災害対策~議論すべきは「ボランティア不足」ではない

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月6日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。ボランティア不足、災害に対する日本人の古いマインドについて解説した。

災害対策~議論すべきは「ボランティア不足」ではない

【台風19号】丸森町の災害ボランティアセンターが開設され、多くのボランティアが被災した住宅の家財道具の搬出やどろをかきだす作業を行った=2019年10月20日、宮城県丸森町 写真提供:産経新聞社

全国社会福祉協議会、防災担当大臣にボランティア運営費の支援を要望

全国社会福祉協議会の清家篤会長は5日、武田良太防災担当大臣に対し、各地の協議会が設ける災害ボランティアセンターの運営に対する財政支援を要望した。自然災害が相次ぎ、今後も継続的な支援を続けるためには財政支援が不可欠だとしている。

飯田)災害ボランティアセンターは、各地に設置されているものです。

佐々木)ボランティア不足という言葉自体がおかしくないか、という指摘はツイッターなどでも多く、ボランティアは自主的に行くことをボランティアと言うわけで、それを国や社会福祉協議会が「ボランティアが足りない」と文句を言うのはおかしいですよね。第一義的には国や自治体が予算を支出して、そのお金で復興するのであって、それに加えて行きたい人がボランティアをするのです。ニュースを観ていたら、防災システム研究所の所長さんがコメントしていて、「ボランティアが足りない。平日に人員を確保するためには、有給扱いになるボランティア休暇を利用する企業ボランティアが必要だ」と指摘していました。確かにそうかもしれませんが、企業ボランティアと言った瞬間に、どこかの会社に勤めている人が「お前、明日ボランティアに行けよ」と言われて、無理やり行かされます。

飯田)「うちの部から10人行かなきゃならないから、お前とお前」みたいな。ノルマですよね。

いつの間にか「自主」から「強制」へ

佐々木)オリンピックでもあったではないですか。都立高校の生徒が無理やりオリンピックのボランティアに行くことになり、サインして先生に出さなければいけないと言われて、こんなのおかしいではないかと疑問を呈していました。なぜか日本では、自主的なものが強制的なものにすり替わってしまいます。

飯田)企業ボランティアが有給扱いで、ということになると、その分企業が費用を支出するのと変わらないことになるから、本来は行政がやるべきところを企業が肩代わりすることになってしまいます。

佐々木)それならいっそ企業からお金を集めて、それで人員を雇えばいいではないですか。

飯田)その方が新たな雇用にもなりますよね。

佐々木)ボランティアの理念は素晴らしい。日本のボランティアはそれほど盛り上がっていなかったのだけれど、ボランティア元年と言われたのは阪神大震災です。あのときにボランティアという行動が普通になりました。それまでは、ボランティアというものは道端でごみを拾う人くらいの認識しかなかった日本人が、あれで初めて災害現場に無給で駆けつける人たちという認識が広がった。以降、災害多発時代になってボランティアは急速に増え、3.11のときもたくさんの人たちが被災地に行きました。一方で、今回の東京五輪がそうですが、宿泊場所もない、交通手段もない、でもボランティア募集というような。マラソンが札幌という話が出たときに、小池知事が「それならば朝の3時にやる」と言い出して、どうやってボランティアが行くのだという話になりました。

飯田)ボランティアは前泊で夜11時集合か、という話にもなりました。

佐々木)前泊と言っても宿泊場所も用意されないから、みんな道端で寝るのかと。

災害対策~議論すべきは「ボランティア不足」ではない

台風で破損した屋根の応急処置に使う土嚢作りに県外からのボランティアも参加した=2019年9月14日、千葉県多古町役場 写真提供:産経新聞社

ボランティア頼みで災害の対策をしてはならない

佐々木)ボランティアが足りないと言うだけではなくて、災害は多発します。毎年のように、今年(2019年)の15、19号サイズの台風が来るという認識を持たなければいけない。そうなるとボランティアが足りないと言っているだけではなくて、水害が起きたときにどういう態勢で全体の復興、復旧に対する設計をするのか。そういうことを、もう少し考えた方がいいのではないかと思います。

飯田)何かあったときにボランティアで、というのは場当たり的な対応になりますよね。

佐々木)例えば台風15号で、千葉が壊滅的な停電となりました。日本は戦後に植えた杉が多い。杉は根っこが浅いので風で倒れやすく、架線に引っかかってしまって停電が起こる。倒れた杉を撤去しなければいけないのでボランティア募集、という話になりましたが、実際に行った私の知り合いは、怖くて近寄れなかったそうです。

飯田)そうですよね。

佐々木)立っている木でも、どこからチェーンソーを入れればどちらに倒れるかというのは、プロの林業従事者でないとわかりません。ましてや架線に引っかかっている木の、どこをどう切ったらどう倒れるかなんて想像もつかない。素人が近づいてはいけないという話でした。そういうときにこそ林業従事者をもっと育成して、停電時に投入するとか、そもそも杉林が多すぎるのだから今後は広葉樹を増やして行くとか。あるいは国が発表していましたが、電線を地中化して停電が起きないようにするなど、そういう対策を立てて行かなければいけません。いつまでも無給のボランティアに頼って、何とかしようという発想がいけないのだと思います。

飯田)一方で、行政も自分たちでできないことは自衛隊に頼ることが多くなってしまっていて、停電対策で木を切るというのも、結局は災害派遣の自衛隊が全部やったようです。

災害対策~議論すべきは「ボランティア不足」ではない

台風19号で土砂崩れが起きた現場で、自衛隊や警察などが70人体制で行方不明者の捜索を行った。午前8時半と9時半に2人を発見し救出作業が行われた=2019年10月13日 写真提供:産経新聞社

「公務員切り」「コンクリートから人へ」というマインドのアップデートが必要

佐々木)自治体も人手不足で、この30年で人が減っています。だから防災対策課のようなものがあっても、町役場レベルだと1人しかいなかったりします。そこに停電が起きたりすると、あちこちから電話がかかって来て、担当者は途方に暮れる状況になってしまう。大合併以降、平成の30年間で自治体の予算を減らしたしっぺ返しが来ている。あらゆるものが絡みあって、現在の状況を招いています。戦後の住宅街に杉林を増やしたところから始まっているわけです。全体のグランドデザインを何とかしない限り、取ってつけた感が「ボランティア不足」という言葉に象徴されている感じがします。

飯田)役場の人を切ってコストを下げるのが素晴らしいことだ、という流れがありましたが、結局はこうなりました。

佐々木)「コンクリートから人へ」政策も同じで、災害のない時代には有効でした。ダムの反対運動の声明を読むと、災害が戦後長らく起きていないからダムはいらないのだ、ということで、昭和の時代には正しいロジックだったのかもしれない。けれど、平成に入って令和に至るまでに大量の水害が起きているなかで、もはやそのロジックは成立しません。ここで考え方を切り替えて、公務員はある程度必要で、待遇もよくしなければいけないし、非正規では対応しきれないし、ダムも治水池も必要なのだと思うのです。

飯田)先進国クラブであるOECDで見ても、日本の公務員は少ない方です。

佐々木)待遇もいまや悪いですしね。

飯田)出しているお金も、先進国のなかではかなり低い方なのです。

佐々木)ユニクロの会長が「公務員を減らすべきだ」と言って、袋叩きにあっていましたが、そういう認識の人は未だに多いのですよ。昭和のころからのマインドがアップデートできていない方が多いので、高齢者や政治家、財務課の人を含めて、令和の時代に合わせたマインドのアップデートをして貰いたいと思います。

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