「報道部畑中デスクの独り言」(第116回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、発生から今年(2019年)で8年となる東日本大震災について解説する。
今年も3月11日がやって来ました。東日本大震災の発生から8年です。東京・千代田区の国立劇場では追悼式が開かれるほか、被災地各地で黙とうがささげられることでしょう。
東日本大震災のチャリティソングと言えば、ご存知『花は咲く』ですが、先月、この曲をヴァイオリンの生演奏で聴く機会がありました。
場所は東京・文京区のトヨタ自動車東京本社。「ロビーコンサート」と題するこの取り組みはトヨタが1995年以来、ほぼ半年に1度、地域のNPOとともに地元の住民や福祉施設の関係者を招待しているものです。今回で46回を数えます。
演奏で使われた楽器は「TSUNAMI VIOLIN(つなみヴァイオリン)」。これは東日本大震災の津波で生じた流木や崩壊した家具の材木を使い、有名な弦楽器製作者、中澤宗幸さんがつくったものです。
流木や崩壊した家具は決して「瓦礫の山」ではない、人間の営みや家庭を見守って来たものである…そんな思いを込めてつくられたこのヴァイオリン、特に「魂柱」の部分には岩手県・陸前高田の「奇跡の一本松」の一部が使われています。魂柱は「こんちゅう」と読みます。
ヴァイオリンの表の板と裏の板をつなげる棒状のもので、とても小さな部品ですが、これによって弦が生み出す「音のエネルギー」=振動を伝え、楽器全体に繊細な音が響くようになります。まさに「たましいのはしら」、ヴァイオリンの「神経」とも言える部分です。そして裏には「奇跡の一本松」の姿が描かれています。
会場には繊細ななかに、芯の通った音色が響き渡りました。演奏した1人、ヴァイオリン奏者のfumiko(ふみこ)さんは、TSUNAMI VIOLINについて「いろんな思いが込められている。身が引き締まる思いがする」と話していました。
被災地に目を向けますと、“定点観測”的に足を運んでいる宮城県気仙沼市。震災直後には大型漁船「第18共徳丸」が陸に打ち上げられ、漏れた重油による火災という信じがたい事態に見舞われました。
あれから8年、内湾地区には昨年11月、「ムカエル」と名付けられた集客施設がオープンしました。復興に向けた新しい街が少しずつですが姿を現しています。仙台と気仙沼を結ぶ三陸沿岸道路の延伸、大島と本土を結ぶ気仙沼大島大橋(愛称は鶴亀大橋)の開通も間近で、観光振興や水産業の物流効率化に期待が高まっています。
その一方で、自動車専用道路の整備で地元からは「車の流れが変わってしまうのではないか」と、生活への影響を懸念する声もありました。防潮堤の建設も進みますが、津波対策に不可欠であるとしながら、その光景は「やはり威圧感がある」と住民はため息を漏らします。
気仙沼市によると、震災前、7万3,000~4,000人で推移していた市内の人口は、6万4,000人を割り込みました。約1万人の減少です。有効求人倍率は要である土木・製造業で2.6~2.7倍。土木関係は高止まりする全国平均よりは低いものの、人口減少に人手不足…まちづくりをめぐって新たな課題にも直面しています。
中小企業を束ねる日本商工会議所の三村明夫会頭は、被災地から聞かれる現状について「いちばん難しいのは住民が帰って来ないこと。復興が進んでも、想定していなかった課題が出て来る」と話し、2020年度に廃止される復興庁に代わって一元管理できる後継組織の設置を求めました。後継組織の設置は復興に関する新たな基本方針に明記され、3月8日に閣議決定されています。
そして震災で発生した東京電力・福島第一原子力発電所の事故。先月、2号機の格納容器の内部調査が行われ、底にたまる溶融した核燃料=デブリについて、小石状のものに限り、動かすことができたと言います。ようやくデブリ取り出しに向けて糸口をつかんだ形ですが、廃炉が完了するにはまだまだ長い道のりが待っています。
震災から「もう8年」なのか「まだ8年」なのか…未曽有の災害への思いが潰えることはありません。(了)