交通事故ゼロ対策と「1700mmの壁」

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「報道部畑中デスクの独り言」(第166回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、現在の日本車に求められる交通事故への対策について---

路地に入るとたまに見かける「最大幅」の規制標識 1.7m超、つまり3ナンバー、1ナンバーの車両は本来、通行できない(川崎市内で撮影)

今年(2019年)も押し詰まってまいりました。「師が走る」と書いて師走、小さいころは「先生=教師が走り回るほど忙しい月」と教えられたことを思い出します。師匠である僧侶がお経をあげるために、東西を馳せる「師馳す」から来たなど、その語源にはさまざまな説がありますが、お車の方は急がず、安全運転でお願いします。

12月19日、政府の交通安全対策に関する関係閣僚会議が開かれ、安倍総理大臣は子どもが通行する道路の緊急点検を行った結果、全国で延べ3万6000件の安全対策が必要という報告があったことを明らかにしました。

具体的な対策として、防護柵の充実や歩道の設置、保育施設周辺での「キッズゾーン」の設定を進めることも示されました。対策が必要な道路は、幅が狭く歩行者の安全が十分に確保できない歩道、幹線道路の抜け道になっている道路などになります。

また、会合では俗に「自動ブレーキ」と呼ばれる衝突被害軽減ブレーキについて、2021年11月から、乗用車に段階的に搭載を義務付けることも報告されました。こうした道路交通の現状を聞くにつけ、私は感じることがあります。道路が狭いのではなく、クルマそのものの幅がどんどん拡大しているのも、背景の1つではないかと。

日本の自動車規格では、全幅1700mmを境に、乗用車は5ナンバーと3ナンバーに分かれます(商用車は4ナンバーと1ナンバー)。これは以前、小欄でもお伝えしましたが、1989年(平成元年)に物品税廃止などで税制が変わったのを機に、5ナンバー車はその多くが全幅1700mmを超え、3ナンバーになって行きました。

その後もほとんどの日本車は、モデルチェンジごとにサイズが肥大化する一方です。グローバル化、居住性向上、衝突安全厳格化への対応など、さまざまな事情はあるでしょう。しかし、クルマが大きくなっても、国土が広くなるわけではありません。

衝突安全対策として寸法を拡大することで、車内の人員が守られたとしても、外にいる歩行者、自転車の領域が狭められ、安全が脅かされるのならば、それは果たして真の交通安全と言えるのかどうか。

日産NV200タクシー(2015年6月8日 東京・芝公園でのイベントで撮影)

ちなみに1989年はまさに「バブル期」、クルマの世界では後に大きな影響を与える名車が数多く生まれたとして、「ヴィンテージ・イヤー」と呼ばれていますが、逆に「日本らしさ」を失い始めた年だったのではないかと思います。

クルマの寸法をめぐっては、こんな話があります。日産自動車に「NV200バネット」という、1.5ボックスのミニバンがあります。ビジネスユース=商用を主として開発されたクルマですが、アメリカ・ニューヨークではイエローキャブに採用され、日本にもタクシー仕様があります。

このクルマの全幅は1695mm、つまり、日本独自の規格である5ナンバー(商用車は4ナンバー)のサイズに収まっていますが、実はそうした規格がない欧米にも通用するよう設計されたと言います。カギとなる数字が「1220」、左右リアホイールハウス間の寸法です。特にヨーロッパでは、1200mmを満たしているかどうかが価値を大きく左右するのだそうです。

荷物の運送に欠かせないのがパレットですが、この規格が日本とヨーロッパでは違うのです。日本では1100mm×1100mmですが、ヨーロッパでは1200mm×800mm、つまり幅が1200mmの“ユーロパレット”が入らない商用車は、役に立たないというわけです。

日本で使いやすい5ナンバー枠に収めながら、ユーロパレットが入る幅を稼ぎ出すのに苦労したという設計陣…荷室を見ると、後輪タイヤハウスの張り出しは小さく、すっきりとしています。このために専用のサスペンションも開発したと言います。

そう、これこそが技術です。「勤勉・実直」という日本人の、美徳の象徴とさえ感じます。特に、厳しい制約を知恵と工夫で克服するパワーというものは、軽自動車の例を出すまでもなく、日本人の「お家芸」のはずです。

日本自動車工業会・豊田章男会長(トヨタ自動車社長 2019年12月19日の記者会見から)

日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、同じ12月19日に開かれた今年最後の記者会見で、このように話していました。

「衝突被害軽減ブレーキをつければ万能であるというミスリードはやめてほしい。自動車会社ができることはやって行くが、それだけでは不完全。すべてが当事者となって安全対策をするということ…」

自動車会社ができること…事故ゼロを目指すためには、衝突被害軽減ブレーキや、自動運転に代表される次世代技術はもちろん大切です。しかし、クルマそのものの寸法という、足元の基本的なことにも、改めて目を向ける必要があるのではないでしょうか。

スズキが発表した「新型ハスラー」、軽自動車市場は活況だ(2019年12月24日撮影 中央は鈴木俊宏社長)

交通事故と車両のサイズに明確な因果関係があるわけではありません。しかし、国内市場で軽自動車や5ナンバーサイズのコンパクトカー、ミニバンがいまだ大きな支持を受けているという現実、特に軽自動車は各社が切磋琢磨し、いまや国内市場の約40%を占める市場に成長しているのが、その必要性を示す、何よりの証明ではないかと思うのです。(了)

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