迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月28日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。新型肺炎の感染拡大について解説した。

迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

空港内ではマスクをつけた人が多くみられた=2020年1月23日午前、関西国際空港  写真提供:産経新聞社

中国での新型肺炎の死者106人に

中国政府は28日、「新型コロナウイルスによる肺炎の死者が106人に達した」と発表した。最も感染が深刻な武漢市のある湖北省では新たに24人が亡くなり、中国本土の感染者は4,500人を超えている。

森田耕次解説委員)加藤厚生労働大臣は、日本国内で新たに2例の新型コロナウイルス感染者が確認されたことを明らかにしました。このうち1人は中国の滞在歴がないバスの運転手で、今年2020年1月に2回、武漢市からのツアー客を乗せたということです。このバス運転手は奈良県に住む60代の男性です。

野村)いわゆる飛沫感染ですよね。空気で接触している人たちの間で咳やくしゃみに接すると、感染するということなのですよね。

森田)中国国内では死者が100人を超えまして、合わせて106人。湖北省で24人増えたということです。中国本土の感染者は4,515人となっています。27日、北京では50歳の男性が新型肺炎で死亡し、首都北京での死者は初めて。死者は湖北省、上海、黒竜江省、海南省などにも広がっています。世界ではカナダとドイツでも感染者が初めて確認されているという状況で、武漢市の市長は「春節や新型肺炎の要因で500万人くらいが既に武漢を離れた」と述べていまして、武漢に残っているのは900万人あまりだということです。市内への交通を遮断する前に多くの市民が移動してしまっているということですから、ますます感染が拡大するということですよね。

野村)ツアーについては制限していますが、その前に来てしまっている方もいますし、個人で旅行をアレンジすれば来ることはできます。日本の国内には武漢出身の方がたくさんいると思いますが、全員病気にかかっているわけではないのであまり厳しい目を向けることはできません。自分の立場になって考えると、海外旅行へ行って、熱が出てしまったと。でも、熱を押して見学しようという気持ちにはなってしまいます。日本でも発見された武漢からの旅行者の方が、確認される前にバスツアーに参加したりしているのです。そういうことで、今回バスの運転手の方が罹患してしまったので、いちばん大事なのは体調が悪くなったらすぐに病院へかかることだと思います。

迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

各地に対策チーム派遣  新型肺炎の〝発生源〟とみられ、閉鎖されている中国湖北省武漢市の海鮮市場=2020年1月17日(共同) 写真提供:共同通信社

武漢の日本人帰国希望者が29日から順次帰国

森田)一方で、武漢には在留邦人もいます。政府は28日夜、武漢に滞在する日本人を帰国させるためにチャーター機1機を日本から派遣することにしています。28日夕方に行われた岡田官房副長官の記者会見の様子です。

岡田官房副長官)中国側からチャーター機1機を受け入れるための準備が整ったところであります。まず第1便を本日夜、武漢空港に向けて派遣することと致しました。チャーター機は明日午前に武漢空港を出発し、羽田空港に戻ってくる予定になっております。帰国をご希望される方々が早急に搭乗して帰国できるよう、引き続き努力を致してまいります。政府としては希望者全員の帰国を速やかに実現するために、あらゆる手段を追求していく考えです。

森田)28日夜に武漢へ派遣するチャーター機は、日本時間の29日未明の午前1時ごろに武漢に到着する予定です。そして、第1陣である200人の日本人を乗せて羽田空港へ到着する方向で調整しています。帰国する日本人には2週間程度の自宅待機を求める予定です。28日朝の時点で650人が帰国を希望しているということで、武漢にいる日本人全員の早期帰国を目指す方向で、今後は別のチャーター機も手配するようです。北京の日本大使館から職員10名を武漢へ派遣して、帰国の意向調査、空港へ向かう車両の手配も進めてきたということです。また、外務省は新型肺炎の拡大防止に必要なマスクと防護服をチャーター機に乗せて武漢へ運び、緊急援助物資として提供する発表をしています。これは中国側の要請を踏まえたものだということです。

野村)今回のチャーター機には検疫官も乗りますし、お医者さんも看護師も乗って行くのですよね。そこでまずは体調のチェックが行われ、万が一症状がありそうな人については帰国後すぐに病院へ行く手配になっています。更には搭乗する前に重症化している人については、武漢での治療を促すという形になっているようなので、しっかりと確認して皆さんを安全に帰国させて欲しいと思います。

迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

春節を迎え多くの外国人観光客で賑わう秋葉原で、マスクを購入する人=2020年1月25日、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

国内では感染拡大に不安の声も

森田)入国後にも日々の健康状態の確認や、発熱や咳といった症状が出た場合には、医療機関の受診を呼びかける健康カードも機内で配布する予定になっています。できるだけ2週間程度の自宅待機を求めるということですから、戻って来られた方はあまり外へ出ない方がいいのでしょうね。

野村)ただ、武漢で心細く困っている方にとっては帰国のチャンスが与えられることは素晴らしいことなので、きちんと確認の上で帰って来て欲しいと思います。ただ、飛行場まで行けるのかどうかも不安に思っている方はいるので、中国政府にはきちんと対処して欲しいです。

森田)イギリスは過去2週間以内に武漢市からイギリスへ渡航した人について、症状が出ていなくても外出を自粛して、医者以外との接触を避けるように要請したということで、ある程度徹底した対応が求められてくるのかもしれません。

野村)バランスなのですよね。不安を抱えている日本人を国として帰って来られるように手配するのは大事なことです。ただ、日本の国内で生活している人からすれば、病気を持ち込むことも避けてもらわなければならない。知恵の出しどころなのです。一緒に乗ってくる飛行機のなかでどれだけ病状を確認できるかどうかが重要です。もう1点問題となるのは、帰った後、現在症状が出ていない人たちとのコミュニケーションをどうやって取るのか。本当に自宅待機でいいのかというところだと思います。

迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

【新型コロナウイルス 関空警戒】サーモグラフィーで乗客の体温がチェックされていた=2020年1月23日午前、関西国際空港 写真提供:産経新聞社

指定感染症への指定が閣議決定~強制入院などの対策進む

森田)チャーター機には医者1人、看護師2人、検疫官1人が同乗するということですから、徹底的にチェックして欲しいです。一方で、政府は今回の肺炎を感染症法に基づく指定感染症とすることを閣議決定しました。28日午前の菅官房長官の記者会見です。

菅官房長官)今般の新型コロナウイルスに関連した感染症を感染症法の指定感染症に指定しました。この指定によって感染が疑われる方に対する入院や検査の実施について実効性を持たせることが可能となり、感染防止、拡大防止に向けた対策に万全を期すことができると思っています。

森田)指定感染症への指定は2014年のMERS(中東呼吸器症候群)以来で5例目ということです。感染症法は感染力や致死率などに応じて感染症を1類から5類まで分類しておりまして、今回の新型肺炎のような分類されていない感染症については、政令により指定感染症とすることで危険度が高い1類から3類に準じた措置が取れます。今回は結核やH5N1型鳥インフルエンザなどと同等の2類感染症相当扱いにするということです。全国に400ある感染症指定医療機関への強制的な入院、患者に仕事を休ませたり汚染された場所を消毒したりすることができるようになります。医者は見つけた患者を保健所に報告しなければならないという義務も生じます。また、空港や港で感染が疑われる人の検査や、診察が指示できる検疫感染症にも指定しました。これについては28日夕方に厚生労働省が対策推進本部会議を開くということになっています。

野村)このことによって、例えば「お金がないから入院できません」と言っている人を強制的に入院させて、公費で治療費を支払うことができるようになります。あるいは、就業制限という形で会社へ行かないよう制限することもできます。これらが施行されることによって、国内での感染を食い止めていくことが大事なのです。ただ、気になるのは外国人です。外国人に情報がちゃんと伝わるのかどうか、外国人の方が治療を受ける病院がどこにあるのかをちゃんとわかるのかというところですよね。特にホテルではフロントの人たちにリストを配ってはいるのですが、観光地のお土産店などで急に発熱した人が出た場合、周りの人が対応できるのか。そういうところにも目配りをして、多言語対応をすることが大事だと思います。

迅速帰国対応と国内感染阻止のバランスが重要~武漢の在留邦人帰国開始へ

2020年1月20日、中国湖北省武漢で肺炎の発生の原因として特定されたコロナウイルスの発生源とみられ閉鎖された華南海鮮卸売市場近くのバス停留所で待機しているマスク着用の中国人居住者 EPA=時事 写真提供:時事通信社

悪質なデマに注意

森田)一方で、デマも出ています。「発熱した中国人観光客が逃走した」なんていう情報がSNSで流れていたり、差別的な書き込みがあったり。お店でも妙に慎重になり過ぎてしまって「中国人は入店禁止」という貼り紙を出しているところもあります。こうなると、過剰ですよね。

野村)結局、本当に大事な予防ができなくなってしまって、狼少年現象になります。私も電車のなかで咳をしたら、みんな私の方を見ました。気持ちが高ぶっている感じがします。

森田)これはインフルエンザと同じように手洗いうがい、マスクの着用という対策が効くと考えられていますから、あまり恐れ過ぎずに正しい対策を取ることに尽きると思います。

番組情報

ザ・フォーカス

火曜〜木曜 18:00-21:20

番組HP

錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。

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