【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成29(2017)年12月9日(土曜日)、JR盛岡駅の2番ホーム。
盛岡周辺ではちょっと珍しい2両編成の列車がやって来ました。
列車の名前は「リゾートあすなろ」。
普段は青森を中心に運行されているハイブリッドシステムを搭載したリゾート車両です。
この日は、団体臨時列車「おいしい山田線号」として、山田線を三陸・宮古に向かいます。
(リゾートあすなろ)
https://www.jr-morioka.com/noccha/train/asunaro/
山田線は、盛岡から宮古を経由して釜石までを結ぶ157kmあまりの路線です。
「山田」という路線名は、三陸沿岸・宮古~釜石間にある「山田町」に由来します。
しかし、宮古~釜石間は、平成23(2011)年の「東日本大震災」で大きな被害を受け、現在も運転を見合わせており、復旧工事が行われています。
加えて、平成27(2015)年12月には、松草~平津戸間で土砂流入災害が発生。
これに伴って、盛岡~宮古間の直通列車も運休を余儀なくされていました。
厳しい気象条件などをクリアして復旧工事が終わり、今年(2017年)11月、およそ2年ぶりに宮古までの直通運転が再開されたんですね。
そんな山田線・盛岡~宮古間の運転再開をきっかけとして、この冬の週末は、様々な臨時列車や、団体列車が運行されることになっています。
「おいしい山田線号」はその第1弾、12/9に盛岡~宮古間を往復するツアー(4800円)の列車として、64名限定で運行されました。
東京からの1番列車「はやぶさ1号」にも接続して、定刻通り9:01に盛岡駅を出発です。
山田線は、盛岡駅を出ると青森方面に向かって走り始め、程なく右に大きく弧を描いて、北上川を渡って東へ向かいます。
盛岡から3つ目の駅・上米内(かみよない)までが、盛岡の郊外といったところで、その先は、険しい北上高地越えに挑みます。
盛岡~宮古間は快速「リアス」で2時間あまり、厳しい地形の中を走る様子が伺えます。
さて、「おいしい山田線号」の車内では、早速、宮古の名物「いかせんべい」と「かわいブラックビーンズジュース」が乗客に配られました。
実はこの列車、その名の通り、車内でいろんな食べ物が次から次へと出てくるのです!
山田線の沿線には、野菜や魚・お菓子など、地元の方に古くから親しまれてきた素朴で美味しい食べ物がいっぱいあるんだそう。
そんな食べ物を少しずつ試食しながら、盛岡から宮古への2時間あまりを過ごして、宮古では浄土ヶ浜の絶景を鑑賞出来て、さらに浄土ヶ浜レストハウスで使える1000円分のお買物券も付いた、いろんな意味で“おいしい”ツアーなんですね。
盛岡市と宮古市の境にあるのが区界(くざかい)駅。
駅の標高は744mあり、山田線はもちろん、東北地方でも最も高い所にある駅です。
訪れた日、盛岡市街地にはほとんど雪がありませんでしたが、区界では銀世界に・・・。
凍てつく寒さの中、駅員さんたちが目いっぱいのおもてなしです!!
こういったあったかいおもてなしがあるから、観光列車の旅は楽しいんですよね。
続いて配られたのが、岩手では有名な漬物「がっくら漬」と「友情キムチ」、さらに宮古の地酒「千両男山」。(お酒が苦手な方には「さんてつサイダー」)
そう、ココで「酒」を出すのが大事!
クルマ旅に慣れている方には、思い切り「酒が呑める幸せ」を鉄道で味わってほしいのです。
ちなみに、「がっくら漬」の“がっくら”とは、鉈で大根を“ガックラ、ガックラ”と豪快に切り落とすことに由来しているんだそうで、旧・川井村のエリアで作られたこの漬物は非常に美味!
「友情キムチ」は韓国との交流の中で生まれたことに由来するネーミングなんだそうです。
山田線の素晴らしいところは、乗っているだけで、昭和のローカル線にタイムスリップした感じがすること。
私も何度か盛岡~宮古間に乗車していて、車窓を眺めていても、決して民家が多いとは言えない沿線ですが、交換設備のある駅には、昔懐かしい雰囲気の木造駅舎が健在なんです。
今回の「おいしい山田線号」も、そんな雰囲気の中で駅員さんが垂れ幕を掲げ、見送って下さいました。
そして「おいしい山田線号」の旅で面白かったのが、車内で行われた「ミニ栄養学講座」。
岩手県立大学盛岡短期大学部(生活科学科食物栄養学専攻)の学生さんが2名乗車して、乗客に提供される食材の、カラダへのいい影響を解説してくれました。
ココも「大学生」というのが大事なところで、高校卒業後、車の免許を取得すると、鉄道と遠くなってしまう世代を取り込んでツアーを行っていたのがいい取り組み。
欲を言えば、岩手の言葉でいっぱい訛って解説してくれたら、もっと良かったですよ!
茂市(もいち)駅は、かつて岩泉線が分岐していた駅。
岩泉線は、残念ながら今から3年前の平成26(2014)年に廃線となってしまいました。
私自身は3回くらいしか岩泉線に乗ることが出来ませんでしたが、乗り換えの待ち時間などに駅には滞在したことがあり、キハ52形気動車に揺られた旅の記憶が甦ってきました。
そんな岩泉を思い出させてくれたのが、最後に配られた「岩泉乳業」の「岩泉ヨーグルト」。
「低温長時間発酵」製法と、アルミ袋の中で発酵させる「後発酵」製法を取り入れることで、「もちもち感」のある独自の風味を作り出すことが出来たといいます。
今回、車内では口当たりのいい「加糖」タイプが試供されました。
確かにもちもちした食感は珍しく、お腹弱めの私にも優しくて、美味しく食べられました。
この「岩泉乳業」も、去年(2016年)の台風で大きな被害を受け、実は岩泉ヨーグルトも、今年秋に復活を果たしたばかりなんです!
(岩泉乳業)
http://www.iwaizumilk.co.jp/
HB-E300系のリゾートあすなろによる「おいしい山田線号」は、定刻通り11:19に宮古駅へ。
小腹も満たすことが出来て、ちょっと賢くなれる2時間15分あまりのローカル線旅。
広いシートピッチとリクライニングシート装備のリゾート車両で、今までとはちょっと違った「山田線」の旅を楽しむことが出来ました。
浄土ヶ浜の美しい景色は、また次回、ご紹介いたしましょう。
さて、宮古といえば、忘れちゃいけないお弁当!
宮古を訪れる度に、お邪魔しているのが、駅のスグそばにある「魚元」さんです。
「魚元」も、東日本大震災で床下浸水の被害を受けましたが、1か月ほどで営業再開。
現在、宮古駅構内での販売は行われていませんが、事前に電話予約(0193-63-1700)を入れ、駅から歩いて1~2分のお店へ足を運べば、いつもの味に出会うことが出来ます。
駅弁膝栗毛で「海女弁当」をご紹介するのは、およそ1年半ぶり。
去年伺った時は、山田線が沿岸部だけでなく盛岡~宮古間も止まっていたため、鉄道で宮古へアクセスするには、八戸~久慈~三陸鉄道(北リアス線)経由しかありませんでした。
女将の張間さんが“売りたくても列車が来ない・・・”とこぼされていた様子を見ていただけに、運転再開の折には、ぜひ山田線経由で宮古を訪問したかったのです。
(海女弁当)
https://www.1242.com/lf/articles/13701/?cat=gourmet&feat=ekiben
三陸の海の幸が、たっぷり載った「海女弁当」。
イカ、ズワイガニ、イクラ、焼きうにといった食材が、当たり前のように載っていること自体が、なんか嬉しくてありがたく、しっかり噛みしめながら、美味しくいただくことが出来ました。
訪れた日は、三陸鉄道で運行された団体列車のお客さんへ、頑張って「北の祭弁当」を30個納められたそうで、団体&個人の程よい需要で、何とか宮古の味を支えたいものです。
日常的には見ることが出来ない、宮古駅に停車中の「リゾートあすなろ」。
こういった貴重なワンシーンが観られるのも、臨時列車(団体列車)ならではですね。
さァ、次回の「駅弁膝栗毛」は、美しい浄土ヶ浜の景色はもちろん、これまでなかなか入手が難しかった“幻の弁当”にも???
「おいしい山田線号」の旅は、後編に続きます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/