犬嫌いの私を、うつと引きこもりから救ってくれたのは犬だった!
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【ペットと一緒に vol.110】
うつ病を患い引きこもり状態だったE.S.さんは、犬と触れ合ううちに少しずつ変わっていきました。今回は、出会う人から「表情が明るく、いい顔になった」と言われるまでになったE.S.さんと、犬とのストーリーをご紹介します。
犬が嫌いで怖かったのに……
笑顔を失っていた20代後半のE.S.さんが、母親と祖母に連れられてセラピー犬と触れ合える施設“人と犬との憩いの場所”を初めて訪れたのは、1年ほど前のことでした。
「実は、動物全般が苦手。出迎えてくれたグレートデンに至っては熊や馬ほどの大きさに思え、食べられてしまうのではないかという恐怖すら覚えました。大型犬がたくさんいて、見ているだけでも緊張しました」と、E.S.さんは振り返ります。
犬を遠目で眺めることしかできなかったE.S.さんを、もともと犬好きの母親は「いずれ、犬のあたたかさがわかるはず」と、その後もセラピー犬のもとへ連れて行ったそうです。
そしてついに、E.S.さんの気持ちに変化が現れました。
「4~5回目の訪問時でした。ヨハンくんというゴールデン・レトリーバーが『覚えているよ~』と近寄って来てくれて、私の膝枕で寝始めたんです。その時『かわいいなぁ』って感じたんです」。
ヨハンくんはやさしく“お手”をしたり紳士的に接してくれ、さらに黒い被毛が美しい中型犬ミックスのショコラちゃんもE.S.さんのそばに寄り添ってくれたのが、とてもうれしかったそうです。
それからのE.S.さんは、セラピー犬たちのもとへ自ら足を運ぶようになりました。
「早くヨハンくんに会いたい! あったかくて、ふわふわで、やさしいセラピードッグたちと触れ合いたいと思って」と、E.S.さんは笑顔で語ります。
自宅で犬と過ごした2カ月間の変化
E.S.さんの弟は、愛犬の次郎くんをセラピードッグに育て上げたドッグトレーナーだそうです。
「2カ月間、次郎を預かっていたとき、一緒に散歩に行くのが楽しみのひとつになりました。出会う人に『柴犬なのにすごくフレンドリーでかわいいわ』、『お利口さんね~』と、声をかけられるたびに、自分のことのように誇らしくなりましたね(笑)」と、E.S.さん。
当時、パソコンの職業訓練教室に参加できるまでに病状が回復していたE.S.さんを、次郎くんは駅まで迎えに来てくれたのだとか。
「次郎が駅で待っていてくれるから、訓練に行こう。と、次郎が私のモチベーションになっていました」。
次郎くんのおかげで満ち足りて充実していた2カ月間が過ぎ、少し淋しい気持ちになったそうですが、近所に住む弟さんのもとへ、今では毎週のようにE.S.さんは訪れています。
「日中は仕事をしている弟に代わって、散歩に行きます。次郎を通じて“犬友”もできたんですよ。そうした方と関わるのが楽しくて仕方ありません」とのこと。
E.S.さんに歩調を合わせてくれる次郎くんを見つめながら、「私は何で、こんなにかわいい生き物が今まで嫌いだったんだろう」と、不思議に思うといいます。
私を救ってくれた犬に恩返しがしたい
犬たちのおかげで、週に2回は働けるようにまでなったと語る、E.S.さん。主治医からはE.S.さんのうつ病を治すのは困難だと言われていましたが、投薬量も3分の1ほど減り、顔色が良くなったと多くの人に言われるそうです。
「私に再び働きたいと思う気持ちを与えてくれた犬たちに、恩返しがしたいので」、現在E.S.さんは週に1回、“人と犬との憩いの場所”に犬たちの世話をしに行っているのだとか。
犬のトイレ掃除をしたり、たまにブラッシングなどをしているそうです。
「ヨハンくんの娘犬が3頭いるんですが、そのコたちに体を挟まれると、すごく幸せな気分になります」と、E.S.さんは笑います。
「セラピードッグたちは、一番大変だった時期に、誰よりも私を助けてくれた存在です。犬の力を借りていなかったら、私はまだ引きこもっていたかもしれません。本当に犬たちに感謝しています」と話すE.S.さんは、これからもっとたくさんの犬と出会い、触れ合い、犬のことを学んでいきたいと夢を語ります。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。