野良猫専門の動物病院を、夫の転勤先で開院した獣医師の願いとは

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【ペットと一緒に vol.100】

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新潟市で野良猫専門の動物病院“そとねこ病院home”を開設した、黒澤理紗さん。6畳半のアパートの一室で、野良猫や地域猫の避妊・去勢手術をたったひとりで続けています。そんな黒澤さんが猫に抱く思いとは? 少女時代からのストーリーをお届けします。


1日に10頭ほどの野良猫を手術

野良猫を減らしたい!
地元の福井県で野良猫のエサやり少女だった黒澤さんは、ずっとそう願っていたといいます。
「よく、交通事故に遭った猫を目にしてきました。かわいがっていた野良猫が病気になっても、子どもには動物病院に連れて行くお金もありません。野良猫たちは5年もすると寿命を迎えて見かけなくなります。屋外生活は、猫にとっては危険がたくさんで過酷だと感じていましたね」。
そう語る黒澤さんは、2017年末に新潟で野良猫と地域猫専門の避妊・去勢手術病院を開設しました。

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去勢・避妊手術が終わったら、耳カット。写真の猫たちは譲渡会で新しい家族を探します

いわゆる転勤族のため、初めての新潟暮らしをスタートさせた黒澤夫妻。
「新潟のみなさんも犬猫の殺処分を減らすために頑張っていますが、東京に比べるとやはり遅れを感じています。開業してから、毎月平均100頭のペースでひとり黙々と避妊・去勢手術を行っています」(黒澤さん)。


過酷な状況下の野良猫が心配で……

「まったくのよそ者が、全国的にも珍しいタイプの動物病院を開設することに、少し不安もありました」という黒澤さん。
けれども、新潟の方々はとてもやさしく協力的で、県内の愛護団体からは野外で捕獲されたりした猫が次々に運び込まれてくるそうです。新潟県の獣医師会のメンバーにもなり、獣医師の先生方との関係も良好とのこと。

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愛猫と黒澤さん

「東京とは違って、新潟は雪国です。冬には暖を取るために、多くの野良猫が空家を寝床にしていると聞きました。それでも、凍えているに違いないと思うと、最近は野良猫を被写体にした写真集などを見ても『かわいい~』、『ほのぼのする~』といったあたたかい目で見られなくなりましたね(笑)。『痩せてるなぁ、病気になっていないかな?』とか『車通りの多そうなところだから、車に轢かれないといいけど』などと思いを巡らせてしまって……」(黒澤さん)。

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殺処分から逃れて黒澤さんの愛猫になった、ぶんたくん

交通事故に遭うのは、野良猫ばかりではありません。家の中と外を自由に出入りしている猫も、野良猫同様に危険。猫を飼っていない近隣住民の敷地内に外飼いの猫が排泄をしてしまい、トラブルになる例も少なくないといいます。
「そういう意味でも、やはり終世室内飼育をおすすめしたいですね。我が家も、東京から連れてきた3頭の愛猫は、もちろん室内で過ごさせています」と、黒澤さんは教えてくださいました。


黒澤家の猫たちの境遇

獣医大学を卒業してから、多いときにはワンルームのアパートで12~13頭の猫を保護したり飼っていたという黒澤さん。
現在は、愛護団体でも里親探しがむずかしかった、下半身付随の猫、病気の老猫、東日本大震災で被災した病気の猫と新潟で暮らしているそうです。

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黒澤家の愛猫ずりちゃん。交通事故で下半身麻痺になり発見された元野良猫

「初めて飼った猫は、中学生の頃。ゴハンをあげていた猫が家に居ついたので、自宅に猫を入れたくないと言っていた母が『ワクチン打とうか』とか『去勢しようか』とか言ってくれて。首輪はしているけれども車庫で寝る、完全屋外飼育の猫でした」。

ところが黒澤さんが高校3年生のときに転機が訪れます。
大学受験に向けて励んでいた黒澤さんが子猫を拾った際に「なんだかグチュグチュで弱々しくてかわいそうね。家の中に入れてあげるから、しっかり勉強しなさい」と、お母様が言ってくれたのだとか。
「そのコは昨年11歳で亡くなるまで、本当に家族みんなにかわいがられましたね。結局、いなくなって一番淋しがっているのは母です。最初は、猫は好きじゃないと言っていた母だったのに……」。

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高3のときに拾ったマサムネ。片目は潰れてしまいました


1日も早く閉院したい!

少しずつお母様の意識が変化していったように、新潟の人々の意識も変わるのではないかと、黒澤さんは考えています。
「『猫は放っておくとどんどん数が増えていくから、手術をしたほうがいいんだろうなぁ』と思ってくださる方が増えたらいいな。実際に『毎年、猫が近所で生まれるのが気になっていたけれど、避妊・去勢手術をして管理するっていう解決策があるのね』という声も、聞けるようになってきました」。

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病院付近の野良猫を捕獲して不妊去勢手術をするケースも

平成28年度の新潟県の猫の殺処分数は約900頭。年々減っていますが、東京都の約500頭と比べると多くなっています。
「たまたま夫の転勤先になった新潟で、野良猫を減らすため、私にできる不妊去勢手術をコツコツと実施していきたいと思っています。1日も早く、この病院が必要なくなる日が来るのを願って」と、黒澤さんは額の汗を拭いながら微笑みます。

連載情報

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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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