【しゃベルシネマ by 八雲ふみね　第465回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、8月18日から公開の『オーケストラ・クラス』を掘り起こします。

すべての子どもに、音楽を通じて世界を知るきっかけを...

2015年、フランス・パリ19区のラ・ヴィレット公園内にオープンしたフィルハーモニー・ド・パリ。フランスを代表する建築家ジャン・ヌーヴェルが近代的なデザインを手がけ、2,400人を収容するメインホールなどを備えた大規模複合施設は、パリ市民や観光客にとって、パリの新たなランドマークとなっています。

「すべての人に開かれたアート表現を提供する」ことをコンセプトに、クラシックのレパートリーはもちろん、ダンス、ジャズ、ワールドミュージックからポップスまで、あらゆるジャンルの音楽を堪能することが出来る、まさに音楽のために創られた殿堂。そのフィルハーモニー・ド・パリが手がける音楽教育プロジェクトが話題となっていることをご存知でしょうか。

デモス・プログラムは、音楽に触れる機会の少ない子どもたちに楽器を無料で贈呈し、プロの音楽家が音楽的技術と素晴らしさを教えるプロジェクト。子どもたちは3年間、レッスンやオーケストラの合同練習に参加し、年度末にはコンサートホールで演奏。フランスではすでに2,000人以上がこのデモスに参加しており、卒業生の約半数が本格的な音楽の勉強を続けているとか。

どんな状況下に置かれている子どもに対しても、音楽を通じて外の世界を知る機会や感性の幅を広げるチャンスを与えるという、フランスの文化意識の高さが垣間見えるこのプロジェクトは、マクロン仏大統領やメルケル独首相が現場を訪問したことでも、注目を集めています。

そんなフランスの音楽教育プロジェクトからインスピレーションを得て、ある1本の映画が誕生しました。『オーケストラ・クラス』は、多くの移民が暮らすパリ19区にある小学校を舞台に、挫折したバイオリニストと初めて音楽に触れる子どもたちとの交流を描いたヒューマン・ドラマ。

気難しく子どもが苦手な主人公ダウドは、やんちゃな生徒たちに四苦八苦。しかしアーノルドというひとりの少年にバイオリンの才能を見出したことをきっかけに、感受性の豊かな子どもたちは次第に音楽の魅力に気づき、演奏することに夢中になっていきます。

ときには練習中にケンカしたり、他校との合同練習で実力の違いを見せつけられたり。それでも、失敗を重ねながらも成長していく彼らと向き合うことでダウド自身も音楽の喜びを取り戻し、一年後に開かれるフィルハーモニー・ド・パリでの晴れ舞台に臨む…。音楽と人生の素晴らしさを謳い上げた珠玉の感動作です。

本作では実在のデモス同様、ほとんど楽器を演奏した経験のない素人の少年少女をキャスティング。実際に彼らが初めてバイオリンを手に取り、音楽を学んでいく様子をカメラに収めています。

説明的なシーンやセリフは極力排除し、オーケストラ上でのやりとりとその演奏シーンを丹念に切り取ることで、生徒役の子どもたちが映画の撮影を超えて、いかに音楽と触れ合ったかが手に取るように伝わってきます。きっとあなたもスクリーンの前でスタンディングオベーションしたくなる、そんな一作です。

オーケストラ・クラス
2018年8月18日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督：ラシド・ハミ
出演：カド・メラッド、サミール・ゲスミ　ほか
©2017 / MIZAR FILMS / UGC IMAGES / FRANCE 2 CINEMA / LA CITE DE LA MUSIQUE - PHILHARMONIE DE PARIS
公式サイト　http://www.orchestra-class.com/