宇宙で半年過ごした実感は? 金井宇宙飛行士単独インタビュー(1)
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【報道部畑中デスクの独り言 第73回】
今年6月に約半年にわたる国際宇宙ステーションの長期滞在の任務を担った宇宙飛行士の金井宣茂さんが再び日本に帰国、安倍総理大臣への表敬や帰国報告会、記者会見と、多忙を極める中、ニッポン放送の単独インタビューに応じました。今回は早朝の情報番組「飯田浩司のOK!Cozy up!」の飯田浩司・新行市佳の両アナウンサーをメインにインタビューは進行しました。そのもようは8月7日の放送でお聴きいただいた通りですが、小欄ではインタビューの全編を掲載させていただきます。
ラジオだからリラックス…番組収録の前にはこんなやり取りがありました…。
飯田)金井さん、昭和51年生まれですよね。
金井)昭和51年生まれでございます。
飯田)私の5つ先輩に当たります。
金井)あ、そうですか、(私の方が)そんな上ですか。
飯田)僕、56年生まれなものですから。
金井)同じくらいかと思っていました。
飯田)ですよね。
新行)よく老けてるって、会社でもいじられてます。学生時代のあだ名が「フケちゃん」だったと。
金井)フケちゃん…。
飯田)「お父さん」と呼ばれてました。2つ下の後輩から。
金井)それは人柄じゃないですか(笑)。
飯田)いやいやいや。
新行)やさしい…。
飯田)ただ単に…ラジオでよかったってよく言われるんですけど。テレビ局も受けたんですけど、テレビ局は「お前ちょっとおでこ見せてみ」って言われて…落とされたことがあります。当時からこれぐらいの生え際だったんです、ラジオでよかったという…。
金井)えー…そうですか…(困惑)。
飯田)コメントに困りますよね。
畑中)でも、年取ると味が出てくると思います。
新行)愛のある宇宙のような広い心で…。
畑中)金井さん、髪は切られて…。
金井)帰国の最後に切ってからそのままですね。
畑中)ずっとゲンを担いで宇宙滞在中は切らずにそのまま…。
金井)おかげさまで無事に帰ってこられたんで、あれは大成功ですね。
飯田アナと金井さん、両者の“ヘアスタイル”をめぐってしばし盛り上がった(?)後、本格的なインタビューとなりました。
帰還後のリハビリ 重力の違いに戸惑った
飯田)去年の12月から国際宇宙ステーションに行かれて、今年6月に帰還されてから1カ月半…?
金井)2カ月弱経ちまして、その間ずっとリハビリをやってまして。もうすっかり重力の環境に再度適応いたしました。
飯田)半年間宇宙にいるとリハビリが必要なほど筋肉が落ちるんですか。
金井)軌道上でも毎日筋肉トレーニングをしてまして、体力や筋力は保つことができるんですけれども、宇宙にいますとバランス感覚がなくなってしまいまして、自分がまっすぐ立っているのか斜めになっているのか、横になっているのか全くわからない状態で、まっすぐ立てないような、最初はそんな状況でした。
飯田)お医者さんの資格を持っている金井さんに聞くのも大変僭越なんですが、三半規管というやつが効かなくなるということですか。
金井)そうですね、まさしくその三半規管のバランスがわからなくなってしまって、自分ではまっすぐ歩いているつもりでも、はたから見ると千鳥足でヨタヨタと曲がりくねって歩いてたりとか…。帰還直後は目が回って…座っていられない、立っていられないという状況で。「ちょっと気持ち悪いんで、横にならせてくれよ」って横になって頭をベッドとか枕につけていると、頭が揺れることがないので目が回ることはないんですけど。しっかり首で頭を支えているつもりでも微妙な動きがあるんでしょうね。それですぐに回転いすをやった後のようにグルグルと目の前が回って、非常につらい状況でした。
新行)地球に戻ってこられた時にニコッと笑っている写真や映像が印象的だったんですけれど。グルグル回りながら一生懸命笑顔で笑っていたという…。
金井)そうですね、現地には日本のメディアの方もたくさん迎えに来てくださって、「おかえりなさい」とか「ミッションおめでとう」とか言って下さったので、本当にうれしくて笑顔が出たのは…そうなんですけど。確かに同時に目が回っていて、地球とは重力とはこんなに苛酷なものなのかと、そういう風にも感じた一瞬でした。
飯田)金井さん、もともと海上自衛隊にもいらっしゃって、船にも乗っていらしたと思うんですけど、船酔いとも全然違うんですか。
金井)いや、近いと思いますね。船酔いと同じように三半規管に自分が予期していない刺激が来ることで気持ち悪くなると思うので、そのメカニズムはいっしょだと思います。
飯田)それって帰ってきてしばらくずっと続くんですか。
金井)人間の体の調整力というのはすばらしいもので、一晩寝れば半分ぐらいになって、二晩寝れば3分の1ぐらいになって一週間ぐらいするとそういったフラフラもだいぶ良くなって、ヨタヨタではありますけれどもちゃんと歩けるようになってきました。
飯田)そこからリハビリをしてちゃんと歩けるようにすると。
金井)そうですね、リハビリもバランス感覚を取り戻すものもあれば、体の柔軟性を取り戻すものもあり。あるいは、軌道上での筋肉トレーニングってこう、一つの筋肉を筋トレマシーンを使って鍛えるものですから、普通の人間の体の動きっていくつもの筋肉が協調して一つの動作をしないといけないので、そういう筋肉と筋肉の協調性を訓練するようなリハビリのメニューもありました。
飯田)じゃあ、アニメとかSFに出てくるような宇宙上にコロニーをつくって生活するっていうのは、実際には結構難しいんですね。
金井)案外ですね。アニメにある宇宙コロニーは回転することで人工重力を発生させて生活をしていますので、将来…遠い将来、ほかの惑星に移動するような宇宙船を開発する時には、ああいった形で人工重力を発生させるのが一つの回答なのかもしれないですね。そうするとリハビリいらずでほかの惑星ですぐに重力環境で働くことができるという、そういった利点があります。英語だけでなくロシア語も 「ルングリッシュ」で会話
飯田)宇宙で記念撮影の写真を見ると、星条旗をワッペンにつけている人もいれば、金井さんはもちろん日の丸つけてらっしゃって、あとロシアの人もいましたよね。ロシア語もやらなきゃいけないんですか。
金井)そうですね。
飯田)そうなんですか!(驚)
金井)そうです。宇宙ステーションに行ったり帰ったりするためには、ロシアの宇宙船ソユーズを使っていきますので、ソユーズの中はもちろん無線交信はずっとロシア語ですし、宇宙ステーションの中でも後ろ半分はロシアが管制している部分ですので、そこで仕事をしたりですね。地上と交信する時にはロシア語で話をしないといけません。
飯田)じゃあ、英語も覚えてロシア語も覚えてやんないとだめなわけですか。
金井)そうですね、いまは…そうです。
飯田)ロシア語って難しいって聞きますけど、あれ読めるわけですか。あの…キリル文字みたいなもの…。
金井)そうですね。最初はアルファベットを覚えるところから勉強して、宇宙船の交信はちゃんと手順書に従って決まり文句を交信で言うだけですので、そういう点では割と大丈夫ですね。訓練をすれば宇宙船の運行をすることができます。
飯田)じゃあ、ロシア人クルーとロシア語でも話したりしてたんですか。
金井)そうですね。ロシア人クルー、英語も上手ですから、ロシア語と英語の「ちゃんぽん」で話はしていて(笑)。われわれはそれを「Runglish(ルングリッシュ)」と言って、それが宇宙ステーションの中のみんなの共通言語ですね。
飯田・新行)ほーーーーっ、ルングリッシュ…。
壁や天井に飛び散った食べ物を掃除する仕事も飯田)よく宇宙に行って戻ってこられた方って「人生が変わった」みたいなことをおっしゃる方もいますが、金井さんご自身はどうですか。
金井)どうでしょう、まだそこまで人生観が変わったという実感はないんですけども。まあもしかしたら後で振り返ると、すごい人生観が変わるような一大イベントだったのかもしれないですね。
新行)およそ半年間、宇宙にいらっしゃったわけですけれども実感としてはあっという間でしたか?長かったですか?
金井)うーん、長かったような気もしますし、何かあっという間という気もして、なかなか時間の感覚って難しいですね。毎日非常に忙しかったので、そういう点ではあっという間に過ぎた6カ月ですけれども、毎日過ごしているなかでは非常に1日が長くて大変で、「いやまだ、月曜日始まったばかりだよ」とか、「まだ水曜日だよ」なんて思いながら過ごしてました。
飯田)宇宙に上がった後というのは休み時間はあるんですか。
金井)はい、宇宙ステーションでは月曜日から金曜日までが平日というか仕事日で、朝から夕方まで勤務をしまして、土曜日は半日だけ業務が入って、土曜日午後と日曜日は丸々1日お休みです。
新行)半ドンなんですね、土曜日は。
金井)ですね。そう入っても土曜日の仕事の大半は宇宙ステーションのお掃除ですね。これは非常に重要な仕事で、やはり人間が生活してますので、ほこりとかがたまって、それを掃除しないと機械の故障が起こったり大変ですので。そういう点で毎週1回きれいに掃除するっていうのは非常に大きな仕事の1つですね。
飯田)あの無重力状態でもほこりってたまるんですか。
金井)空気を常に循環させてますので、空気の取り込み口のフィルターの部分にほこりがたまりがちですね。それを掃除機できれいにして、あとは人が良く触る手すりとか、機械のボタンとか、そういったものをワイプでふき取るというように。
飯田)ぞうきんみたいなものでふくわけですか。
金井)そうですね。あとは食事をする食堂ですね。食べ物はやっぱり飛び散るんですね。そういったものが壁にこびりついたりするので、そういったものもきれいにしないといけないです。
飯田)それを無重力状態だから、ぐるーっと一周全部拭かなきゃいけないと。
金井)そうですね、やっぱり天井とか物が飛び散ってることが多くて特に大切ですね。ロボットアームを使った難しいミッションを成功
飯田)実際の活動については船外活動とかいろいろ報道されてましたけど、印象に残ったミッションというと…。
金井)割と日本がリーダーとなるような国際的ミッションが多かったなあという印象があって、例えば小型衛星の放出ミッションというのがありまして。直径10センチぐらいの超小型の衛星を「きぼう」のロボットアームで外に打ち出すような、そういうミッションなんですけども。今回は国連との協力で、これまで宇宙開発をやったことがないようなケニアとかコスタリカとかトルコとか、そういった他の国から依頼された小型衛星をうったり。あるいは「アジア・トライ・ゼロジー」といった面白実験を、昔から日本人の宇宙飛行士が軌道上にいる時には子どもたちとか学生から募集して、軌道上でデモンストレーションするんですけれども。アジア各国に広げていろいろな国の学生さんからいただいたアイデアを、宇宙で実際にデモンストレーションするような、そういったミッションも行いました。
飯田)ロボットアームってのは難しいんですよね、操作するのが。
金井)最近は随分ロボットアームのシステムも進化しまして、ほとんどのオペレーションは地上からの遠隔操作なんですね。ですから小型衛星放出のミッションも、宇宙飛行士がやるのは衛星を打ち出す放出機構をセットするところだけで、それ以降は地上のコントローラーが全部やってしまうんですけども。唯一、宇宙飛行士が軌道上でロボットアームを操作しないといけないのは、補給宇宙船が来た時に補給宇宙船を捕獲するという。そういったミッションは非常にクリティカルで、何か事故が起こると致命的なので、リアルタイムで宇宙飛行士が目視で、目で確認をしながらやるというオペレーションがあって、それは非常に難しいですね。
飯田)それを見事キャッチしたわけですね。
金井)私は本当に幸運で、われわれはキャプチャーというんですけども…宇宙船にロボットアームを使って、そーっと近づいていってキャッチするというオペレーションを、実際にロボットアームの操縦者として担当させていただきました。新たな医療法につながる宇宙での医学研究
新行)今回金井さんが滞在中のテーマとして挙げられていたのが、「健康長寿のヒントは宇宙にある」ということだったと思うんですけど、そういう部分で実験の結果とか可能性を感じる機会はあったんでしょうか。
金井)まずは自分自身の体で宇宙空間、無重力の環境で生活するという体の変化を身を持って体験したというのが、一つ貴重な経験をさせていただいたなあと。その変化を自分でただ体験しましたというだけではなくて、様々な医学研究に応募をして、研究提案がありまして。被験者としてのいろんなデータをとってもらって、それがいま地上で解析されているところですね。
飯田)報道されているところだと、がんの進行を遅らす可能性が見えてきたりとか、いろんな…具体的なところも出てきていますよね。
金井)まあ、なかなかがんの治療とか、具体的な話につながるのはないかもしれないですけども。例えばたんぱく質の結晶生成実験であるとか…アミロイド実験といって、アルツハイマー病とか糖尿病の原因になるといわれている物質を、宇宙環境を使って結晶をつくって、それが体の中でどうやってつくられるのかとか。どうやって悪さをするのか、そういう仕組みを探していくことで、難しい病気の治療法であったりとか原因を突き止めることができるんじゃないかと、そういうふうに期待されております。次の目標は経験を活かした宇宙飛行士のサポート
飯田)これからの金井さんの目標をお聞かせいただければ。
金井)実は私帰ってきたばかりなんですけど。もう来年2019年の末には、次の日本人宇宙飛行士、野口聡一宇宙飛行士のミッションが始まることが決まっていますので。まず目標としては次の日本人宇宙飛行士のミッションを成功させるために、自分の経験したことをお伝えするのもそうですし、地上からサポート要員として、次のミッションに携わることを目標としています。
飯田・新行アナ)ありがとうございました。
終始和やかな雰囲気で進んだインタビューでした。英語とロシア語と合わせた「ルングリッシュ」という言葉が出てきたり、帰国直後のふらつきが「船酔い」に似たものであること、食堂で食べ物が飛び散りやすく、掃除が大変なことなど、結構「目からウロコ」な話がありました。宇宙開発の取材は本当に奥が深いです。
ちなみにロシア語については先輩宇宙飛行士が手をいっぱいに広げて、「ここからここまでの本を読んで勉強した」と話していました。それぐらい大変なようです。掃除についても別の宇宙飛行士に聞いた話では、日本人は特にまめに掃除するそうです。日本の実験棟「きぼう」は使い込まれつつあるとはいえ、整然とした印象がありますが、これも几帳面な日本人宇宙飛行士のなせる業なのでしょう。(そういう意味で私は宇宙飛行士には不向きです)
さて、番組のインタビュー後に少し時間がありましたので、私もいくつか金井さんに質問をしました。ちょっと悪ノリもしてしまいましたが、それについてはまた次回です。