問題だらけの愛犬に感謝! 苦悩と格闘の日々がいまでは貴重な財産に
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【ペットと一緒に vol.117】
筆者の3頭目の愛犬は、あるときから急に筆者を悩ませる行動を取るようになりました。なぜ? どうすればいいの? と頭を抱える日々。今回は、ほかの犬に吠えたり威嚇したりする愛犬と筆者のヒストリーをお届けします。
憧れのテリアを迎えられた!
筆者は最初の愛犬がヨークシャー・テリアだったこともあり、耳のピンと立ったテリアが大好きです。20歳でそのヨーキーを失い、当時はペットロスにも苦しめられたものですが、それから約10年後、オーストラリアでドッグトレーニング留学中に念願のノーリッチ・テリアを迎えました。
なぜノーリッチ・テリアにしたかと言うと、中学生時代に「オズの魔法使い」に登場するトトという犬に一目惚れしてしまったからです。筆者の愛犬のヨークシャー・テリアよりもワイルドな風貌に惹かれました。調べてみると、トトはケアーン・テリアという犬種でした。
いつかケアーン・テリアと暮らしたいという夢を中学時代から描き、いざ実家から独立してケアーン・テリアを迎えようと準備を始めたものの、そのサイズがネックに。当時は東京都中央区に住んでおり、自家用車も所有していないため犬用キャリーバッグを片手に、地下鉄に乗ってあちこち出かけようと思っていたのです。
もう少し小型のワイルド系テリアがいればいいのになぁ……、とネットで調べたところ、見つけました! ノーリッチ・テリアです。
「図鑑では見たことがあるけど、実際に日本にもいるんだ!」と、胸が躍りました。外貌もケアーン・テリアによく似ています。
念願の多頭飼育もスタート
オーストラリアでノーリッチ・テリアのブリーダーを探し、犬舎まで迎えに行って手にいれたリンリン。飼い主が言うのもなんですが、それはそれは気質の良い犬で、シャイな部分もなく、人にも他の犬にもフレンドリー。ほとんど吠えることもありません。
確かに生粋のテリアなので気が強いところはありますが、ドッグトレーニング留学の経験も活かしてリンリンを育て、すっかり自信がついた筆者は4年後、リンリンの子犬のミィミィとの多頭飼育を始めました。
ミィミィはひとりっ子で、兄弟姉妹犬との触れ合いによる社会化ができなかったため、生後2カ月ごろから筆者が運営する“犬の幼稚園”に連れて行きました。そこでは、上手にほかの犬と遊び、順調な社会化(※他の人や犬、様々なものや事象に慣れること)が進んで行き、リンリンを超えるスーパードッグに育つものと信じていたのですが……。
1歳を目前に控えたころから、ミィミィは近寄って来た犬に「ガルルゥゥゥ~」と牙を見せて威嚇をするようになり、散歩中に出会う犬に吠えるようになってしまったのです。
なぜ? と、頭を抱える日々
ミィミィが犬の幼稚園に通ったのは生後半年まで。ちょうど生後半年ごろに自宅を引越したため、距離的な問題で通園が困難になってしまったのです。
オーストラリアや日本で学んだ一般的なトレーニングとして、落ち着きがあり他犬に友好的な犬に協力をしてもらう方法があります。愛犬が吠えない距離から歩行をスタートして、おやつなどに注目させながら何度も他犬とすれ違うのです。途中、愛犬が他犬に吠えずに歩けていたら、褒めながらおやつをあげます。
だんだんと他犬との距離を縮めて行き、さまざまな犬に協力してもらって練習するうちに、他の犬に吠えなくなるでしょう。
ところが、引越し先では“犬トモ”が作れていなかったことや、筆者がしばらく体調を壊してしまったこともあり、先述の矯正方法を用いるチャンスを得られませんでした。
友人の一言で、犬に寄り添えるように
頭を抱えた筆者が試行錯誤の末に見出したのは、自分でも予想外の方法でした。
「アップ」と言ってミィミィを筆者の膝に飛び乗らせてから抱っこし、「しーっ」とミィミィの耳元でささやきながら吠えを抑制させ、散歩中に出会った犬とすれ違うという手法です。
抱かれた犬は吠えやすくなると言われますが、ミィミィにとっては「飼い主からの『静かに~』っていう圧力もスゴイし、落ち着かないと……」という抑止力になるようです。
「リンリンは、しつけ教室にも通った経験がなくても最初から他の犬と仲良くできる。ミィミィはこんなにも社会化に励んだのに、何でだろう?」と、肩を落とす筆者を、ドッグトレーナーの友人が励ましてくれました。
「他の犬に吠えたことで、何かミィミィのメリットになる体験をしたんじゃないかな? 私も他の犬が苦手なコと暮らしているけど、他の犬と仲良くさせる必要はないと思っているんだ。愛犬が散歩や動物病院に行ったとき、ストレスなく他の犬のいる空間で過ごせればそれでよし! ってね」と。
冷静に考えてみると、ミィミィが生まれ持った気質は、リンリンよりも興奮しやすく、おおらかタイプというよりも過敏タイプ。散歩前にリードを出しても、リンリンはシッポをブンブン振って喜びますが興奮はしません。けれども、ミィミィはリードをみるとつい「ワンッ」と声が出てしまいます。また、お気に入りのドッグベッドで寝ているとき、リンリンがミィミィに近づくと「ガゥー(アタチのベッドを奪わないでー)」と言うミィミィ。でもその逆パターンはありません。
リンリンと同じように接して育てても、ミィミィの性格を考えれば同様に育つとは限らないという当たり前のことに、友人の言葉がきっかけで気づかされました。
いま、つくづく感じています。ミィミィの行動に悩み、あれこれと試した時間は筆者の財産でもあると。
犬のしつけ教室で出会う飼い主さんの悩みが、痛いほどわかるからです。そして、その犬の性格によって接し方や行動修正のアプローチ法は異なることも、ミィミィは教えてくれました。
筆者の理想像を押し付けられていないミィミィは、いまはそれなりに幸せなのではないでしょうか。ミィミィ、いろいろとありがとう! そしてミィミィを産んでくれたリンリンも、ありがとう!
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。