犬猫と西日本豪雨の避難途中に死を覚悟。今は被災犬のボランティアトリミングで“人助け”

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【ペットと一緒に vol.107】

倉敷市内 倉敷 トリミングサロン ペット 被災 西日本豪雨 避難
倉敷市内でトリミングサロンに勤める小見山ゆかさんは、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)で自宅が浸水し、愛犬や愛猫とともに被災しました。保健所のボランティアトリマーとして、また“ペット防災指導員”として岡山県内で活動している小見山さんに、西日本豪雨で体験し感じたことをうかがいます。


死を覚悟した2日間

老犬2頭と若齢の中型犬2頭、そして愛猫2匹と倉敷市真備町の自宅で被災した小見山さん。
「今回の被災時に3回、私はここで死ぬかも……と思いました」と語ります。

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小見山さん(左)と店長の武田さん(右)

その夜、自宅が浸水する危険性を感じた小見山さんは、ケージに入れて母親に託した愛猫と、犬4頭となんとか車に乗り込みました。

避難所へ向かおうとしたものの、ガソリンの残量がわずかだったため、まずはガソリンスタンドのある川沿いの道を行くことに。

「その途中、交差点付近で多くの車が動かなくなっていたんです。前にも後ろにも車がいるのでUターンもできず、立ち往生。私の車も3分の1ほどが一気に水に浸かってしまいました。水の勢いが恐ろしく、『母と店長をどうすれば救えるかな? あぁ、でもどうしていいかわからない……。これが私の最期なのかも』という考えが頭の中を巡り、涙が溢れ出ました。ハンドルを握っていた手はブルブルと震え、体が思うように動かなくなりました」。
そんななか、ようやく前の車がスーっと前方に進み、小見山さんも脇道に入って避難所にたどり着くことができたそうです。

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フォスターサロン(保護動物の一時預かりと譲渡先探しを行うトリミングサロン協会)の一員として一時預かり中の保護犬チャーリーくんも一緒に避難

参考:フォスターサロン

翌朝、自宅に残した店長の自動車を取りに戻ったところ、避難所から徒歩20分のところで、小見山さんと店長の武田まどかさんは愕然としました。
「目の前に広がっていたのは、まるで海のような光景だったのです。複雑な気持ちで足取り重く避難所に戻りました。するとまた大雨が。『この避難所も水に浸かってしまうのでは? いま、ここからも逃げたほうがよいのかな?』と考えていると、心臓がドキドキして息苦しくなりました。再び、ここで死ぬかもしれないと感じました」。

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築年数が浅く住宅ローンも残る自宅は、2階まで浸水


被災者の経験と学びを伝えることの大切さ

小見山さんたちは愛犬と愛猫を連れて、自動車で15分ほどのところにある倉敷市内の、別の地区のトリミングサロンに向かうことにしました。
どの道路ならば安全かを避難所やガソリンスタンドで聞いて、初めて通る山道を抜けるコースを選択。
「携帯のバッテリーは、18%と36%。ハラハラしながら、道中なんども地域住民の方に道を訪ね、川沿いのくねくねとした山道を進みました。この山を越えればゴールも間近というところで、通行止めの看板が。それまでの道のりを含めた恐ろしい体験もあって、またもやこれで最期になるかもと思いましたね。ところが、地元らしき1台の車が現れたので後に続くと、交差点に出ました。ガス漏れによる通行止めだと言われ、結局、意を決して水かさが増したままの川に架かる橋を渡りました」。
こうして、3時間以上かけてなんとか無事にトリミングサロンにたどり着いたのです。

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ずっとケージに入れて避難してきた愛猫

避難の緊張感が伝わっていたのでしょう。めずらしく、床に下ろした愛犬や愛猫の体から汚れや汗の臭いが立ち上ったと言います。
「サロンも同じ倉敷市内なのに、地区が違うだけで別世界のよう。人々は日常的で……。真備のことをどこか他人事のように感じているような気もして、正直、被災者とそうでない方との温度差のようなものに戸惑いました」と、小見山さん。と同時に、「これが一部の人にしかわからない感情だとすると、危険だ」という思いも抱くようになったと語ります。

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愛犬たちはみんな元保護犬。左上は武田さんの愛犬。「避難の困難さを知り、今後は多頭飼育は控えようと思います」(小見山さん)


ペット防災への取り組みを開始した直後に

小見山さんは昨年末、“ペット防災指導員”の認定資格を取得したばかりでした。
保健所のトリミングボランティア仲間や地域の愛犬家など20名で、ペットと防災に関する勉強会を岡山県内で2回開催。9月にはペット同行避難訓練を、避難所となる小学校で行うために活動を進めていたなかで、西日本豪雨災害に見舞われました。

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ペット防災指導の第一回倉敷ミーティングにて

小見山さんはペット防災指導員になったことがきっかけで、実は初めて避難所がどこにあるかを知ったのだとか。
「東京で8年間暮らしたのち、岡山県に戻って真備に新居を建てたので、避難場所について意識したこともなくて。発災直後は、携帯電話やインターネット回線が使用できない可能性もあります。いざというときに焦らないように、避難所への避難経路は実際に何度か通っておいてください」と、小見山さんは強調します。

避難する際は、決して愛犬や愛猫を放したり自宅に残したままにせず、飼い主さんと一緒に逃げるべきだとも小見山さんは述べます。
「自分の家族とペットを、自分がいまから守らなければいけない! と、今回実感しましたからね」(小見山さん)。

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ペット防災指導員として小見山さんが作成した資料


被災者の愛犬を無償でトリミングしながら

トリミングサロンを仮住まいにして、小見山さんは現在ペット可の新居を探しています。通常どおりトリミングサロンの営業を続けながらの忙しい毎日ですが、真備総合公園に停車中のトリミングカーで、保健所のボランティアトリミングのグループ“岡山トリマーじゃけん”の仲間と一緒に、被災した犬のトリミングも行っています。被災したペットは、9月末までは無料でグルーミングを行っているとのこと。
「キレイになると、犬たちもうれしそうですよ」と、小見山さんは微笑みます。避難所に同伴したペットの衛生管理も重要です。

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真備総合公園に配置されている、日本ペットサロン協会所有のトリミングカー

「こんな大変な状況下で、ペットのために時間を費やしている場合か?」、「まずは人からだろう!」などと言われることもあると言います。
「保健所の犬と被災した犬をシャンプーするのは同じ施術ですが、大きな違いは飼い主さんがいるかいないかでした。目の前で困っている飼い主さんに接し、犬のボランティアをすることで、飼い主さんという“ヒト”も助かる部分があると気づきました。私は、被災した人も助けたいから、この活動を行っているのです」とも小見山さんは語ります。

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ボランティアトリミングの仲間と(黒いニット帽が小見山さん)

災害は、いつどこで訪れるかわかりません。
「今やっているすべては、私自身のためでもあるんです。被災後、毎日がとても大切に思えます」という小見山さんの体験談を、重く受け止め、私たちの防災に活かしていくことの大切さを感じずにはいられません。

※参考記事
準備は万全? そろえておきたいペットの防災グッズ

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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