番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、知的障害を持つ子どもたちのために、パン屋さんを始めて30年、自立の手助けをしている、あるお母さんのグッとストーリーです。
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こちらが太陽パンのお店です 美味しそうな匂いが漂ってきそうですね
食パン、ロールパン、あんパン、ジャムパンに、5種類の野菜が入った「健康パン」…福岡県北九州市にある「太陽パン」の工場でパンを焼いているのは、知的障害を持つ人たちです。
「次はメロンパン、作りたい人?」「はーい!」…手を挙げる従業員たちにパン作りを一から教えているのは、「太陽パン」の設立者の一人、岡崎君子(おかざき・きみこ)さん・73歳。君子さん自身も、自閉症の長男・拓(たく)さんを抱えるお母さんでした。
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作業中の岡崎君子さん 丁寧にパン生地をまとめています
「うちの子は養護学校に通っていたんですが、当時は学校を出ても働く場所がないので、卒業しても行き場がなかったんです」という君子さん。家にいてもすることがないので、毎日、養護学校に遊びに来ている卒業生たちを見て、君子さんはショックを受けました。
「何とかこの子たちが働ける場所を作って、生き甲斐を与えてあげたい」と考えた君子さん。同じ考えの保護者たちとグループを作り、自宅そばの空き家を借りて、今からちょうど30年前、1987年10月1日に、4家族8人・ボランティア2人で「太陽パン」を開店しました。この名前には「太陽は誰にも分け隔てなく、公平に光を注ぐ」という意味が込められています。
パン屋さんを始めた理由は、君子さんによると「昔、小倉で勤めていたとき、会社の近くに揚げパンを売っているお店があって、いつも大繁盛していたんです。『それなら私たちにもできるのでは?』と思ったんですが、甘かったですねえ…(笑)」
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食材を厳選して焼かれた太陽パン その中でも大人気の健康パンがこちら
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焼かれたパン肌の照りが美しいです どれも美味しそうですね
岡崎さんたちはオーブンを購入し、パンを焼き始めましたが、メンバー全員が素人だったため、思うように焼けず、悪戦苦闘が続きました。君子さんは、パン職人を養成する佐賀県内の教室を紹介してもらい、半年間通って、必死で技術をマスター。それを障害児たちに伝えていきました。
保護者の間には「そんなに難しいことを、知的障害のある子にやらせるなんてかわいそう」と反対する声もありましたが、岡崎さんはそんなことはない、と周囲を説得しました。
「私たちが必死でパン作りを覚えて、一所懸命作っていたら、あの子たちにもそれが分かるんでしょうね。見よう見まねで、自分たちも必死にパンを作ろうとするんです」
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太陽パンの作業風景 一生懸命パン生地をまとめていきます
パンを作る楽しさを知ることで、社会参加する方法を知り、人間的にも成長していく障害児たち。開店当時、パンの種類は食パン・ロールパンの2つだけ。形はいびつで、大きさも不揃いでしたが、君子さんたちには、一つの信念がありました。それは「添加物を一切使わないこと」。
イーストと砂糖・塩だけを使い、余計な添加物の入っていない「太陽パン」は「障害者が、美味しいパンを焼いている」と評判になり、あちこちから注文が相次ぐようになりました。
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開店以来30年、パンを焼き続けてきた岡崎拓さん
今年10月、創立30周年を迎えた「太陽パン」。現在は20代から60代まで11人の障害者が5人の支援員のサポートを受け、10種類以上のパンを焼いています。君子さんの長男・拓さんも、開店以来30年、今年のはじめまで一緒にパンを焼いていましたが、2月に持病の心臓病が原因で、突然、帰らぬ人に…。まだ48歳の若さでした。さらに、陰で活動を支えてくれた夫の務(つとむ)さんも急死。大事な家族を、相次いで失ってしまった君子さん。
でも今は、所長を務める次男の圭(けい)さんが、君子さんを支えてくれています。次の世代へ完全にバトンタッチするまで、もうちょっと頑張りたい、という君子さん。パンと一緒に、お客さんに渡すしおりには、いつもこう書いています。
「このパンやクッキーが美味しいとしたら、それは彼らの“心の味”です。もし温かいと感じたら、それはあなたの心です・・・」
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太陽パンの輝きも、誰にも分け隔てなく、公平に光を注いでいきます
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年11月11日(土) より