繁殖引退シニア犬のセカンドライフは、初体験と愛情に包まれて
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【ペットと一緒に vol.87】
ブリーダーの犬舎での繁殖犬としての役目を終えた、7歳間近のシニアドッグを迎え入れることを決意した松原夫妻。4頭目となる新しい愛犬との出会いや、「人も犬も初体験がいっぱいで驚きの連続だった」と語る松原家のドッグライフに迫ってみました。
繁殖リタイア犬がやってきた!
松原家にはこれまで、最多で3頭のテリアがいました。ところが、以前のエピソードでもご紹介したとおり、2頭を亡くし、ここ数年間はノーフォーク・テリアの湘太くんだけに。
「活発なテリアが3頭、以前はにぎやかな毎日を繰り広げてくれていました。でも1頭だけになると、家の中が静かすぎるように感じましたし、湘太も張り合いがないのかションボリ気味に見えて……」。
そこで、新しい犬を迎えることを松原夫妻は考え始めたと言います。
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湘太くんを真ん中に、松原家の3頭暮らしのひとコマ
「次に迎える犬は、保護犬など、第2の犬生の受け入れ先を探している犬がいいなぁ~。と、漠然と思い描いてはいたんですが、大好きな“テリア犬種”ではなかなか見つからなくて。とにかく、明るくて活発で勝気で自己主張をハッキリして……という、いわゆる“テリア・キャラクター”に魅せられてしまい、テリア以外と生活する人生が想像できなくなってしまったんですよ」と、松原さんは笑います。
そんなある日、湘太くんの行きつけのトリミングサロンから、6歳のワイアー・フォックス・テリアの繁殖リタイア犬の里親にならないかという話が舞い込んできたそうです。
「もちろん、どんな犬を私たちが探しているかをご存知だったので、トリマーさんが声をかけてくださったのですが、『それは、いい!』とピンとくるものがありましたね」と、松原さん。
さっそく、湘太くんとの相性などを確認することになりました。
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「こんにちワン。お世話になりま~す♪」
繁殖リタイア犬とは?
松原家にやってきたのは、ブリーダーのもとで過ごしてきて、ドッグショーでの受賞歴もあるテリアだそうです。
ドッグショーと聞くと、犬のビューティコンテストのようなイメージを抱くかもしれませんが、ブリーダーや審査員は“健全性”を重視しています。歩き方の審査では骨格構成に異常がないかどうか、触診では簡単な健康チェックや、触った際に攻撃性を見せたり怯えたりしないかどうかをチェックします。審査員に高評価を得ることは、心身ともに健全で、安心して子孫を残せるというお墨付きを得るのと同義でもあるのです。
「さすが、元ショードッグだけあって、誰にでもどんな犬にでもフレンドリー。本当に、どこを触っても平気なんです。5歳のダウン症の息子がちょっかいを出しても、全然動じず穏やか。テリアの中でも気が強い犬種として知られるワイアー・フォックスなので、かなりの心構えをしていたのですが、いい意味で拍子抜けしましたね(笑)」と、松原さんは振り返ります。
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初対面の子どもにもペロペロと尻尾フリフリでごあいさつ
肝心な湘太くんとの相性は、「悪くもなく、良くもなく」だったとか。
一般的には多頭飼育をする場合、同性同士よりも異性との組み合わせのほうがうまくいきやすいと言われます。
「それを考慮したんですけどね。やっぱり、筋金入りのテリア。床に落ちたおやつかなにかを目の前に、ルッカが湘太にガルルーッて牙をむくという事態は勃発しました。以前のテリアの3頭飼育で、そのような状況には慣れているので想定範囲内でしたが……」と、松原さん。
「そんなところも含めて、テリアを愛しているのですから」とも微笑み、12歳の湘太くんよりも、どうやらルッカちゃんのほうが強そうだとわかったそうです。
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つかず離れずの距離が程よさそうな、湘太くんとルッカちゃん
盲点! 驚きの連続
松原家のメンバーとは順調で、正式に譲渡が決まった直後。実は、思わぬ反応をルッカちゃんは散歩中に見せたのだそう。
「オドオド、キョロキョロなんです。我が家は、車も人も往来が多く、さまざまな音が絶えない都会のど真ん中。ところがルッカは、牧歌的な風景が広がる犬舎で暮らしてきたので、間近をバイクが通り過ぎるなんて経験は初めてだったんでしょうね。『あのぉ~、すみません。助けてもらえますか?』みたいな表情で、私に訴えてきました」。
そんなルッカちゃんのピンチを救ったのは、堂々と横を歩く湘太くん。
「『あれ? ショウタはなんにも怖がってないし、大丈夫なのね』って学んだみたいです。いまや、湘太がたまにほかの犬に吠えると、マネをしてルッカまで吠えるようになって、悪いところも学んでしまったのは残念ですが……」と、松原さん。
いずれにしても、湘太くんのおかげで、ルッカちゃんは数週間もすると尻尾を上げて散歩を楽しむようになったそうです。
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今では息子さんに寄り添いながら尻尾を上げて楽しく外出
室内では、寝室の布団の上でおしっこをしてしまったことも。
「えー! まるで子犬のよう。と、びっくりしました。ブリーダーさん宅にはたくさんの犬がいるので、出産前後しか人の寝室に入らず、布団は人の寝具だという認識がなかったのかもしれません」と語る松原さんは、犬が本能的に排泄したくなるフカフカのラグをリビングなどから撤去して、フローリングにトイレシーツだけを敷くようにしたそうです。
「これで安心です! もう6歳なんですけど、パピートレーニングを一から行うつもりであれこれ対処しました(笑)」。
殺処分される運命にある犬を動物愛護団体が保護して里親募集をしていることは、よく知られています。動物愛護センターで、自治体主催の譲渡会が開催されるケースもあります。
また、ルッカちゃんのように繁殖犬としての犬生には終止符を打ち、家庭犬として第二の犬生を送るべく新しい家族を待っている犬たちもいます。
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息子さんとはお手入れタイムも共有
「ブリーダーさんが、その犬の幸せを願うからこそ、一般家庭でたっぷりの愛情を注がれることを望んで繁殖引退犬の里親募集をするのでしょう。
もし特定の好きな犬種がいたり、我が家のように子どもや先住犬がいる場合、信頼できそうなブリーダーさんのホームページやSNSで里親募集中の成犬を探してみるのもおすすめですよ。子犬を迎えるとどうしても手がかかりますし、性質も含めてどのように成長するかは未知数です。シニア犬からでも、時間をかければ社会化やトレーニングもきっと大丈夫だと思います」。
そう語る松原夫妻の横で、ルッカちゃんは2カ月前に松原家にやってきたとは思えないような顔で、ソファですやすやと心地よさそうに寝息を立てていました。
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「ソファで、へそ天~! リラックス」(byルッカ)
連載情報
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ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。