納得できる情報提供が足りない~政府の対コロナウイルス基本方針
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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(2月25日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。政府が発表した新型コロナウイルス対策の基本方針について解説した。
新型コロナウイルス対策~政府の基本方針決定
政府は、新型コロナウイルスの感染が国内でさらに拡大する事態に備え、対策本部会議を開き、総合的な基本方針を決定した。基本方針では、患者が大幅に増えた地域では一般医療機関で患者を受け入れる方針を示した一方で、症状が軽い場合、自宅療養を原則としている。
森田耕次解説委員)新型コロナウイルスによる肺炎が国内でさらに拡大する事態に備えて、政府は25日に対策本部会議を開きました。この席で安倍総理大臣は「いまがまさに極めて重要な時期だ」と述べました。
安倍総理大臣)いまがまさに感染の流行を早期に終息させるために極めて重要な時期となります。このような状況を踏まえ、国や地方自治体、医療関係事業者、そして国民が一丸となって新型コロナウイルス感染症対策をさらに進めていくため、今般、政府として基本方針を取りまとめました。
森田)25日に決定した総合的な基本方針によりますと、日本国内では「患者の小さな集団は見つかっているものの、大規模な感染拡大が起きている地域はない」と現状を分析しています。その上で、具体策としては「患者の集団発生を早期に把握して、拡大を防ぐこと」と挙げています。「近い距離で多くの人と会話する場合は、咳やくしゃみがなくても感染する恐れがある」と指摘しまして、「感染しても症状のない人や軽傷の人が多いけれども、インフルエンザよりは重症化のリスクが高い」という見解を盛り込んでいます。今後、患者が大幅に増えた地域では、「一般の医療機関でも診療時間や通り道を分けるなどの対策を取った上で、感染が疑われる人を受け入れる。一方で、重症化した患者を優先して受け入れる医療機関をあらかじめ決める」などのことを自治体に求めて、役割分担を明確化するということです。加藤厚生労働大臣は25日午後の記者会見で、次のように述べています。
加藤厚生労働大臣)これまで、「全国一律でのイベントの自粛要請を行うことはない」と申し上げてまいりましたが、今後は患者の集団が確認された地域などでは、関係する施設やイベントなどの自粛を検討していただくこともお願いしてまいります。この基本方針では、いま講じている施策、そして今後の状況の進展を見据えて講じていくべき施策を総合的に整理いたしました。まさにいまが今後の国内での健康被害を最小限に抑えるため、極めて重要な時期であります。どうか国民の皆様方のご協力を重ねてお願い申し上げます。
もはや感染拡大を防ぐ段階ではない
森田)また、北海道知事からの要請を受けまして、患者が急増している北海道の現地に感染症の専門家らによる対策チームを派遣したことも明らかにしています。医療体制を整備して、重症者や死亡者を可能な限り減らそうという方向性を明確にしようとしているのでしょうか。
野村)そうですね。私たちはいま重要な局面にいるわけですが、この状況のなかでいちばん大事なポイントは、感染のピークを大きな高い山にしてしまうと、病院がパンクしてしまいます。病院がパンクしてしまうと、武漢で起こったような出来事が起こって、治る人も治せなくなってしまいます。ここがいちばん避けなければいけないポイントです。その山をなるべく小さくして、先送りにしていく。そのための施策なのですよね。ただ、マクロの観点から見れば政府の方針は正しいと思うのですが、病気になった人や家族が肺炎になって心配している人からすれば、「家にいなさい」と言われるのが本当に納得できることなのかどうか。そこで安心してもらえるような情報提供をしっかりしていかないと、不安が蔓延してしまう危険性があります。政府の方針が正しくて、大して重症化もしないので家にいてもらうことが正しいとしても、納得感がなければパニックになります。納得させるような情報提供が今回は足りなかったと思います。
森田)そもそも、「ダイヤモンド・プリンセス」でも700人近い感染者が出ていますから、関東周辺で治療できる医療機関でもベッドが埋まりつつあるという声も聞かれます。
野村)感染することは前提なのですよね。「感染する人を発生させないという状況ではない」と発表していて、いつでも誰でも感染すると。その感染をどこまで食い止めるのかが重要で、感染した方のなかで重症化したり亡くなったりする方を減らすことに力点を置くことにしたということです。ただ、自分の身内が肺炎になって高熱が続いているときに、PCR検査がなかなかできない状況が起こると、みんな不安になってしまいます。今回打ち出して欲しかったのは、検査体制の強化をどうしていくのかということを、国民に対して明確な道筋を示すことでした。
治療が必要な人が治療を受けられる体制づくりへ
森田)加藤厚生労働大臣は、ウイルス検査について「公的医療保険の適用対象にする」ということは言っていまして、これまでは公費負担により人員や装置が限られていたのですが、保険適用にするということで「医療現場で診断や治療のための検査が広くできるようになる」と言っているのですが、実際に医療機関でできるのかどうかということですよね。
野村)問題点は2つあって、1つは保健所経由で許可してもらわないと検査を受けられないという仕組みが、いつの時点でお医者さんがインフルエンザのように検査できるような形に持っていけるのかどうかということです。そのためには行政を通じた仕組みをどこかでチェンジしていかなければいけないのですが、その前提は検査体制のキャパシティの問題です。これが足りないから出口が少ないので、なかなかこの仕組みを変えられない問題があります。民間をどれくらい活用していくかというところで、もう少し門戸を開いていかなければいけないと思います。
森田)25日の新しい情報では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の80代の乗船者が入院先の医療機関で亡くなり、これでクルーズ船の死者は4人ということになりました。ウイルスに感染していたかどうかはわかっていません。それから、「ダイヤモンド・プリンセス」から下船した人のうち、発熱などの症状がある人が28人いることを厚生労働大臣が発表したのですが、これは健康状態のフォローアップ調査のなかで判明したということです。それから、長野県では県内在住の60代の会社役員男性が感染したことが判明し、長野県内での感染確認は初めて。熊本市では60代女性の感染が確認されまして、熊本県内の感染確認は5人目ということです。各地に広がっている状況が続いていますね。
野村)実際に、重症にならずに軽症で済む場合、風邪と同じような部分もあるわけです。風邪を引いた人の人数を数えてどうなるのだ、という問題もあるわけですよ。しかし他方で、これにかかったことによって重症化して亡くなる方がいるわけです。その方を一刻も早く見つけ出して、他の人が不安になって病院に殺到して、いちばん大事な人が治療を受けられない状況が起こらないようにするために、今回の対策を示したわけです。このとき、いろいろな不安や文句、過去のやり方に対する批判もたくさん出てきています。それは大事なのですが、それよりもいま我々がどうやって苦しい状況を乗り越えていかなければいけないのか。それはみんなで工夫しなければいけないことですよね。必要な情報にはどんなものがあって、どれを出して欲しいのか。さらには検査を受けたいのであれば、検査体制に力を入れるべきではないのか。あるいは病院に行かなくていいのであれば、行かなくてもいい人と行くべき人をどうやって見極めるのかをきめ細やかに示していく。それはこれからやっていくのだと思いますが、その積み重ねでとにかくみんなで前に向かっていかなければいけないから、いまが頑張りどころだと思います。
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。