【ペットと一緒に vol.112】
都内の鍼灸治療院の院長を務める藤田恵子さんは、大の犬猫好き。それを知ってか、いつの間にか治療院に3匹の猫が住み着いてしまったと言います。今回は、藤田さんと猫とのストーリーをお届けします。
いつの間にか猫の住処に!?
東京都世田谷区にあるヒーリングゆうには、看板猫がいます。といっても、筆者が取材で訪れた日は、「玄関マットで寝ていることもあるんだけどね~」という三毛猫のミケちゃんは不在のようで、猫の気配がまったくしません。
「そもそも、猫がこの治療院にいることを、患者さんから指摘されるまでスタッフも気付かなかったんですよ」と、藤田さんは笑います。2017年3月、患者さんから「猫がいるのではないか」と言われ、物置部屋に続く階段を上からのぞいたところ、生後半年ほどの猫が丸まって寝ていたのだとか。
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下をのぞくと……。今は猫用トイレなども設置して衛生的な猫空間に
治療院のドアは、営業時間内は空いたまま。いつの間にか猫が入り込み、スタッフも猫がいるとは知らずにドアを施錠し、猫は夜間、無人の院内で暖を取っていたと思われるとのこと。
1匹の猫がさらに兄妹の2匹を引き連れて治療院にやってきて、3匹の猫が出入りするようになったそうで、三毛猫はミケちゃん、キジ白はサバちゃん、黒白のハチワレ猫はクロちゃんと名付けられたそうです。
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少し警戒心の強いサバちゃん
「本当は、我が家の家族に迎えたかったんです。でも、うちには犬と猫2匹がすでにいて、成猫に近い新入り猫ちゃんとは共存がむずかしいので諦めざるを得ませんでした」と、藤田さん。
また、治療院のスタッフが、とてもフレンドリーなクロちゃんを自宅に連れ帰ったそうですが、2回のトライアル期間を設けるも、先住猫との相性が合わずに泣く泣く迎えられなかったとも。
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藤田さんの愛猫
ポケットマネーで不妊手術を受けさせる
「猫たちを発見してからほどなくして、メスに発情出血が訪れました。治療院を猫たちが選んできたのもなにかのご縁、これ以上、野良猫が増えてはいけないと思い、避妊・去勢手術を受けさせることを決断したんです」と語る藤田さんはまず、保護猫活動をしているNPO団体に相談したそうです。そこでは、もしかすると外飼いをされている猫かもしれないので、近隣の方々に飼い猫ではないかを確認するように助言されたと言います。
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フレンドリーなミケちゃんとクロちゃん
「そのとおりに確認作業を進めたところ、やはり野良猫のようでした。そこで、1匹ずつ捕獲しては動物病院に連れて行きました」(藤田さん)。
新しい飼い主さんを見つけられずに地域猫になることも想定して、イヤーカット(避妊・去勢手術が済んでいる目印として耳の一部をカットすること)も手術時にしてもらったそうです。
筆者が取材を終えて階段の下をのぞくと、そこには、クロちゃんの姿がありました。初対面の人間が近寄ってもまったく動じることなく、人懐っこさ満点のクロちゃんの耳には、確かに桜の花びらのような形のイヤーカットの跡がありました。
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クロちゃんの左耳の先端はイヤーカットされています
「クロちゃん、実は、当院から徒歩数分のお客様のお宅でもエサをもらっているんですよ(笑)。そちらでは、ハチワレ猫なのでハッちゃんと呼ばれていて。友好的な性格を活かせていますよね。それに引き換え、サバちゃんはとても警戒心が強くて、エサを食べたらすぐに出て行ってしまいます」と、藤田さんは教えてくださいました。兄妹とはいえ、猫たちの性格はそれぞれ異なっているようです。
客を失うよりも猫を失いたくない!
藤田さんが自宅で一緒に暮らしているのは、元保護犬と元保護猫です。
「物心付いた4歳位の頃から、近所の野良猫にエサをあげていました。猫歴は、かれこれ60年近いですね(笑)! 木箱を手作りして、野良猫を捕獲して里親さん探しをしたこともあります。
いま、我が家にいる最年長は、雪の降る寒い日に保護した22歳のチビ。まだ目も見えていない子猫だったので、哺乳瓶でミルクをあげながら育てました」。
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22歳のチビちゃん
ほかには、神社に捨てられていた8歳の雑種犬と、鍼灸の師匠宅の庭でたまたま野良猫が産んだ5匹の黒猫のうちの1匹がいるそうです。
「愛犬のステラは、とても面倒見がいいんですよ。よく、猫と一緒に寝ています。犬や猫は本当にかわいいですね。治療院の猫たちも、長生きできるように守ってあげたいと思っています」と、藤田さんは語ります。
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藤田さんの愛犬ステラ
「きっと、猫が苦手なお客様もいらっしゃるはず。でも、『地域猫の面倒をみていますが、こればかりはやめられません』と宣言してしまって。猫が原因でお客様を失うことより、猫が苦境に立たされるほうが、私にはつらいんです」。
そう言いながら、いつまでもクロちゃんにやさしい眼差しを注ぎ続ける藤田さん。その温かい人柄が慕われているのと、猫たちが藤田さんに恩返しをするべく招き猫になっているからか、治療院にはずっと通い続けるお客様が多いようです。
連載情報
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ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。