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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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撮影:湯浅誠
内閣府の景気動向指数研究会は今月13日、『景気拡大の長さが、高度成長時代に4年9カ月続いた「いざなぎ景気」を上回り、戦後2番目になった』と発表しました。このニュースに「え? 何が?」「暮らし向きはちっとも楽にならないんだけど」と、首をかしげた方、多かったのではないでしょうか?
そしていま、裏社会で生きる少年たちを描いた話題の映画、入江悠監督の『ギャングース』には、こんなセリフが出て来ます。
『日本は今、絶賛・長期不況中、子供の相対的貧困率13.9%! およそ7人に1人の割合だ、めちゃくちゃ多いぞ。日本列島では224万人の子供が貧困状態、さらにひとり親家庭の貧困率は50.8%、マジで世界でもトップレベルだ!』
さて、内閣府の発表といまの映画のセリフ、あなたはどちらにうなずけますか?
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朝ごはん給食が並ぶ様子(撮影:湯浅誠)
大阪市東淀川区の西淡路小学校では、2年前から毎週月・水・金の3日間、朝ごはん給食を実施しています。7時半に登校して来る子どもたちは、ほかほか湯気の立つ朝ごはんを、友だちと一緒に食べることができます。
大阪市の補助を受けているので、自己負担金は1食50円。本来なら、コンビニのあんぱん1個すら買えない値段です。
どうして、こんなことが可能なのか?
堀尾浩行校長に取材を申し込むと、「朝ごはんのことなら、私よりも表西弘子さんに聞いてください。朝ごはん給食を始めた人ですから」というお返事。堀尾校長の紹介で、表西さんに話をうかがうことができました。
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朝ごはん給食の実施を始めた 表西弘子 さん(撮影:湯浅誠)
12年ほど前「朝ごはんを食べられない子が増えている」というニュースを目にして、保護司や民生委員をしている表西さんは思ったと言います。
(家庭崩壊が進んでる。どこかで朝ごはんを食べさせてあげればいいのになぁ)
とは思ったものの、そのときはまだまだ他人事だったと言います。ところが、あるキッカケから、その話はにわかに現実味を帯びて来ました。
西淡路小学校と淡路小学校の統合…。つまり、校舎がまるまる1つ空く! 閉校になった校舎を使って、朝ごはん給食を始められないか? 表西さんの胸に火が付きました。
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湯気をたてるほどあたたかいスープも(撮影:湯浅誠)
「子どもたちに毎朝、朝ごはんを出したいんです!」
相談を受けた区役所の反応は「そんな、アホな!」という感じでした。
「月に数回、週に1回の『子ども食堂』は、あちこちで始まっている。でも私は毎日、朝ごはんを子どもたちに食べさせたいんです!」
表西さんの熱意は強く、協議を重ねた結果「週に3回やってみよう!」ということに落ち着きました。次は、場所の問題です。
「閉校になった校舎に、わざわざ朝ごはんを食べに来るのか?」
これには表西さんも(なるほど…)と、頭をかかえたそうです。ここに手を差し伸べてくれたのが、西淡路小学校の堀尾校長でした。
「うちの家庭科室、使いますか?」
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おいしそうな朝ごはんを作るボランティアメンバーの方々(撮影:湯浅誠)
こうして、表西弘子さんの夢は船出しました。
集まったボランティアのメンバーは、60代2人、70代8人、80代1人の総勢11人の大阪のおばちゃんたち! ちなみに表西さんは、71歳です。
その仕事は、前日の買い出しから始まります。事前に受け付けた人数に応じて、安くていい食材を選び、フードバンクの力も借りるそうです。調理から給仕、後片づけまで3時間半。特に6時から7時半の開店までが、おばちゃんたちの勝負の時間!
しかし、わが子の子育てを終えた彼女たちの手際の良さはさすが! 家庭科室の前に掲げた「朝ごはんやさん」のボードも、ほほ笑んでいます。
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「朝ごはんやさん」のボード(撮影:湯浅誠)
やって来る子どもたちにもジメジメした暗さはありません。
「やったぁ! ハンバーグだ!」「このスープ、おいしそう!」
最初の月は20人。いまでは30数人の小さなお客様が来てくれるそうです。
「あの子はね、学校で朝ごはんを食ベてるのよ」といった偏見や誹謗・中傷が生まれないように、希望は自由! 誰でも申し込めるシステムです。
アンケート調査からは「子どもが早起きするようになった」「遅刻が減った」そんな教育的効果も認められるそうです。
これまでいちばん嬉しかったのは、ある6年生が書いてくれた短いメモ。
朝ごはん、おいしかった! うどんもあったかかった
表西弘子さんは言います。
「子どもが朝ごはんを食べられないのは、社会のせい。親の責任。でも、それを指摘したところで、子どもたちのお腹は満たされないんです」
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撮影:表西弘子
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ