【ペットと一緒に vol.102】
保護犬のボランティアとして一時預かりをしている犬が気に入り、サンタさんに「はなちゃんをわたしにください」という手紙を書いた5歳の少女。すでに3頭の老犬がいるため、4頭目は迎えないとお母さんに言われていた少女の願いは叶ったのでしょうか?
今回は、少女とハナちゃんの実話をお届けします。
初めての保護犬を迎えるまで
動物関連団体へのオンライン寄付サイトを運営しているアニマル・ドネーションのリニューアルサイトのトップページで、モデルとして登場している間瀬恭子さん。
幼少期から犬が好きで、パグを2頭連れて結婚をして、娘のあんちゃんを出産。自宅で保護犬の一時預かりボランティアをしながらペットホテルも経営しています。
自身の子育てに加えて2頭の愛犬や預かり犬の世話で多忙なこともあり、愛犬は3頭までと間瀬夫妻は決めていたそうです。
そんな間瀬家に迎えられた3頭目は、初めての保護犬でした。
「フレンチ・ブルドッグのヨーダです。一時預かりを始める前から、皮膚疾患がひどくて見目麗しくなくて……。新しい里親さんを見つけるのは困難だと思いましたね。それで、もともと鼻ぺちゃ犬種が好きでフレブルを飼ってみたかったのもあり、引き取ることにしたんです。我が家のコになったら絶対にしあわせにしてあげられるよ!って」(恭子さん)。
一時預かりでの、あるシニアパグとの出会い
犬まみれの生活をとおして大の犬好きに育ったあんちゃんですが、あるとき一時預かりをしていた老犬の黒パグが、とてもあんちゃんになついたと言います。
「出会いと別れを数多く経験している娘なので、一時預かりの保護犬たちとはあっさりとした付き合いをしています。それなのに、その老犬のハナとはいつもべったり。ハナがすごく娘に頼っているように見えましたね」と、恭子さんは振り返ります。
クリスマスが近くなると、あんちゃんはサンタクロースへの手紙でもハナちゃんが欲しいと書き、恭子さんにもおねだりをするように。
もとの飼い主さんを亡くしてしまったハナちゃんは、当時12歳。
「『あのね、ハナはもうおばあちゃんだから長生きできなくて、ちょっとしか一緒にいられないよ』と娘には言いました。すると『それでもいい。今を大切にしてあげたいの』と、いつもは聞き分けのいい娘が熱心に訴えます。最後は貯金箱の小銭とお年玉をすべて差し出して『お金がかかるならば、これを使って』とまで言うのです」。
間瀬夫妻は、あんちゃんこそがハナちゃんの飼い主としてふさわしいと思い、ハナちゃんを引き取る決意を固めました。
「娘からのお金は足りませんけどね(笑)。しかも4頭目だなんて想定外。でも、娘が人生で初めて選んだ犬です。娘がハナを必要としているのと同じくらい、ハナも娘を必要としていると感じました。だから決心したんです」と、恭子さんは語ります。
想定外のおもしろさを発揮するハナちゃん
間瀬家の一員となったハナちゃん。今では独特のキャラで、家族の笑いを誘うムードメーカーなのだそうです。
「すごく食いしん坊で、2時間置きにキッチンにやってきては『ごはんまだ?』という顔で私を見上げるんです。耳がほとんど聞こえていないので、ごはんを食べ逃してはいけないと、キッチンで寝てしまうこともありますね。最高にかわいいですよ!」とのこと。
寝起きには目もあまり見えないハナちゃんは、水を探して家の中で迷子になることもあるのだとか。
ハナちゃんとよく一緒に昼寝をしているというあんちゃんは、ごはんをあげたり、散歩に一緒に行ったりと約束どおり世話をしているそうです。
「この間、娘がひとりで祖父母宅へお泊りに行くとき、ハナをペットホテルに預けるための書類を作成してきました。ハナの飼い主はあんですからね。『水をちゃんと飲ませてあげてください。散歩は涼しい時間に行ってください。ごはんは何回も欲しがりますが、1日2回でいいです』などと言われながら契約書を渡されました。なんだかくすっと笑ってしまいましたし、頼もしいなと感心もしました」(恭子さん)。
ハナちゃんの亡き飼い主さんも、同じようにハナちゃんを大切にして愛してくれているあんちゃんの姿を天国から見て安心しているに違いないと、恭子さんは考えているそうです。
「どうか娘とハナに会った方は、『ハナちゃんママさん』と娘に声をかけてあげてください! とっても喜びます」と、4頭の愛犬に囲まれながら、恭子さんは微笑みます。
たとえこれから先が長くなくても、ハナちゃんはキラキラと輝く思い出とたくさんの学びを、あんちゃんに残してくれることでしょう。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。