感染症が「災害」に含まれない日本~急がれる新型コロナウイルス感染症対策の法整備

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(3月3日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。新型コロナウイルス感染症対策の法整備について解説した。

感染症が「災害」に含まれない日本~急がれる新型コロナウイルス感染症対策の法整備

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針について記者会見する加藤勝信厚生労働相 撮影日:2020年02月25日 写真提供:産経新聞社

厚生労働省が保護者などへの収入補償を発表

厚生労働省が保護者への休業補償、独自の有給休暇を設けて働いている保護者に取得させた企業には助成金を支給することを発表した。1日の上限金額は8330円。

森田耕次解説委員)正規、非正規問わず収入を補償するということです。フリーの人にも広げると言ったようですね。

野村)どういうルートでその方々にお支払いするのか、そこが考えどころだと思います。

森田)後はベビーシッターの利用料なども、国が企業に補助しているベビーシッターの利用料も3月に限って、これまでは1世帯あたり最大5万2800円の上限を、3月に限り最大26万4000円に引き上げることにもなっているようです。

感染症が「災害」に含まれない日本~急がれる新型コロナウイルス感染症対策の法整備

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、会見する加藤勝信厚労相=2020年2月17日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

日本の法整備の不備と縦割り行政

野村)最初聞いたときには何の補償もないという話がありましたが、いまはかなりいろいろな制度を整える方向に向かってきています。いまいちばん大事なのは、抜けているところがないかどうかです。同じように困っておられるところで、同じ不利益に対して補償が平等に行われているかということを点検しなければいけません。最大の問題は、日本はアメリカに比べるとインフルエンザや疫学的な病気について、災害のなかに含めるという考え方がなかったことです。アメリカは、自然災害と疫病などの感染症を「災害」という概念ひと括りにしているのです。だから、災害対策基本法や災害補償法といったものがワークするようになっているのですよね。それを統括するための役所として、CDCという連邦の役所が設けられていて、自然災害とは別に感染症に対してきちんと管理するものがあります。日本は、災害は自然災害だけなのですよ。自然災害については対策基本法もあるし、災害補償もあります。しかし、こういった感染症については災害以外の話になっていて、法整備がほとんど整っていないのです。新型インフルエンザが広がったときには、新型インフルエンザ対策特別措置法だけをつくったのです。

森田)これを改正しようということで、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正を検討しているようです。いまの新型インフル特措法は政府が緊急事態宣言を発令したら、都道府県知事が外出禁止や学校の休校、映画館などの公共施設の利用制限を要請できる内容ですよね。

野村)国会でもいろいろな議論をしていますが、「何の法律の根拠もないのに何でできたのだ」という批判があります。しかし、もともとの法律に不備があるのですよ。1つには、縦割り行政。つまり、何だかんだ言っても、災害では国土交通省などが中心になります。それに対して、疫病関係や感染症の話になると、厚生労働省です。こうなると、1つの横串を入れて議論することがまったくできないのです。こういった弊害が法整備のところでおろそかになってきて、部分的に新型インフルエンザにだけ法律をつくってしまったのです。今回は、インフルエンザとは感染の仕方が違うでしょう。だから、インフルエンザのときに用意している対策ではなかなかうまくいかなくて、クラスターの部分を封じ込めにかかるための対策は新型インフルエンザの特別措置法のなかには入っていないわけです。だからこそ、違う病気のルールを当てはめて類推適用するわけにはいかないから、法整備が急がれているということです。

森田)新型コロナウイルスに対する特措法を、早急につくらなければいけないということですね。

野村)インフルエンザの特措法を改正して適用できるようにするということなのですが、根本は、感染症がパンデミックのような形で広がるのは、一種の災害なのですよ。この災害に見舞われているという意識を持って、被害に遭った方々を補償したり、そのための体制をつくったりすることが教訓だと思います。

感染症が「災害」に含まれない日本~急がれる新型コロナウイルス感染症対策の法整備

新型コロナウイルス感染症対策本部で発言する安倍晋三首相(手前)。感染拡大を防止するため、全国すべての小中高校や特別支援学校を3月2日から休校とするよう要請すると表明した =2月27日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

憲法に非常事態条項をつくるという意見~なぜ憲法なのか

森田)自民党内には「憲法を改正して緊急事態条項をつくればいい」との声もあります。

野村)これは、今回特措法ができると「法律ができたのだから緊急事態宣言なんていらないじゃないか」「法律をつくってやればいいことで、憲法に条項はいらないのだ」という議論になりそうですが、憲法における緊急事態条項はまったく別次元の問題で、例えば感染症が本当に蔓延してしまって国会が開けない、あるいは官邸も機能しないときに、誰が指示を出してやっていくのかを発令するようなものです。あるいは戦争が起こって、テロリストが国会や官邸を占拠してしまったときにどうするかという次元の問題なので、法律にはとても書けません。それが必要かどうかは、また別途考える必要があると思います。

森田)こういうときに憲法を改正して、緊急事態条項を入れるという、レベルが違うのですね。

野村)逆に言うと、特措法でできるから条項がいらないという議論も安易だし、一足飛びに憲法改正議論だという意見も飛躍し過ぎていると思います。

森田)新型コロナウイルス対策の法案をめぐっては、安倍総理大臣と野党各党の党首が4日の夕方に与野党党首会談を開くことになりました。

番組情報

ザ・フォーカス

火曜〜木曜 18:00-21:20

番組HP

錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。

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