一目惚れした柴犬が認知症に…献身的に支えたネコの愛情
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
種類の違う2匹の動物が寄り添い、触れ合い、馴染んでいる。ドキュメンタリーやトピックスでは、そんな姿をときどき目にします。たとえば仔イヌとインコ、サルとネコ、ウサギとカメ、カバとヤギ…そういう映像を目にすると、何だかホッとする、癒されるものです。
しかし、単に仲がいいというだけでなく、そこに明らかな人間的感情の交流が感じられたとしたら、それは1つの奇跡なのではないでしょうか?
今回の物語の主人公は、オスの豆柴「しの」と、メスの白ネコ「くぅ」です。どちらも広島県在住の女性、晴さんが保護して愛情を注いだ2匹です。
豆柴の「しの」は2011年6月、晴さんが通勤途中の車のなかから見かけたのが最初の出会いでした。歩道を駆ける「しの」はなぜか笑顔に見えたと言います。
「あの犬、笑ってる! かわいい~!」と、そのまま出勤したのですが、その日の帰り道! 豆柴が反対車線の先頭を走り、大渋滞を引き起こしていたのです。
「あの柴犬、今朝の子じゃん! つかまえないと轢かれてしまう」…路肩に車を止めた晴さんは、付近の高校生の協力を得て、その犬をスカーフにくるんで保護。見れば、革の首輪が皮膚に食い込み、そこから皮膚病が全身に広がっていました。それが癒えてフサフサの毛が生えるまで、数ヵ月かかったと言います。
そして白ネコの「くぅ」との出会いは、2012年11月。職場のお昼休みに小さな影が、晴さんの目の前を横切りました。それを目で追うと、子ネコが振り返り「クゥ~」と鳴きました。その声が晴さんには「助けて」と聞こえたと言います。
家にはすでに、5匹の飼いネコと豆柴の「しの」がいましたが、その「クゥ~」という鳴き声には勝てず、晴さんはその子ネコを保護。家に連れ帰りました。
後で分かったことですが、「くぅ」の全身にはノミやダニが寄生し、前歯はウィルスで溶け、消化器にひどい炎症を起こしていました。太れない「くぅ」が健康を取り戻すまでには、3年かかったと言います。
動物の命に寄り添い、そのSOSを真正面から受け止めた晴さん。命の危険にさらされていた「くぅ」と「しの」との出会いは、偶然ではなかったような気がします。
2013年の夏ごろ、さらなる奇跡が起きます。晴さんの家の玄関には、ネコが外へ出るのを防止するための柵が設けられているそうですが、その前を横切ったのが庭で飼っていた「しの」でした。外を見た「くぅ」の目が、キラキラと異様に輝いたと言います。
「いまのだれ? ねぇ、だれ? だれ?」そんな目の訴えに応えるために、晴さんは「しの」を抱き上げて「くぅ」に対面させてやったそうです。「くぅ」が「しの」に恋をしてしまったのはこのときです。人間で言えば一目惚れでした。
やがて、晴さんは結婚。ネコたちと「しの」は新居に移り、室内で一緒に暮らすことになりました。「くぅ」の「しの」に対する猛烈なアタックが始まりました。
何度も何度も手を伸ばしてタッチ。ピタリと寄り添って添い寝する。どこへ行くのにもついて行く。「しのもとうとう根負けして、くぅを受け入れたようです」と、晴さんは当時を振り返って笑います。
「しの」に認知症と思われる変化が現れたのは、この引っ越しから半年が過ぎた頃でした。家具の狭い隙間にはさまって動けなくなる。これまで難なく飛び越えていた段差を越えられなくなる。やがて、自分で食事ができなくなる。すると驚いたことに、「くぅ」の献身的な介助が始まりました。
自力歩行が困難な「しの」が歩くときは、その体を首や背中で支えようとする。「しの」がピンチのときは、いつも晴さんに知らせに来る。動けなくなった「しの」を、しっぽや頭で誘導しようとしました。
こうした愛情に包まれながら「しの」は、去年(2018年)3月7日、永眠…。「しの」の遺体をいつも使っていたベッドに横たえると、ネコたちが次々に別れを告げるようにそばにやって来ました。しかし「くぅ」だけは、何かにおびえるように遠くから見つめているだけだったと言います。
この2匹の間に通った奇跡の物語は、晴さんが写した何枚もの写真と共に1冊の本にまとまり、辰巳出版から出ました。発売後2週間で重版が決まったと言います。
「くぅ」と「しの」の写真は、きょうもどこかで誰かを温めていることでしょう。
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
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