不安な一夜が更けていきました。
翌朝、藤井さんたちが目にしたのは、泥をかぶったミツバチの巣箱。
一つの巣箱には、およそ3万匹のミツパチと女王蜂が飼育されています。
それが8箱で25万匹。ほうぼうへ飛んで、花のミツを集めて来てくれたハチたちが、全滅してしまったのです。
4000本ほどの瓶詰めにされたハチミツも水に漬かり、売り物にならなくなってしまいました。大きなショックを受けて、茫然自失。
従業員の中には自宅が流されてしまった人もいましたが、営業再開へ向けて、黙々と泥水のかき出しをしていたといいます。
こうした努力の甲斐あって、藤井養蜂場は、13日に営業再開!
しかし、同じ豪雨被害が発生した大分県日田市の山林にも巣箱があります。
被害の状況は、まだ確かめられませんが、藤井さんは「ダメかも知れません」と、肩を落とします。
こんな中、藤井養蜂場には、ひとすじの希望が残っています。
それは、全国の花の開花時期に合わせて巣箱を移す「移動養蜂」を手がけていること。
巣箱を持った5代目の藤井社長が、鹿児島、熊本、福岡、青森、秋田と旅を続けて今、北海道にいるのです。
北海道にいるミツバチが集めたハチミツが、今後の藤井養蜂場をささえてくれるはずです。
悪夢のようだった豪雨災害・・・。
しかし、人間もミツバチたちも、決して希望を失いません。
2017年7月26日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
※上柳昌彦休演のため、渡辺一宏が代演
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ