AI・ロボットと家事の「さしすせそ」
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【報道部畑中デスクの独り言 第76回】
料理の「さしすせそ」は砂糖・塩・酢・醤油・味噌ですが、家事にも「さしすせそ」があるのはご存知かと思います。裁縫・躾・炊事・洗濯・掃除です。
以前小欄でお伝えした全自動衣類折りたたみ機の話題の中で、世の中の数多ある便利な機械は、面倒なこと、時間のかかる作業をいかに省くか、簡略化するかの戦いの末に生まれるとお話ししました。
「家事」もその一つで、「機械化」「自動化」の歴史と言っても過言ではありません。裁縫はミシンに、炊事は炊飯器に(電子レンジなども含みます)、洗濯は洗濯機に(乾燥機なども含みます)、そして、掃除は掃除機に…多くのものが機械化されました。掃除機に至っては“ロボット化”もされています。
残るは躾(しつけ)ですが、こればかりは機械化、自動化は難しいでしょうか?
最近は「ペッパー」「キロボ」などのコミュニケーションロボットがどんどん出てきています。ある回転寿司店では「ペッパーくん」が入店の受付をしていて、立派に「社会の一員」となっていました。
また、こんなロボットの話を聞きました。「ゴミを拾えないゴミ箱ロボット」「一生懸命話そうとするが大事なところで言葉を忘れてしまうロボット」…愛知県の豊橋技術科学大学ではこういう一見頼りない「弱いロボット」を開発しているそうです。開発者は「不完全さを残すことで、人の優しさや手助けを引き出すことができる」と話し、教育、医療現場での実用化を目指しています。こうしたロボットにお年寄りが会話を楽しんだりする様子も確認されたというのです。(共同通信2018年6月1日の記事から)
AI(人工知能)やロボットの世界はまさに日進月歩、分進秒歩と言われますが、一方でこれを題材にした映画には、警鐘と思えるような示唆に富むものもあります。4年前に上映された「トランセンデンス」(ジョニー・デップ主演)を見る機会がありました。
ネタバレにならないよう最小限のあらすじのみ記しますが、「超越」「卓越」を意味するタイトルのこの映画は、AIの研究者がテロリストの攻撃を受けます。亡くなる前に、研究者の妻が夫の意識をAIにアップロード。その後、夫の意思を持つAIは軍事機密や金融・経済などの情報を取り込みます。さらにケガをした人の再生治療などを施すことによってAIの意思が人間とつながり、ついにはAIが人間を支配せんとする事態になってしまうという、大変に重いストーリーでした。
現状のコミュニケーションロボットはまさに発展途上ですが、これがAIなどによって高度化すると、映画のように人間がAIやロボットに教えられる、しつけられる、ひいては支配される時代が来るのでしょうか。
今年もこれまでに様々な事件がありました。日本大学アメリカンフットボール部の選手による不正行為は、指導者による教育の問題という指摘もあります。東海道新幹線の車内で男女3人が殺傷された事件は様々な背景が考えられますが、容疑者の生い立ちが明らかになるにつけ、「教育」「しつけ」もその一つではないかと感じます。相次ぐ子供への虐待事件も問題は同根なのでしょう。
AIはあくまでもデータの集積体で“感情”はない、教育は人間にしかできない役割だ…こういう考えもありますが、昨今の痛ましい出来事を見るにつけ、人間による「しつけ」の機能は退化してきているのではないか…。そしてそれを補うためにAIやロボットの力を借りる、「しつけ」が機械化、自動化される…将来こうしたことが現実となる可能性も否定できないと最近思います。技術の進歩は目覚ましく、それ自体は素晴らしいことではあるのですが…。