EV(電気自動車)へ舵を切る中国とできない日本の今後

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月19日放送)にジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰が出演。米中の貿易摩擦やEUへの接近から中国の政治・経済について解説した。

「EV(電気自動車)」と「一路一帯」で親和性が生まれているEUと中国

中国の李克強首相とEUのトゥスク大統領らは北京で首脳会議を開き、「多国間の貿易体制を守る必要がある」と訴える共同声明を採択している。中国はアメリカのトランプ政権との貿易戦争が激しさを増すなか、EUへの接近を鮮明にしている。

飯田)首脳会談と共同声明ですが、今週頭の16日に出されたもので、17日に日本へ来てEPAの署名を行ったのですが、実はその前に中国に、首脳陣は寄っていたのですね。

富坂)中国とEUの関係は、ストレスのない関係なのです。少し前は太陽光を巡ってやり合っていましたが、そのときは中国が負けました。だけど、いまのところはぶつかり合いがないのです。よく「アメリカを意識して連合を組んだ」と日本は見ますが、中国は「アメリカの問題はアメリカと解決しないと、どうしようもない」と思っていますよ。

飯田)アメリカとの間は直接やるしかない、と?

富坂)「EUと組んだから、プレッシャーがかけられる」とは思っていないですね。
ただ、EUとの間と言っても、EV(電気自動車)です。フォルクスワーゲンとかと組んで、一気に行ったのでは、と思います。そういう意味で言うと、中国市場と欧州市場が一気にEV化したのは、日本にとって大変なことです。
いま、親和性が生まれているのは、一帯一路じゃないですか。

飯田)始点と終点、みたいなものですよね。

富坂)義鳥からマドリードまで18日間かけて貨物列車をどんどん走らせている。44路線ありますから、すごく深いものになっているのです。そこは、こういうものをやらなくても深いものができていくから、これが採択されたからどうということではなく、実がないけど、見せる形のものが、大きい気がします。問題はやはり米中ですね。

日本がEV(電気自動車)に遅れている事情

飯田)電気自動車に関して、日本だと「自動車メーカーがやって当然!」みたいになっていますが、向こうでは組立やデザインだけやるメーカーとか、携帯と似たような感じになっていますよね。

富坂)中身はようするに電池だけですよね。モーターは汎用品だし。
私は昨年10月に取材をしたのですが、たとえば3人で、1つのパソコンを囲んで作れる物なのですよ。いま、15社が認可されていて。待ちが46社なので、60とか、100社の体制に入っているのです。すると、「自動車を作る」の概念が変わって、ものすごくカジュアルなものになりますから、既存の自動車メーカーはかなり厳しいと思います。実は、これは中国でも同じです。

飯田)中国も既存の自動車メーカーは苦しい?

富坂)ガソリン自動車を持っているからこそ苦しいのです。だけど、それは政治が決断したということです。これができるかできないかはものすごく大きい。だから、一気に舵を切ることになると、技術を持っている分だけ日本は苦しいですね。

飯田)日本はせっかく技術があるのに、それを生かせないまま終わってしまう危機がある?

富坂)技術を持っている分、シフトも遅くなる。苦しいかもしれません。

飯田)いままで成功していて、それに適応してきたために?

富坂)そうです。これはすべてにおいてです。キャッシュレス社会においても、お札や自動販売機がいい物だから、すべての物に、いい物があるから、新しい物に変わるのがものすごく遅れる、危ない時期に来ている。これは、日本人が頭の切り替えをしていかなければいけないのですが、政治も動いていない。大丈夫かな、と思います。

EV(電気自動車)へ舵を切る中国とできない日本の今後

中国で社会主義が再評価されつつある

飯田)中国の社会や政治について1つお聞きしたいのですが、経済がどんどん前のめりな一方で、政治は後退していると話していましたよね。「習近平さんが個人崇拝をやっていて、それは毛沢東時代に戻るのでは」みたいな話がありましたが。

富坂)個人崇拝にはみんな違和感を持っていると思いますが、1番心配なのは、社会主義をどう位置づけるかです。中華人民共和国は社会主義を建前にしていますが、これが強まっている。前までは、社会主義市場経済で、むしろ「市場経済」の部分が拡大している認識でしたが、むしろそれが小さくなっていて。「社会主義でいいじゃないか」と。

飯田)国益で儲かればいい、と。

富坂)そこで引っかかってくるのが公有制なのですよ。私有財産の問題ですね。だから、そことのせめぎ合いが、昨年末から今年の頭にかけて、ものすごくいろいろなものが議論として出たのです。

飯田)どちらの方向に行くか、みんな迷っているのですね。

富坂)そうですね。個有化の方を選んだら、社会と分かれていく部分ですので。だけど、「社会主義におけるリーダーシップとしては悪くないのでは」と考えているのではないか、というのがある。

飯田)それは民主主義みたいに議論を尽くさないと決められないのではなく、ドンと決めることができる、と。

世界が中国に近付きつつある

富坂)いまの体制の優位性を中国が認識してしまい、変われない。むしろ後退していくとなると、「それは困ったね」という話になる。だから、どうしてそうなるのか。実は世界が中国に近づいているところがある。たとえば、日本なら株を公的なお金で買っていて、国有企業みたいになっているわけです。あとは、「自由」の裁量が各国でどんどん狭まっているとか。これまでとは違う感じで両者が歩み寄ってしまっているわけです。だから、そういう意味で言うと、極端な話をすると、国家資本主義にみんな収斂されていくというか。そうなると、中国は「これでいいじゃないか」と思ってしまう。そういう世界の流れがちょっとあった。そういう意味で、「それは違う」ということをキッチリ見せなければいけない。それは中国国内で議論があったのだと思います。だから、いまはよりを戻している途中。実は、「デジタル・レーニン主義」という言葉も出てきていて。「計画経済が失敗したのは、計画が間違っていたからだ! 計画が完璧なら、もう1度計画経済でいいじゃないか!」と。そういう、極端な話まで出てきたなかでの話です。

飯田)「レーニンは失敗したけど、マルクスの理論は良かった!」みたいな。

富坂)「計画が間違えていなければうまく行った」みたいな極端な話まで行っていました。だから、そういうことではないと、揺り戻しが起きていると思います。

飯田)でも、それは習体制を崩すようなものではない。

富坂)いろいろ試行錯誤しているのだと思います。中国は意外に、国内にアピールしなければいけないのですよ。1党独裁は、国民というものに対して意識しないとイコールでみんな考えますが、ものすごく意識しています。そこを誤解されますね。

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