行定勲監督、時代ごとに日本映画界に送り込んで来た“風”

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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第815回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

『GO』(2001年)、『北の零年』(2005年)、『ナラタージュ』(2017年)など、時代ごとに日本映画界に新しい風を送り続けて来た行定勲監督。50歳を過ぎ、映画監督として円熟期を迎え、今後の活躍がますます期待される映画監督のひとりです。

そこで今回は、行定勲監督のいまこそ観てほしい名作4タイトルをご紹介します。

行定勲監督、時代ごとに日本映画界に送り込んで来た“風”

※写真はAmazonより

隠れた名作からコメディまで…恋愛映画だけじゃない行定勲監督作品の魅力

海難事故で行方不明になった女性の葬儀に出席した、かつての同級生や恋人たち。彼らの回想から、やがて浮かび上がって来る死者の想いを描いた青春群像劇『ひまわり』。

『GO』でその年の映画賞を総なめすることになった行定勲監督による劇場用映画第2作(※)にして、初の劇場公開作品であり、私、八雲にとっては、数ある行定監督作品のなかでは常に心に残り続けている1作です。

現実と幻想、現在と過去を行ったり来たりしながら初恋の記憶を辿って行く物語は、ノスタルジックかつ叙情的。改めて本作を観ると、細部までこだわり抜いた行定勲監督の瑞々しい演出力に驚かされることでしょう。

主演の麻生久美子の美しさはもちろん、映画やドラマで活躍するベテラン俳優たちの若いころの姿を楽しめるのもお宝ポイントですよ。

(※:処女作の『OPEN HOUSE』は2003年公開)

行定勲監督、時代ごとに日本映画界に送り込んで来た“風”

※写真はAmazonより

あまりにも切なすぎる“純愛”に日本中が涙した大ヒット作『世界の中心で、愛をさけぶ』。“セカチューブーム”なる社会現象も巻き起こし、いまなお“泣ける映画”として人気が高い感動作ですよね。

漫画、テレビドラマ、ラジオドラマ、舞台にもなったロングセラー小説を実写化した映画版では、原作ではあまり語られていない大人になってからの主人公・朔太郎をフィーチャー。

“現在”と“朔太郎の回想(アキとの初恋の思い出)”というふたつの時間軸を交錯させることにより、過去の甘く淡い恋と、現在の愛との葛藤を美しく描き上げました。

原作では止まってしまっていた“時間”を動かすことによって、甘酸っぱい青春時代をより輝かせる。長澤まさみの出世作として有名な映画でもありますが、行定勲監督の手腕が随所に光る1作としても見応えがありますよ。

行定勲監督、時代ごとに日本映画界に送り込んで来た“風”

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大阪の団地に暮らし、大家族の温もりに包まれた生活を送りながらも、いつも不満だらけの小学3年生・渦原琴子。実は孤独に憧れている少女の成長を笑いと涙で綴った『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』。

西加奈子の人気小説を映画化したもので、当時、国民的人気子役だった芦田愛菜が映画単独初主演を務めています。

バリバリの大阪弁で毒づくダークヒロインという、これまでにないユニークなキャラクターを見事に演じきった芦田愛菜。行定監督と言えば、俳優・女優の持つ新たな魅力を引き出すことで定評がありますが、本作でも国民的スターの新たな一面を開花させています。

子どもの世界を描いた作品でありながら、大人になるとついつい忘れてしまいがちなことを思い出させてくれる、ほっこりとしたドラマです。

行定勲監督、時代ごとに日本映画界に送り込んで来た“風”

ニッポン放送「Tokyo cinema cloud X」

そして、行定勲監督の最新作となるのが、『劇場』。

「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を、主演・山崎賢人、ヒロイン・松岡茉優で映画化。劇作家を目指す主人公の永田と、それを必死に支えようとする健気な恋人・沙希の生涯忘れることのできない7年間の恋愛模様に迫ります。

映画監督でありながら舞台の演出も手がけている行定勲監督は、原作小説を手にしたとき、「あまりにも身に覚えがある場面ばかりで胸をかきむしるような想いで」読み、この恋愛小説の映画化を熱望したとのこと。

これまで数多くのラブストーリーを手がけて来た行定監督による、令和の時代の新たな恋愛映画です。

 

<作品情報>

■ひまわり(2000年公開)
DVDリリース中
監督:行定勲
原案協力:樽谷春緒
脚本:佐藤信介、行定勲
音楽:朝本浩文
出演:麻生久美子、河村彩、袴田吉彦、マギー、粟田麗、土屋久美子、ひふみかおり、ボブ鈴木、戸田昌宏、光石研、北村一輝、津田寛治、堺雅人、田中哲司

■世界の中心で、愛をさけぶ(2004年公開)
DVDリリース中 デジタル配信中
監督:行定勲
原作:片山恭一「世界の中心で、愛をさけぶ」(小学館刊)
脚本:坂元裕二、伊藤ちひろ、行定勲
主題歌:平井堅「瞳を閉じて」(デフスターレコーズ)
出演:大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來、山崎努

■円卓 こっこ、ひと夏のイマジン
Blu-ray&DVDリリース中 デジタル配信中
監督:行定勲
原作:西加奈子「円卓」(文春文庫刊)
脚本:伊藤ちひろ
出演:芦田愛菜、丸山隆平、八嶋智人、羽野晶紀、いしだあゆみ、平幹二朗

■劇場
公開時期については、公式サイトをご確認ください
監督:行定勲
原作:又吉直樹「劇場」(新潮文庫)
脚本:蓬莱竜太
音楽:曽我部恵一
出演:山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、上川周作、大友律、井口理(King Gnu)、三浦誠己、浅香航大
(C)2020「劇場」製作委員会
公式サイト https://gekijyo-movie.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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