ラグビーW杯~伊勢丹新宿店がパブリックビューイングを開催した理由
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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今年(2019年)、日本中をもっとも沸かせたスポーツイベントと言えば、9月~11月にかけて日本で行われた「ラグビーワールドカップ」です。
きょうは、パブリックビューイングを屋上で開催して大盛況となった、伊勢丹新宿店をめぐるストーリーです。……実は、伊勢丹とラグビーには深いつながりがありました。
10月13日に横浜国際総合競技場で行われた、ラグビーワールドカップ1次リーグ最終戦・日本 対 スコットランド。日本代表はみごと強敵を下し、1次リーグを4戦全勝で突破。アジア勢初のワールドカップ・ベスト8進出という、歴史的快挙を成し遂げました。
日本が勝った瞬間に大歓声が上がったのが、この試合のパブリックビューイングを行っていた伊勢丹新宿店です。日本戦4試合を含む17試合を、屋上に設置した巨大モニターで放映。
「どの試合も満員の大盛況でしたが、スコットランド戦は勝った瞬間、屋上が揺れました。朝早くから並ぶ人もいて、午後3時には入場制限をしなければいけませんでした」と語るのは、伊勢丹新宿店の本店長、近藤洋さん・58歳。
早稲田実業から東海大学を経て、伊勢丹に入社。伊勢丹ラグビー部の主力として活躍し、監督 兼 部長も務めたラガーマンです。
伊勢丹ラグビー部は、1959年に創部。1989年から、現在のトップリーグの前身の1つ、東日本社会人リーグに加盟し、ニュージーランド代表・オールブラックスも含む3人の選手を招くなどチームを強化。強豪チームへ成長して行きました。
近藤さんが入社したころは、ちょうど強化が始まったときで、毎日ハードな練習に明け暮れましたが、伊勢丹ラグビー部にはこんなポリシーがありました。それは「ラガーマンであると同時に、企業人としても一流であれ」。
「朝7時に練習してから、始業時間になると出勤、他の社員と同様に仕事をするんです。仕事が終わったらまた練習。ラグビーも仕事も1番を目指せと、監督に叩き込まれました」
なかには傷だらけの顔で売り場に立つ部員もいたそうです。しかし、ラグビー界にもやがてプロ化の波が押し寄せ、トップリーグ創設の話が浮上。ラグビーに専念できるプロ契約の選手たちがいるチームと、伊勢丹のように、社業もこなしながら練習するアマチームとでは、だんだん差が開いて行きました。
本社経営陣はラグビー部の廃部を決定。近藤さんが当時監督を務めていた伊勢丹ラグビー部は、2001年1月27日、秩父宮ラグビー場でセコムと最後の試合を戦うことになりました。
ところが……その日に限って、東京は10年に1度の大雪に見舞われたのです。グラウンドには、ふくらはぎの高さまで雪が積もっていました。「これはもう無理だな……」と諦めかけた近藤さん。2月になると会社は新体制がスタートするため、試合延期はできない状況でした。
しかし、ここで予想外のことが起こります。ちょうどその日、新しく発足するトップリーグについて話し合うため、会場のすぐ近くにある日本ラグビー協会に、各チームの監督や関係者たちが集まっていました。
彼らは「伊勢丹に試合をさせてあげよう」と、スコップを片手に秩父宮ラグビー場へ向かい、雪が降りしきるなか、総出で雪かきをしてくれたのです。
「本当にありがたかったですね……ラグビーをやっている人間は、仲間が困っていると、たとえよそのチームでも放っておけないところがあるんです」と言う近藤さん。雪かきの甲斐あって、試合は30分ハーフに短縮されましたが、何とかキックオフにこぎ着けました。
試合は0対17から伊勢丹が巻き返し、「絶対にトライを決める」と宣言していたニュージーランド出身のジョージ・コニア選手が約束通り、後半ロスタイムにトライ! 雪のなか、大歓声に包まれながらノーサイド。伊勢丹は12対17で敗れましたが、ラガーマンたちの協力で、最後まで試合をすることができたのです。
その試合を最後に伊勢丹ラグビー部は解散しましたが、当時のメンバーは、いまも堅い絆で結ばれています。ワールドカップの日本開催に合わせて、「屋上でパブリックビューイングをやりませんか?」という企画が、伊勢丹社内から自然と持ち上がりました。
さまざまな国の人が生活している街・新宿にとっても、ラグビーは共通項の多いスポーツで、新宿区も賛同。近藤さんが陣頭指揮を取り、元ラグビー部の社員たちも関係各所との調整に奔走し、開催が実現しました。近藤さんは言います。
「パブリックビューイングのスコットランド戦も、前日に台風19号が上陸して、雪のなかのラストゲームを思い出しました。でも、全員が開催に向けて力を合わせた結果、歴史的瞬間をみんなで共有することができたんです。まさに“ONE TEAM”を実感しましたね……」
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