毛筆を書くという優雅な時間
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に、製硯師の青柳貴史が出演。毛筆を書く素晴らしさについて語った。
黒木)今週のゲストは浅草の書道用具専門店、「宝研堂」の4代目、製硯師の青柳貴史さんです。最近、日常生活のなかで文字を書く機会が少なくなりましたが、毛筆についてはどう思われますか?
青柳)いま本を作っているのですが、編集者の方と最初の打ち合わせをしたときに、青柳さんとのやりとりは毛筆にしたいと思いますと言われ、毛筆でやりとりをしています。彼から毎回いただく毛筆が、墨の濃度が違ったり字の大きさが違ったり、便箋が違ったり、なかには匂い袋が入っていたり、切手が凝っていたりと毛筆を楽しんでいらっしゃるのですね。
毛筆で書いていると、不思議と書いているときに返信を期待しない自分がいると言うのです。最悪、届かないかもしれないものに想いをのせて送るということをやっていると、書く時間が自分にとってリラックスする時間だということに気付いたと言うのです。
墨を磨っているとき、「青柳さん、いま何をしているかな、もう原稿は進んでいるかな」ということを考えながら書くのだと。相手を気遣う時間を作ってくれる、そんな道具のような気がしたという話をしてくれました。
黒木)青柳さんと話をしていると、硯を持っていたら少し磨ってみようかなという気持ちになりますね。
青柳)実はこれが大事で、筆記用具として近くにあると使うようになるのです。大事なことは、書道と毛筆は切り離して考えた方が良いと思っています。上手い字は修練して楷書、行書、仮名、そういったものを書家の先生に習うものなので、道だと思うのですね。ただ、毛筆は筆記用具なのでどなたでも使っていいのです。
黒木)自分の思いが入っていれば、どんな字でもいいということですね。
青柳)はい。僕は墨を磨って書くことは、手料理を振舞うのと同じものだと思っています。
青柳貴史/製硯師■大学在学中に、病床に伏せていた祖父より「教えるから硯を彫れ」と言われ製硯師の道に進む事を決心、21歳で大学を中退して父親に弟子入り。
■1939年創業の書道用具専門店「宝研堂」4代目となる。“製硯の貴公子”と呼ばれ世界的にも認められる製硯師。祖父、青栁保男氏は中国で修行をして現地伝来の彫りを学び、父、彰男氏は雄勝(宮城県石巻市の雄勝硯は伝統工芸)に丁稚奉公をし、和硯の彫りも学んだ。
■製硯師として以外にも、大東文化大学文学部 書道学科非常勤講師といった教育者としての一面もあり、また定期的に自身の硯で個展をひらいている。
■オーダーメイドの硯製作だけではなく、修理・復元まで全てを手掛けている。そのため山に自ら採石に行くこともあり、どんな石が採れるのか知りたい、その石の特性を理解したいという硯への強いこだわりがある。
■硯づくりのなかで曲げてはいけないと思う精神は、山々や自然の表情を殺さないつくりを徹底すること。自分たちが石に刃物を入れるとき、自然に対する敬意を忘れないようにしている。
■2018年2月に著書『製硯師』を出版。
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