【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第418回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、先日開催された第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した『万引き家族』の是枝裕和監督を大特集。日本人が同賞を受賞するのは、今村昌平監督の『うなぎ』以来21年ぶりで、日本人監督としては史上4人目の快挙となります。
そこで今だからこそ観たい! カンヌ国際映画祭で上映された是枝裕和監督作品をご紹介します。
今こそ観たい! 是枝裕和監督作品の奥深さとは…。
まずは、第54回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門招待作品『DISTANCE』。是枝裕和監督のカンヌ初出品作です。
カルト教団が無差別殺人事件を起こし、実行犯も殺害されてから3年後。加害者の遺族4人と、かつて犯行直前まで実行犯たちと行動を共にしていた元信者が一夜を過ごすことになり、これまで目を背けてきた記憶や自分自身を見つめ直す人間模様が描かれている本作。
オウム事件を彷彿させるストーリーとなっていますが、大切な人に先立たれた、信仰を持たぬ者がどう生きていくか、日本映画のなかでもチャレンジングなテーマを扱った作品です。井浦新(ARATA)、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信などなど、現在の日本映画界を支える俳優たちがズラリと顔を揃えていますが、彼らの演技はほぼ即興。
渡された脚本は自分のセリフのみで空白だらけのものだったのは有名な話で、それだけに芝居を超えたリアルな距離感が伝わってきます。テレビのドキュメンタリー番組を多く制作してきた是枝監督ならではの演出法と言えるでしょう。
主演の柳楽優弥が第57回カンヌ国際映画祭において、史上最年少および日本人初の最優秀男優賞を受賞したことでも話題となった『誰も知らない』。1988年に発生した巣鴨子ども置き去り事件を題材に、母親に置き去りにされた4人の子どもたちが彼らだけの生活を続ける約1年間を描いた社会派ドラマ。この年、国内外問わずもっとも高い評価を得た、伝説の日本映画です。
本作においてもセミ・ドキュメンタリータッチの是枝演出は冴え渡り、子どもたちには台本は渡さず、監督がその場で指示して撮影を進めました。その影響でしょうか、子どもたちの感情が観る者の脳みそを通さずに、直接ハートに届くような不思議な感覚を覚える作品です。
ちなみに母親役を演じたYOUは、本作が映画初挑戦。いまでは女優としてさまざまな作品で活躍している彼女ですが、その才能をいち早く見抜いたのも是枝監督なんですね。
これまでオリジナルストーリーにこだわってきた是枝裕和監督が原作モノを手がけたことでも注目された『空気人形』。韓国の人気女優ペ・ドゥナを主演に迎えた本作は、第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映されました。
ファミレスで働く冴えない男が所有するラブドールが、ある日“心”を持ってしまったことから始まる切ないラブストーリー。「撮影中、是枝監督はペ・ドゥナさんに恋してたんじゃないか???」と思うほどスクリーンに映るペ・デュナが可愛らしく、あるトークイベントで是枝監督に伺ったところ「撮影中はいつも女優さんに恋している」とのお答えが。
“ヒロインがダッチワイフ”という大胆な設定から、これまで敬遠してきた方もいらっしゃるかもしれませんが、個人的には是枝監督作品の中でも特にお気に入りの一作です。
第66回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門に正式出品され、審査員賞に輝いた『そして父になる』。子どもの取り違えという出来事に遭遇した2組の家族を通して、家族の絆を描いた感動作です。主演の福山雅治が初めて父親役にチャレンジしたことでも話題になりましたね。
是枝監督作品は父親像の描き方に特徴があり、それはご自身の実体験や実父との関係性によるものだと、第29回東京国際映画祭でのトークイベントでおっしゃってました。“父親”という存在にフォーカスして是枝監督の映画を追いかけてみると、これまた興味深いものがありますよ。
第68回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門に正式出品された『海街diary』。四姉妹を演じた綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが揃ってレッドカーペットを歩く姿は、とても華やかでした。
吉田秋生のベストセラーコミック「海街diary」を映画化した本作は、鎌倉に暮らす三姉妹が、父親がほかの女性との間にもうけた異母妹と共同生活を送る中、家族の絆を深めていく姿を追ったヒューマンドラマ。原作を読んだ是枝監督が熱望し、映画化が実現しました。
淡々と綴られる日常と個々の人生ドラマが絶妙に絡み合う作風は、これまで家族の物語を数多く作ってきた是枝監督ならではの魅力。ほんわかとした四姉妹に会いたくなる、そういった意味でも何度も観たくなる一作です。
そして、第71回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』は、6月7日から全国ロードショー。さらにパルムドールの受賞を記念して、6月2日、3日の先行上映が急遽決定しました。是枝監督の最新作をいち早く堪能できる絶好のチャンスですよ。
そして、これをきっかけに是枝監督のこれまでの作品もご覧になってみてはいかが?
<作品情報>
DISTANCE(2001年)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ARATA、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信 ほか誰も知らない(2004年)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU ほか空気人形(2009年)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ぺ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、オダギリジョー、富司純子 ほかそして父になる(2013年)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、風吹ジュン、國村準、樹木希林、夏八木勲 ほか
©2013「そして父になる」製作委員会海街diary(2015年)
監督・脚本・編集:是枝裕和
原作 : 吉田秋生(小学館「月刊フラワーズ」連載)
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー ほか
©2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
公式サイト http://umimachi.gaga.ne.jp/万引き家族(2018年)
2018年6月8日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林 ほか
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
公式サイト http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/