2019年、忘れられない映画たち

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第750回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

 

『天気の子』、『アラジン』、『トイ・ストーリー4』が100億円を超える興行収入を記録するなど、邦画洋画ともに大ヒットが相次ぎ、興行収入の総計が過去最高になるであろうと予測されている2019年。

そこで今回は、2019年の映画業界を振り返るとともに、私、八雲ふみねにとって忘れられない映画たちを掘り起こします。

2019年、忘れられない映画たち

ニッポン放送「しゃベルシネマ」

良作、ヒット作に恵まれた2019年~とりわけ“忘れられない”映画は…

その昔、埼玉県人は東京都民から、それはそれはひどい迫害を受けており、通行手形がないと東京に出入りすることさえ許されず、強制送還されてしまうのだった…。

強烈なインパクトを放つ魔夜峰央の衝撃的コミックを実写映画化した『翔んで埼玉』。まさかこの映画が、37億円超えという恐るべき興行収入を記録するとは、誰も予想だにしなかったことでしょう。

埼玉のことをディスっているようで、その実態は、壮大かつ大真面目に郷土愛を謳ったエンターテインメント超大作。その土地を知る人だからこそわかる小ネタの応酬に、ニヤニヤが止まらなかった人も多かったのではないでしょうか。

実際、ご当地である埼玉県では23スクリーンでの公開にもかかわらず、27スクリーンで公開された東京を抑えて、堂々のシェア第1位! いかに地元の人々に愛された映画か、おわかりいただけるのではないでしょうか。

主人公である東京都知事の息子を女優の二階堂ふみが男装して演じたり、GACKTを高校生役に抜擢したりと、キャスティングも斬新。浮世離れした設定を大真面目に演じきった、キャスト陣の名演も見逃せません。

2019年、邦画最大級の茶番劇として、きっと多くの人の記憶に焼き付いているはず。

2019年、忘れられない映画たち

ニッポン放送「しゃベルシネマ」

2015年に本国インドで公開。公開して3年経った時点でも『ダンガル きっと、つよくなる』『バーフバリ 王の凱旋』に次ぐ世界興行成績歴代3位をキープしていたインド映画が、熱い要望に応えて、2019年、ついに日本でも公開となりました。

それが、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』。正直者でお人好しなインド人青年と、幼いころから声を出せない障害を持つパキスタンの少女。パスポートもビザも持たず国境越えをする2人旅を描いた、ハートウォーミング・ストーリー。

彼らが繰り広げる700キロにも及ぶ旅路は、波乱万丈でありながらも、どこかほのぼのとした風情。その一方で、インドとパキスタンの歴史や宗教間の対立といった社会的背景を、しっかりと描き出しています。ちなみにタイトルの“バジュランギ”とは、インドのヒンドゥー教において神様に等しい尊敬を集めている、猿のハヌマーンのこと。

価値観が多様化し、寛容さが失われつつあるこのご時世。「他人に親切に…」というストレートすぎるメッセージが、観る人の心にまっすぐに突き刺さる1作です。

2019年、忘れられない映画たち

ニッポン放送「しゃベルシネマ」

2003年に直木賞を受賞した作家・角田光代による同名傑作小説を映画化した『愛がなんだ』。仕事も友情もそっちのけで、好きになってくれない男性を一途に追いかける女性の恋愛模様を、可笑しくもビターに描いています。

ヒロインのテルコを岸井ゆきの、彼女を翻弄する男性“マモちゃん”を成田凌が演じ、恋愛映画の旗手・今泉力哉監督がメガホンをとりました。

本作が劇場公開されたのは、10連休となった2019年ゴールデンウィークの直前。大作映画が観客動員ランキングを賑わせるなか、本作は連日満席の立ち見続き。しかも観客の大多数が、10代後半から30代の女性、あるいはカップルというのもオドロキでした。

公開から3週間経ってもその勢いは衰えるどころか、上映館が増え、リピーターも増加。“2019年、女子をもっとも夢中にさせた映画”と言っても、過言ではないでしょう。

登場人物たちの恋はどれも、思いのベクトルが一方通行。胸キュンキラキラ系ムービーの真逆を行く、モヤッとした思いやザワザワとした感覚こそが、多くの女性が本作に惹きつけられる所以なのかもしれません。

「愛がなんだ」と言いながらも、「結局、愛ってなんだろうね…」と、誰かと語り合いたくなる恋愛群像劇です。

2019年、忘れられない映画たち

ニッポン放送「しゃベルシネマ」

2019年に公開された映画にまつわる事件と言えば、現在公開中の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』をもって、『スター・ウォーズ』シリーズが完結すること。そして『アベンジャーズ』シリーズが、11年の歴史に幕を閉じたことでしょう。

マーベルシリーズの完結編となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』。最強を超える敵“サノス”によって、ヒーローたちを含めた全人類の半分を一瞬で滅ぼされた世界で、アイアンマン、ソー、キャプテン・アメリカら残されたヒーローたちが再び集結。世界を救うために、史上最大の戦いに挑みます。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の壮大なプランについて、私が初めて耳にしたのは、MCU初作品である『アイアンマン』の公開時のことでした。当時はあまりのスケールの大きさに、イメージが追いつき切らなかったというのが正直なところ…。

しかし『アイアンマン2』、『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』とそれぞれのシリーズが動き出すと、徐々に「アベンジャーズ計画」への期待が高まり、2012年に『アベンジャーズ』でヒーローたちが集結したときには「なるほど、こういうことだったのか!」と興奮を覚えたものです。

とは言え、『アベンジャーズ』はあくまでも、ひとつの区切り。2019年7月に開催されたサンディエゴコミコンでは、2020年以降のマーベル映画のラインナップが発表され、新たにフェーズ4が展開します。

この先、MCUを思う存分に楽しむ意味でも、本作はしっかりと押さえておきたい映画のひとつですね。

 

<作品情報>
■翔んで埼玉
DVD&Blu-rayリリース デジタル配信中
監督:武内英樹
原作:魔夜峰央「このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉」(宝島社)
脚本:徳永友一
音楽:Face 2 fAKE
主題歌:はなわ「埼玉県のうた」(ビクターエンタテインメント)
出演:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、成田凌(友情出演)、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、益若つばさ、武田久美子、麿赤兒、竹中直人、京本政樹
©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
公式サイト tondesaitama.com

■バジュランギおじさんと、小さな迷子
DVD&Blu-rayリリース
製作・監督・脚本:カビール・カーン
出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキーほか
(C)Eros international all rights reserved. (C)SKF all rights reserved.
公式サイト http://bajrangi.jp/

■愛がなんだ
DVD&Blu-rayリリース デジタル配信中
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織、今泉力哉
原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊)
主題歌:Homecomings「Cakes」(felicity / SECOND ROYAL RECORDS)
出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、筒井真理子、片岡礼子、江口のりこ
(C)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
公式サイト http://aigananda.com/

■アベンジャーズ/エンドゲーム
DVD&Blu-rayリリース デジタル配信中
監督:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
制作:ケヴィン・ファイギ
出演:ロバート・ダウニー Jr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン ほか
(C)2019 MARVEL
公式サイト marvel-japan.jp/avengers-eg

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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