中国政府は“戦時体制”~新型肺炎は日本経済にもダメージ
公開: 更新:
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月27日放送)に産経新聞客員論説委員・国際医療福祉大学の山本秀也が出演。新型コロナウイルスの被害状況と経済への影響について解説した。
新型肺炎の被害拡大~影響も世界規模
新型コロナウイルスによる肺炎の感染者増加が止まらない。中国政府は27日、拡大を続ける新型コロナウイルスによる肺炎の中国本土での死者が80人、発症者が2744人に増えたと発表した。日本を含むアジアや米国、欧州などにも感染が広がっており、日本政府は武漢市の日本人をチャーター機で帰国させる方針を明らかにした。
森田耕次解説委員)中国本土だけでなく日本を含むアジア、アメリカ、ヨーロッパなどにも感染が広がっています。中国政府は27日、肺炎の世界規模での拡大を阻止するために、海外への団体旅行の禁止措置を発動しました。また、中国政府は春節の連休を当初1月30日までとしていたのを、2月2日まで延長することを企業や学校に通知しています。春節の休暇の延長は異例ということです。中国の李克強首相は27日、新型肺炎の状況を視察するため湖北省武漢市に到着しました。習近平指導部としても、対策に万全を期す姿勢を示す狙いと見られています。どんどん日を追って拡大していますね。
山本)伸び方が激しいので、驚いています。
森田)中国政府としては李克強首相も到着したようですし、対策を取り始めている状況ですね。
中国の対応は戦時体制
山本)いまの動きは明らかに戦時体制ですね。実際にこれは人民戦争である、人海戦術を使って戦う戦争だという号令をかけていますので、かなり本腰を入れたのだと思います。習近平政権にとっては、危機管理が問われる最初のケースになってしまいました。
森田)海外への団体旅行も禁止という措置になりました。
山本)すでに武漢市での封じ込めは抜かれて失敗した状態になっていますので、足元の湖北省にも患者が広がっています。これは相当厳しい対応を取ることになると思います。
森田)春節の休暇も延長するということですが、どこへも出かけられないでしょうね。
山本)出かけられないし、故郷に帰った人は元いた就業地には戻れなくなるでしょう。SARSの騒ぎのときには、旧正月を挟んで情報を隠ぺいしてしまった結果、人の大移動で全国に感染が広がってしまいました。今回は同じ事はやらないということを示しているのだと思います。
森田)感染源は、武漢の海鮮市場で売られていた野生動物と見られていますが、まだ何の動物か特定できていないようですね。
山本)持っている動物はいるのだけれど、それがなぜ種の壁を越えて人まで来たのかということはわかっていないようです。
森田)急ピッチで病院を作っていますね。クレーン車が大量に出ている映像もありました。
山本)SARSのときにも北京郊外にプレハブの病院をつくりました。そうしないと、いまは武漢市内の病院を総動員しても患者さんが溢れてしまっていて、点滴を受けるだけでも1~2時間待ち。それでも貰えない人が出ている状態ですので、これは必要でしょう。
日本の対応~指定感染症に指定へ
森田)日本の対応ですが、安倍総理は27日の衆議院予算委員会で今回の肺炎について、28日の閣議で感染症法上の指定感染症に指定する方針を示しています。
安倍総理大臣)感染者に対する入院措置や、公費による適切な医療等を可能とするため、今般の新型コロナウイルスに関する感染症を、感染症法上の指定感染症等に明日(28日)の閣議で指定する方針です。
森田)感染症法に基づいて患者の強制入院、就業制限もできるようになります。指定感染症は、生命や健康に深刻な被害を与える恐れのある緊急時に迅速な対応をするために指定するものであり、SARSと同様の2類感染症ということで、法改正を経ずに可能となります。全国におよそ400施設ある設備、整備を整えた指定医療機関への強制的な入院ができます。就業制限や、汚染された場所の消毒もできるということです。患者を見つけた医師には報告が義務付けられます。検疫感染症にも指定し、空港や港で感染が疑われる人が見つかれば、法律に基づいて検査や診察を指示できるようになるということで、28日の閣議で指定感染症にするということですね。
山本)必要な措置でしょうね。
森田)一方で、日本人の武漢市からの帰国のために、チャーター機などを複数回飛ばす予定になっているようですが、いまのところ武漢にはおよそ560人滞在していることが確認できている、と茂木外務大臣が言っています。
山本)当然オペレーションは考えているのだと思いますが、武漢はもともと古い町が3つ集まってできた都市なのです。つまり日本人が多くいるのは漢口だと思いますが、いろいろな地区へ川を越えて回らなければいけないので、邦人を空港に集めるだけでもかなりのオペレーションだと思います。
森田)飛行機を飛ばすのは簡単でも、市内の日本人をどうやって空港まで送り届けるのか。
山本)タクシーもバスも、地下鉄もありませんからね。特別に仕立てたバスなどで回ることになるのだと思いますが、これだけでも簡単な話ではないですね。
森田)東京都は27日に対策会議を開いて、チャーター機で日本人が帰国した際に、希望すれば都立病院などで健康相談を実施する方針を決めたということです。日本に戻って来れば、移動には東京都の観光バスを活用するようです。
山本)当然、潜伏期間がありますし、いままで報告されている例だと発熱などの自覚症状がないうちに、深刻な病状に至ったケースもあるようです。帰られた方も、ご自身や周りのご家族を大事にしていただきたいですね。
隠ぺいしようとした結果、感染が拡大した
森田)症状がなくても感染している方もいるようです。よくわからないのは、実際に亡くなった方がどういう年齢層で、持病があるのか。初期に出た情報では全体の6割近くが、感染前から心臓や腎臓などの持病があったと中国側は発表していたのですが、それはまだ死者が17人くらいのときでした。それがいまは80人になって、どのように亡くなっているのかもわかりません。
山本)中高年が多いという傾向ですが、36歳の男性で亡くなった方もいるようです。どうしても情報の出し手が、当初は抑え込もうとした形跡が明らかにあります。最初は武漢や湖北省の地方当局が対応に当たったのですが、これが大間違いだったのでしょう。10日以上患者の数が伸びていない時期があり、この間に疑う声が飛び始めて、1月後半になって患者が増え始めたため、習近平国家主席が大号令をかけて大わらわになりました。
森田)1月3日以降、感染者は出ていないという情報がずっと続いていた時期がありましたね。
山本)1月3日に44人で出して、それからしばらくだんまりで、1月11日に41人。月半ばまで数字が変わらず、その間にツイッターを見ていますと、病院のお医者さんが病院幹部から「上に報告するな」と言われたという話も飛び交っていました。
中国経済には大打撃~日本の観光業、現地日系企業にも打撃
森田)中国の上海市ですが、27日に上海市内の企業を2月9日まで休業させる方針を決定したと発表しました。現地の日系企業にも大きな影響が出ると見られています。電気などのインフラ関係や、スーパーなどの食品業は対象外とされています。
山本)もともと中国経済は米中貿易摩擦の影響でかなり低速でしたが、春節の消費に明確な影響が出ています。北京の地方紙によると、旧正月の映画館の売上が平年の100分の1くらいまで落ちています。
森田)映画館自体を開けていませんものね。
山本)一部開いているところにも人が来ていないので、こういう状態になったのでしょうが、これはどんどん広がって行きます。当然、日本のインバウンド商戦にも関わって来ます。
森田)観光客が期待していたツアー会社や、はとバスなども中国観光客のキャンセルが出ているようですから、日本の観光業に影響が出ます。そして、日本の大手企業にとって中国の事業は収益の柱です。
山本)2019年の統計では、来日外国人消費の約37%が中国本土からのお客さんのようです。これが減るということは、全体のなかで大きなパイが減りますよね。
森田)特に日本の場合、地方経済には中国人観光客の需要を期待しているところがあります。
山本)それを見込んでいますからね。
森田)地方経済にも大きな影響が出ます。消費税増税の負担が大きいなかで、中国の肺炎の影響が日本経済にも大きな影響を及ぼしてしまいます。27日の東京株式市場の日経平均株価は、一時500円以上安くなったという情報も入っています。西村経済再生担当大臣は「経済への影響をしっかりと見極めながら、経済運営に万全を期して行きたい」と語っていますが、影響が出るのは仕方ないということですね。中国経済はどうなのでしょうか、2020年は成長率が6.1%くらいだと言われていましたけれども。
山本)もう少し下がるのですが、統計の部分は統計の取り方を変えているので、数字自体は少しいじるのでしょう。実態経済への打撃はダブルパンチですね。
森田)習近平指導部にとっても、肺炎を抑え込んで経済への影響が出ないようにしなければいけないということですね。
山本)政治日程的には、3月の頭までにある程度抑え込んだという成績が欲しいところだと思います。全人代(全国人民代表大会)が開幕しますので、政府の対応が万全だったということを言いたいわけです。そこまでに言い切れる材料が集まるかどうか。ですから、彼らは「戦いだ」と言っているのです。
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。