少数民族の“招き犬”の気ままなヴィレッジ・ライフ
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【ペットと一緒に vol.91】
今回は、タイ北部の少数民族の村で筆者が撮影した、犬のいる風景写真を紹介します。日本の犬たちとはちょっと違う、ヴィレッジ・ドッグの生活が見えてくるかと思います。
どの村でも元気な子犬と子どもたち
タイの北部、チェンラーイ県の山岳地帯には、アカ族、リス族、カレン族、モン族、ヤオ族など、筆者が訪れた2010年頃の時点で約20万人の少数民族が暮らしていると言われていました。
この地方はミャンマーとラオスにまたがるゴールデン・トライアングルと呼ばれる地域で、以前は大麻(ケシ)の栽培や焼畑農業が行われていましたが、タイ政府によってそれらが禁止されてからは、観光業や通常の農業で主な生計を立てています。
どの村を訪れても、子どもたちが元気に走り回っています。
そのあとを追うのは、同じように遊び盛りの子犬たち。
農作業や仕事の合間に、村の入口にしゃがむ大人の日陰で休むのは、成犬か老犬。標高600メートルを超える山々に点在する少数民族の村は、首都バンコクや古都チェンマイよりずっと涼しくはあるものの、やはり日陰が落ち着くのかもしれません。
役目は、招き犬!?
少数民族の衣装は、繊細な刺繍と独特の色合いがとても印象的です。
高床式の住居の下は風がとおり、暑い日中でも涼しそう。犬たちは、冷たい土の上や、床下、ときには飼い主のすぐそばでくつろいでいます。
夕方になり、男性が竹でできた笛のような楽器を奏で始めると、年配の女性たちが集まってきて踊り始めました。
すると、ある女性の後ろをトコトコと単脚の犬がついて来て、踊りの輪を見守るかのように座りました。
東南アジアの土着の犬でこれほど単脚な犬を見ることは、まれ。この地方は中国にも近いので、中国原産の単脚犬種の血がどこかで混ざったのかもしれません。
女性が首に真鍮リングをまとう首長族の村では、織物をする飼い主に、いつまでも犬が寄り添っていました。
どの村を訪れも、犬の数が多いことに驚かされます。そして、観光客慣れをしている犬たちは、吠えることなく穏やか。屋内外を自由に行き来して、あるときは観光客の案内係のような行動も見せるのです。まるで、招き犬のような存在です。
いつも人のそばに寄り添う犬たち
村々では、子犬もたくさん生まれているようです。去勢手術を受ける犬や猫はいないはずなので当然ですが、首輪をしている犬も多く見かけました。
親きょうだい犬と自由に遊んで、好きなだけ日光浴をして、元気いっぱい。子犬の愛らしさは世界共通です。
少数民族の人々にとって、犬は、当たり前の存在なのだと感じます。
ときに子どもの遊び相手になり、子どもや大人をいやしてくれ、家や村の番犬としていざというときは役にも立つ。
家族の一員であるとか社会の一員であるとか、そのような欧米や日本の生活スタイルに当てはまるような言い方では表せない、村の犬の存在が、そこにはありました。
※すべての写真の無断転載を禁じます。(©Kyone Usui)
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。