
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
工場マニア、団地マニア、廃墟マニア…
いろんなマニアがいますが、萩原雅紀(まさき)さんは「ダムマニア」です。
42歳の萩原さんがダムにハマったのは、24才の頃。

萩原雅紀(まさき)さん
ある日、地図を見ながら厚木のあたりドライブしていた時、建設中のダムがあることを知り「よし行ってみよう!」となりました。
相模川の支流、中津川に沿って走っていくと、途中で通行止め!それ以上、奥に進めません。
でも、その場所がどうしても気になった萩原さん、諦めずに何度か出かけてみると、1年後通行止めが解除になっていたんです。
新しい駐車場が出来ていましてね、そこに車を止め、遊歩道を歩いて行くと、いやぁ、びっくりしました。目の前にドーン!と150メートルのコンクリートの壁!子供の頃、小河内ダムを見に行ったことはありますが、あんな巨大なダムを、真下から見上げたのは、初めて!なんだ、この巨大さは!ダムって、ヤバい!そう思いましたね。

宮ヶ瀬ダム
今では人気スポットになっている「宮ヶ瀬(みやがせ)ダム」でした。
それが2000年の頃で、それをきっかけに萩原さんは「ダムマニア」となり、『ダムサイト』というホームページを開設し、会社の休みを利用して、ダム巡りの旅をするようになりました。
ところがちょうどその頃、長野県の脱ダム宣言や、群馬県の八ッ場(やんば)ダム建設中止騒動などと共に、ダムは環境破壊!税金の無駄遣い!ムダ!といった風が吹き荒れ、ダムは〝冬の時代〟を迎えていました。
話を聞きに、管理事務所を訪ねたら『ダムを見て、何が楽しいの?』と言われました。職員の皆さんは自分の仕事に、やりがいを感じているようには見えませんでしたね。
ホームページ『ダムサイト』には「人気投票ランキング」があって、開設当初は埼玉と群馬の間にある「下久保(しもくぼ)ダム」が1位でした。それを見た下久保ダムの職員から、ある日メールが届きます。
『どうして下久保ダムが1位なんですか?』という問合せに、私なりに分析し、人気の理由を返信すると、その職員さんは自分が守っているダムが人気一位だということにすごく喜んでくれましてね。
それ以来、萩原さんとその職員さんとの交流が続き、トークライブを開いた時、わさわざ下久保ダムから見に来るほどの関係になったそうです。

下久保ダム
そのトークライブで、ポケモンカードみたいな『ダムカード』を作ったら、それを貰いに、職員と観光客の交流が生まれるのでは…、そんな話をしたんです。
するとそれを聞いた下久保ダムの職員さんが、国交省の会議で提案してくれて、それはいい!となって、いまから10年前、2007年の夏『ダムカード』が誕生しました。
4月現在、569カ所のダムで『ダムカード』が無料でもらえます。
ダムの写真とデータが載っていて、子供たちの間でも人気で、このカードを貰いにダムを見に来る人が年々増えています。
萩原さんは、北海道から沖縄まで、500のダムを見て来ました。
人類が作り出した構造物の中でも最大級で、二つと同じものがないこと…
そんなダムの魅力を、ふんだんに盛り込んだ写真集『ダムに行こう!』を出版した萩原さんは写真集の中で、こう綴っています。

ダムに行こう! (空撮DVD付き ダム写真集) 萩原 雅紀, 庄嶋 與志秀
ダムをめぐることは、つまり全国を旅することである。地域や流域によってダムの形式や用途が異なるので、ダムを見れば、その周辺の事情が浮かび上がってくる。洪水が起きやすいのか、地質は硬いのか、もろいのか。発電用ダムが多ければ、急流で水量が豊富な川なんだな、ため池が多ければ農業が盛んなんだな、といったことも分かる。ダムを見るということは、その川や流域にとどまらず、国全体を見ることにも繋がっていくのだ。
ダムマニアの萩原さん…、原点となった宮ヶ瀬ダムの所在地に戸籍を移すほどのこだわりです。3年前、娘が誕生した時、ダムにまつわる名前を考えましたが、それだけは、奥さんの「ダメ!」の一言で却下されました。
2017年7月5日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
写真集『ダムに行こう!』は、萩原雅紀さんの写真と解説、そしてカメラマンの庄嶋與志秀(しょうじまよしひで)さんが撮った、迫力あるドローン映像のDVD付きです。
黒部ダム
この夏オススメのダムは、近場なら神奈川県の宮ヶ瀬ダム。
ちょっと足を延ばすのなら、やはり「黒部ダム」。
黒部ダムは、いま観光放水が始まっていて、朝から夕方まで毎秒10トンの豪快な放水が10月15日まで見られます。