【ペットと一緒に vol.103】
西日本豪雨で被災したペットと家族のために、柔軟な発想で迅速な支援を行っている一般社団法人Do One Good。今回は代表を務める高橋一聡さんに、トレーラーハウスを活用した画期的な支援プロジェクトについてうかがいました。
真備の被災ペットと家族への支援を迅速に行うため
東日本大震災や熊本地震で、被災地のペットと飼い主さんに対して有効な支援を行ってきたDo One Good。今回は西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の被災地に、初めてトレーラーハウスを送り込み、活用させるという取り組みを行っています。
「過去の経験と反省点があったからこそ実現した支援ですね。コンテナハウスなどと違い、トレーラーハウスは駐車場さえあれば即座に設置できるのがメリットです。岡山県倉敷市の真備総合公園に運んだこのトレーラーハウスは、ふだんは犬猫の譲渡会を行うために利用しているもの。真備では、わんにゃんデイケアハウスという名称で、主に被災ペットの一時預かりを行う目的で発動しました」
そう語る高橋さんは、現在は警備犬の育成をしていて、アイリッシュ・セターと暮らしていた経験があり、アメリカでグルーミングの勉強をしたり、以前は都内で24時間スタッフ常駐のペットホテルを経営したりもしていた、犬のスペシャリスト。
「自分自身が愛犬を大切なパートナーとして生きてきたからこそ、被災地のヒトとペットが本当に必要としているものを届けたい! という気持ちを東日本大震災の発災直後から強く抱き、支援を開始しました。
ペットがいるから避難所へは行かず在宅や車中で被災している方に、東日本大震災のときは数多く出会いましたね。避難所にドッグフードをもらいにいくのは少し気まずいと感じていたり、避難所でもらえるフードは愛犬が食べなれないものだったりと、困っている被災者の声を現地で聞きました。そこで、飼い主さんひとりひとりに直接、希望する物資やフードの種類の聞き取りをしました。全部で180件にのぼったと記憶しています。
ペット同伴避難が許された避難所で、生後1週間のダックスフンドの子犬たちに出会った直後は、子犬のミルクや離乳食などをトンボ返りで東京へ取りに帰ったこともありましたね」。
そう振り返る高橋さんは、東日本大震災でのこの経験やペットホテルの経営経験をもとに、真備のわんにゃんデイケアハウスでも、預かるペットのポートフォリオを作成して役立てているそうです。
「それぞれの性格や特徴を把握することが、世話をする側も預ける側も安心材料になりますから」。
被災地の飼い主さんに安心してもらいたい
被災者の要望に応える支援が大切だと考える、高橋さん。
「わんにゃんデイケアハウスを、被災者が今後の暮らしを立て直すために有効利用してもらいたいですね。たとえペット同行避難やペット同伴避難が認められていても、ペットを避難所に独り置いて仕事に行くことはできません。ペットを連れての自宅の片づけや、新居探しもなかなか困難です。そんなとき、一時預かり施設が役立ててもらえれば」とのこと。
真備を訪れた高橋さんは、被災者から様々な話を聞いたと言います。
木にしがみついていたある犬は、水上バイクで人々を救出していた男性に発見されて助けられたとか。自宅の2階に避難させていた愛犬が、一時避難をした場所から戻るといなくなっていたので落胆していたところ、自力で泳いで高い場所に逃げていたのを後から発見した飼い主さんもいたそうです。
こうして命をつなげても、その後の被災生活で体調を壊すペットも少なくはありません。そのようなペットたちのために、岡山県獣医師会は、真備総合公園の駐車場に配備されたドクターカーを利用して健康管理のサポートも行っています。
被災者自身もボランティアとして活躍
被災動物の手入れができるグルーミングカーも、高橋さんの手配で福島県から同公園にやってきたそうです。
「一時預かり、健康管理、手入れと3台が集結したことで、真備総合公園は被災ペットの情報基地にもなっています。飼い主さん同士の交流の場にもなればいいですね」と、高橋さん。
ここでグルーミングを行うトリマーさんや、わんにゃんデイケアハウスのスタッフは、ほとんどが地元の方だそうです。なかには自宅が浸水被害に遇って住めなくなり、唯一水害を逃れたトリミングサロンで寝泊まりをしているトリマーさんもいるのだとか。
「助け合いの輪が広がるのを間近に見ていて、胸が熱くなります。地元のボランティアの方々の熱意に支えられて、こうして支援活動ができているのだと感じています」。
そう話す高橋さんは、今後は一時預かりだけでなくペットホテルとしてトレーラーハウスを活用することも検討しているとも言います。
被災者の状況とニーズは、日々変化します。必要な支援を必要とする人の手に早急に確実に届けることこそ、フットワークが軽くネットワークが広いDo One Goodのような団体の強みだと言えるでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。